怒涛の佐賀でした(その1)

朝9時起き。11時前に出発。西日暮里駅の立ち食いそばを食べて、羽田へ。今日(?)から羽田空港に国際線が就航するとかで、新しい駅ができている。それにしてもいつも思うのだが、なんでモノレールの車内やアナウンスで、「ターミナル1はJAL、ターミナル2はANA」と一発で判るようにしないんだろう? この数年ずっと変わってないのに。日本人はともかく、外国人は不安だろうな。佐賀行きの飛行機は小さめだが、満席だった。


2時過ぎに佐賀空港到着。唐津古書店〈西海洞〉の増本さんが車で迎えに来てくださる。増本さんとは昨年の「ブックオカ一箱古本市で出会い、その後メールをやり取りしてきた。佐賀に行くことを伝えると、知り合いの古本屋に声をかけて、古本について語り合う一夜をセッティングしてくれたのだ。その前に市内の古本屋に案内してくれることに。県庁の辺りを走っていると、道沿いにやたらと古い建物が目に入る。この近くに、明日の一箱古本市の会場となるエリアがあるそうだ。


住宅街の中にある一軒家で車は止まる。ココは〈坂田賛化堂〉東佐賀店といって、80代の店主がやっている。といっても、店はほとんど倉庫に近く、営業時間もまちまちだという。幸い今日は、店主のおじいさんがいらした。外に坐り込んで、何やら本をいじっていた。中は店舗というよりフツーの家みたいだが、靴のまま上がる。わずかな隙間を空けて、棚が林立している。本はかろうじて棚に収まっているが、店主が座る机の前の床には、エロ雑誌などが散乱している。店主も増本さんもそれを踏みつけて移動している。ジャンルごとの整理などされてないので、最初は目が付いていかなかったが、しばらく見るうちに面白くなる。とはいえ、値段が付いておらず店主に聞くしかないので、あんまり気楽に抜き出せない。30分ぐらいかけて見て、花森安治装丁の南川潤『掌の性』(美和書房)、ヒチコック選『私が選んだもっとも怖い話』(徳間書店)、『郷土史に輝く人びと 森永太一郎・黒田チカ』(佐賀県青少年育成県民会議)、日野康一『KUNG FU! ドラゴン大全集』(芳賀書店シネアルバム、カバー欠)を選ぶ。値段は1冊300〜500円といったところで、適価だった。森永製菓の森永太一郎は佐賀出身。ほかにもグリコの江崎利一も佐賀出身で、菓子産業が盛んな土地だと教えてもらう。


次にその〈坂田賛化堂〉の県庁前店へ。さっきのおじいさんの娘さんが店主。地方都市らしい間口の広い店。その近くの骨董屋兼古本屋もちょっと覗く。そのあと、〈洋学堂書店〉へ。東京でも知られている洋書や会計学文献の古書店で、店売りはせず、通販専門だ。自社ビルに入れてもらい、書庫を覗かせてもらう。店主の小宮さんは〈石神井署林〉の内堀さんと大学時代の同人誌仲間だったという。目についた『冒険世界』増刊の「明治書生気質」号(明治42年10月)を安く譲っていただき、また、佐賀出身の『劇作家三好十郎』(書肆草茫々)を頂戴する。後者には小宮さんや〈三月書房〉の宍戸恭一さんが寄稿されている。


そこから車は一路、北へ。どんどん山のほうに向かっていく。古湯温泉の近くにある貸別荘に集まることになっているのだ。まずは温泉でひと風呂浴びてからという予定が、遅くなったので、増本さんがほかのメンバーに電話するが、「いまから博多を出ます」とか、「途中で迷ってます」という返事ばかりで、時間通りにたどり着いたひとがいないようだ。「古本屋はこれだから…」と増本さんは苦笑している。けっきょく温泉センターに着いても、だれとも会えず、外で待つ増本さんを残して、ぼくひとり温泉に入らせてもらう。ココのお湯はびっくりするぐらいぬるい。それで隣の温度が高い方に入ったが、地元の人はぬるいほうで隣の人と話しながら何十分も浸かっていた。風呂からあがると、やっと頭数がそろったということで、さらに山のほうにある貸別荘へ移動。それでも、ひとりがまだ迷っていたり、昼間一度来たという増本さんが夜で目的地が分からなくなったりと、あれこれあった末にたどり着く。なにしろ、携帯が圏外になっているという場所なのだ。


ログハウスみたいな貸別荘に入り、ベランダに椅子を並べて、食事の準備。炭火をおこして佐賀牛や豚肉を焼いたり、モツ鍋をつくったり。今日のメンバーは、増本さんをはじめ、博多の〈徘徊堂〉、〈クレアブック〉、香椎の〈あい書林〉、長崎の〈あ〜る書房〉、宮崎の〈叢林館〉という6人の古本屋さんとぼく。ぼくが面識があったのは徘徊堂のMさんだけだが、話しているうちに打ちとける。みなさんの年齢も経歴も性格も、店の専門や形態もそれぞれ異なるが、市場でしょっちゅう顔を合わせる仲だそうで、シビアな話からしょうもない失敗談まで話は尽きない。お互いがお互いの才能を認め合っている様子が、見ていてとても気持ち良かった。ぼくもけっこう突っ込んだ質問をさせてもらったが、真面目に答えてくれた。ビールから焼酎、日本酒へと進み、気づいたら2時前に。さすがに外気も冷え込み、ちょっと気持ち悪くなってしまった。片付けも手伝わずに、先にベッドに寝させていただく。こうして佐賀の一日目は古本尽くしで終わったのだった。