怒涛の佐賀でした(その2)

夜中に目が覚めたりして、4時間ぐらい眠ったか。7時すぎにはもう、台所で朝食の準備をする音がして目覚める。昨夜も料理の腕をふるった叢林館さんが、残った食材でスープをつくってくれる。美味しいんだ、これが。昨夜の余韻が残っているのか、朝から古本屋の今後みたいな話をみんなしている。ハナシに熱中し過ぎて出かける時間を忘れてなけりゃいいけど、と思ったら、やっぱり動き出すのが遅くて、片付けに時間がかかる。別荘の前で、みなさんと別れて、西海洞さんの車で佐賀市内へ。



10時すぎに会場に到着。道路わきの幅の広い歩道に箱を並べるようだが、あまり人が通りそうな雰囲気ではなく、やや不安。送っておいた荷物を受け取り、出店準備。隣は西海洞さんだ。10時半ぐらいからぼつぼつ人が前を通りはじめる。驚いたのは、年配の人たちの多いこと。というか、若いヒト、全然通らないよ。販売開始してもそれは変わらず。どこの地方でも一箱の客は若い世代、とくに女性が多いのだが。西海洞さんは佐賀の歴史関係の本や古文書、掛け軸、絵葉書などを並べており、老人が4人も5人も取りつくように覗きこんでいる。それに比べて、ぼくの箱はチラ見されるだけでなかなか手に取ってくれない。立ちどまって箱を見たおばあさんが、「なんか、難しか本ばかりやね…」とつぶやいて去っていく。そんなコトないはずなんだけどなあ。しかし、売れるのは100円、200円の文庫ばかりだった。


1時間ほどして、スタッフのIさんに店番を頼み、ほかの箱を回る。出店者は12、13組ぐらいか。「箱」と云っても、ビニールシートの上に直接本を並べている人がほとんど。このほうが表紙が見せやすいし、売れるのかもしれないけど、店主の側に「一箱古本市」という概念がまったくなさそうなのは、やはりちょっと寂しいものだ。そのせいでもないが、今回は買いたい本が見つからなかった。


その近くに商店街があり、空き店舗を使って、子どもの本の展示とか雑貨の出張販売などが行なわれている。明日のトークの会場である「656広場」(ムツゴロー広場と読む)では、新聞紙で人形をつくるワークショップが開催中。吹きさらしの野外ステージで、ひと昔前だったら、特撮のヒーローショーをやってそうな場所。こんなトコロでトークやって人が集まるのか、非常に不安だ。その裏に路地があり、入ってみると肉屋とか餃子屋がある。中央マーケットというらしい。奥のほうにもう一軒、餃子の店があり、奥のほうにテーブルが4つほどあった。かろうじて5人ほどが座れるスペースだ。焼き餃子・水餃子が各400円、あとはご飯があるだけ。焼き餃子を食べたが、小ぶりで皮がモチモチとしており、ウマい。



   


さらに裏のほうに行くと、松原川というのがあり、それに囲まれるように松原神社がある。その近くに〈ふくみ食堂〉とかラーメンの〈一休軒〉などがあり、往時はにぎわっていたんだろうなと思われる。松原川を西に歩くと、戦後に闇市だったという一角があり、その外れには〈DXさが〉というストリップ小屋の残骸が。とにかく、街を歩いていて、廃業したまま取り壊しもされずに残された建物が多いことに驚く。看板もそのままなので、よく見ないと、営業している店との区別が付かない。街じゅうが秘宝館みたいなのだ。ちなみに、この下の写真の左が廃業、右は営業中(〈談話室 滝沢〉のロゴを堂々とパクっている)。



松原川にはむかしカッパがいたとかで、川端にカッパの像があり、触ると橋から水が噴き出す。子どもがそれをやっているのを見た。その数メートル先には、川のほとりで体を拭いている年季の入ったホームレスのおばあさんがいた。そのあと、ビルの地下にある〈アリユメ〉という喫茶店に入る。奥に広い店で、純喫茶っぽいが食事のメニューも豊富。佐賀のB級食と耳にした「シシリアンライス」があったので注文する。皿に盛ったご飯の上に、焼肉とレタスをかけ、さらにマヨネーズがたっぷり載っている。これを混ぜて食べるのだ。むちゃくちゃ素朴なスタミナ料理だなあ。餃子食べたあとなので、やっとの思いで食べ終える。なんか、腹ペコの学生が思いつくような料理だった。


一箱古本市の会場に戻ると、少しは売れていた。あとで、西海洞さんから「お留守のときにイイ話ありましたよ」とメールをいただいたので、以下にかいつまんで引用する。

ナンダロウさんの箱を覗いていますと、ちょっと中に一冊、異質な本が。新しい本の中で、あきらかに箱の色が浮いています。幸田文の『驛』。うーん、シブい、良い書香、これをあえて端に隠すように陳列なさる、このあたりの洒脱さが一箱の良さなんだよなあ、これがまあ、まったく理解されないだろうな、マルシェの現状じゃあ。と、値段を見ると、なるほど、だけれども、まず、この値では佐賀じゃ無理でしょ、残念ながら。


そうするうちに、絵本の〈ピピン〉、すなわちウチのブース右より、はっと、するような葉隠れ美人、年のころなら、40でこぼこ、色白、すっと伸びた背の姿勢の良さがなんとも印象的、ウチのブースを眺めつつ、河上さんの箱をちら見、すっと近づくと迷いもなく、上記の一冊をとり出だされたのでありました。【おお、シブいなあ、だけどなあ、あの値ではおそらく眉をひそめて(失礼ですみません)戻されることだろうな、なんとはなしに厭だなあ、、、、、、】などと、見ておりますと、なにげに裏見返しを確認され、鶴の一声、美しく、
「これを、いただきます、、、、」
おお、あの値段で、値切ることもなしかあ、、、、


(店番をしていた)Iさんは別になんの感銘もない模様で、いたって事務的に、「はい、じゃ、これ、、、」と終わりにしようとしているが、脇で見ていて(我ながらいじましい)なんともやきもき、つまりは、なんか一言でも話してみたいんだな、ああ、情けない男こころ、、、、
「あ、あのう、あのですねえ、これ、ブックマルシェのカバー、宇野アキラさんのデザインで、いりません〜?」(もう少し、かっこよく話せないものかしら、、、、)
すると、にっこり受け取ると、
「とても素敵な、デザインですね、大事に使わせていただきますね」
丁寧に、手のバッグにしまわれて、エスプラッツ方向に去っていかれました。
この一冊、どうです、河上さん、街歩きも愉しかったでしょうけど、残念でしょおお、えへへへへ。(性格悪し)


だそうです。ドコに行った、その美人は!?


店番に戻ってからも、あんがい人の流れは途切れない。声をかけると、若い人や親子連れも立ちどまってくれるようになった。終了間際に、西海洞さんを見に来た中年男性がぼくの著書2冊を定価で買ってくださり、なんとか1万5000円ほど売れる。4時に終了。映画館〈シアター・シエマ〉を運営している69'ners FILMのひとで、ブックマルシェ佐賀の企画面を担当しているWさんが、駅前のホテルまで車で送ってくれる。


夜はそのシエマで松尾清憲×本秀康トーク&ライブがあり、観るつもりだったが、昨夜の深酒がたたって、かなり辛い。しかも打ち上げがライブ後の22時開始ということで、そこまで耐えられないと判断し、別行動にさせてもらう。部屋に入ってベッドにもぐりこみ、まずは7時すぎまで眠る。そのあと、ホテルの裏側にある24時間営業のラーメン屋に期待せずに入ったら、もつ焼きなどのつまみが多く、二日酔いなのにビールと焼酎を飲み、ちゃんぽんを食べる。ホテルに戻ってからは、読みかけの小谷野敦現代文学論争』(筑摩選書)を読む。小谷野さんのクセのある文章が、このテーマにはぴったりで、ぐいぐい読ませる。12時には眠る。