怒涛の佐賀でした(その3)

朝8時起き。外は雨の様子。荷物をまとめてからチェックアウトし、傘を買って外に出ると、思っていたよりもつよい雨。旅行のときはホテルで朝食にせずに、近所で喫茶店を見つけてモーニングを食べることにしているので、今日もそうしようと歩きだす。が、駅前大通りを何分歩いても、まったく開いている喫茶店が見つからない。大通りなのに、火事で焼けたまま放置しているビルは見つかったけど。ますますスゲエ街です、佐賀は。ヨコの方に入ってみるも、やっぱりナニもない。昔ながらの喫茶店が見つからないんじゃなくて、チェーン系カフェもファストフードも、とにかく朝から営業している店が一軒もないのがすごい。日曜日ということもあるが。あとで聴いたら、佐賀には「喫茶店でモーニング」という習慣がまるでなく、モーニングを出したら受けるとやってみた店もつぶれたそうだ。大雨のなか、ずんずん先の方に歩いていってしまい、気づいたら佐賀城跡まで来ていた。しかたないので、タクシー拾って中心部に戻る。



昨日の一箱古本市の会場近くの〈エスプラッツ〉という複合ビルにも喫茶店とかなく、隣接したアーケードも真っ暗。昨日行った喫茶店は日曜もやってたはず、と行ってみれば、11時開店。完全に途方に暮れる。それで、まだ集合時間には早いけど、「656広場」に行ってみる。雨の場合は、ここで一箱古本市をやることになっている。スタッフの皆さんが必死でテントを建てたりしているが、屋根はあるものの、風がつよいので横殴りの雨が激しく降ってくる。一時はこれは中止だろうなと諦めた。前の肉屋が「佐賀牛のカレーパン」というのがウリなので、それでも食べてしのごうと思ったら、「配達中なのでつくれません」という返事。どこまでもついてない(30分後にやっと買えた。アツアツでうまかったけど、380円はイイねだんだ)。しかし、出店者らしき人たちは集まって来るし、ステージでは子どものワークショップが始まるしと、決行の様子なので、一箱用の箱を使わずに、テーブルに本を並べて売ることに。案の定、客はまったく来ない。


トークの打ち合わせがあるので、店番を頼み、神社の方へ。〈一休軒〉が開いていたので、ふらふらと入る。相当昔からやっている店だろう。L字型のカウンターと奥にテーブルが数席の店。メニューはとんこつラーメンとおにぎり・いなり寿司だけ。550円だったかな。朝から冷え込んでいた腹に、温かい麺とスープがしみわたる。この味、好きだなあ。


川沿いに歩くと、3スクリーンの映画館が空きビルのまま残っており、そのすぐ近くに、やっぱり3スクリーンの映画館だったビルの3階に、〈シアター・シエマ〉という映画館がある。エレベーターを降りると、そこは廊下でチラシ置き場になっている。奥に入ると、右手にバーカウンター、左手奥にはテーブルがある。映画館のロビーにしてはずいぶん広いしシャレている。ココを運営している芳賀英行さんに挨拶し、しばらく話す。福岡を中心に映画館以外の場所での上映活動を行なう「69′nersFILM」を設立し、2007年にこのシエマをつくったのだという。見た目は若いお兄さんだが、バイタリティあるヒトなのだ。いまは2スクリーンで一日数作品を上映しながら、真ん中のスペースで様々なイベントを行なっている。お金がないために、以前の設備を最大限に生かしている。入り口のところは薄いカーテンで仕切っていて、これは消防法上で勝手に直せないためだが、お客さんがトイレに行くために勝手にそれを空けて入っていくのに、苦笑していた。


博多から車でやって来た「ブックオカ」実行委員の藤村興晴さんも合流。彼は自他共に認める晴れ男で、二年前のブックオカ一箱古本市も開始直前に雨がやんでいる。それをしきりに自慢するのがなんかむかつくが、たしかに彼が来てから1時間ぐらいで雨が小ぶりになり、トークの最中には日まで差してきた。


2時前に会場に行くが、スタッフと一箱古本市の店主がいるほかは、ステージ前の椅子には誰もいない。いや、子どもが4、5人遊んでいて、ステージの上を走りまわっている。まさに、売れない芸人の営業みたいな感じになって来た。それでも、西海洞の増本さんや、ブックオカ関係の女性、明らかにスタッフのサクラ(だって、後ろの方で「おーい、サクラでそこ座っとけや」とデリカシーのない大声で指示が飛んでたもん)など20人ほど。こちらに背を向けている一箱の店主さんも勝手に聴衆に勘定すると、40人ほどが集まった。トークの司会は藤村さんにお願いする。芳賀さんが佐賀でシエマをはじめたきっかけから、ブックマルシェ佐賀について、ぼくがもっと佐賀の街の現状を生かしたイベントにしてはと要望を述べた。そのあと、一箱古本市ブックオカの話をして、最後にいまの自分につながっている本を紹介。ぼくは筒井康隆の『みだれうち涜書ノート』と『東京百話』を(後者はダブリ本を一箱で売るつもりで持ってきたら、藤村さんが買ってくれた)。1時間ちょっとで終了。


そのあと、しばらく店番するが、4時前には片付けに入る。新刊買ってくれた人がいたので、8000円ぐらいはいったかな。空港に出発するまで時間があるというので、ぶらぶらすることに。近くの喫茶店が開いていたので、そこでコーヒー飲み、〈玉屋〉という昔からあるらしい百貨店の上で佐賀・長崎物産展を覗く。それでも時間が余ったので、まだ歩いてない一角を歩いて、銭湯だった建物などを見つける。ついにドコにも行くところがなくなり、20分ほど〈エスプラッツ〉のベンチで本を読む。


片付けがもう終わりそうな「656広場」でさらに待っていると、Wさんが迎えにくる。人形ワークショップをやられたプークの渡辺さんと、イラストレーターの本秀康さんと同じ車で佐賀空港に向かう。本さんは中学から高校にかけて1年ほど佐賀で暮したそうだ。「佐賀を描いたマンガはないんですか?」と訊いたら、『アーノルド』(河出文庫)に「佐賀を知りたい」という作品が入っていると教えてくれる(あとで買って読んだけど、おもしろかった)。その後、飛行機の機内も三人一緒で、モノレールも本さんと一緒に帰って来る。『レコスケくん』を久しぶりに描いたと教えてもらったので、浜松町の〈文教堂〉によって『レコード・コレクターズ』を買って帰る。東京も雨が降っている。佐賀は蒸し暑いぐらいだったけど、東京の気温はずいぶん低い。いろいろと珍しく、思うところも多かった怒涛の佐賀、2泊3日でした。主催のユマニテさがのスタッフの皆さん、お世話になりました。トークでも話した通り、もっともっと佐賀の良さ、おもしろさを前に出す企画が出てくればイイと思います。今後もブックマルシェ佐賀、続けてください!


下に岡崎武志さんのコメントいただいたので、もうちょっと追記。今回の佐賀での一箱古本市は、これまでぼくが参加した中では、米子の商店街での一箱に近かったかな。町おこしの動きの一環に、ブックイベントや一箱古本市が組み込まれているという感じだった。そこでは、「一箱」のコンセプトがどうのこうの云う前に、いつもは人があまり集まらない通りにたくさんの人通りがあり、地元の人も「なんか賑やかだ」という感覚を持ってくれれば成功、ということになるのはよく判ります。ぼくも実家のある出雲市で、こういうイベントやるときには、そのことを基準に置くでしょう。地方の街での一箱古本市の実例を体験したという意味では、とても貴重な機会でした。3回、4回と続けるうちに、店主さんにもいろんな工夫が出てくると期待します。


そうだ、書き忘れていたが、西海洞の増本さんと会ったのは「ブックオカ」の一箱古本市なのだけど、それ以前にやり取りがあったのだ。増本さんは佐賀の〈木下書店〉で働いていて、目録もひとりで書いていた。『日本古書通信』にも目録を出していて、それをぼくがよく注文していたのだ。「ざっしょ 木下書店」という文字面を覚えている。増本さんは「何か読みづらい字でよく注文くれました。河上さんとか◎◎さんから注文してくると、その本はそのあと注文が重なるので、めんどくさかった」と笑っていた。縁とは不思議なものである。