札幌の変わっていて肝臓の丈夫な人たち

kawasusu2006-01-21

午前中、ホテルの部屋でAさんと打ち合わせ。12時前に札幌駅に行き、Aさんをお見送り。そのあと、駅ビルの5階に入っている〈旭屋書店〉で、〈さっぽろ萌黄書店〉(http://www.d2.dion.ne.jp/~moegi/)の坂口仁さんと待ち合わせ。『日曜研究家』を読んでメールか手紙をいただいてから、7、8年間やりとりしていたが、お会いするのは今日がはじめて。坂口さん曰く、札幌でも書店の郊外化が進んでいて、以前は中心街にあった〈旭屋〉〈紀伊國屋書店〉〈丸善〉が、この数年ですべて札幌駅周辺に移転してしまったそうだ。この旭屋には、坂口さんの肝入りで『ナンダロウアヤシゲな日々』(無明舎出版)をかなり長期間にわたって置いていただいている。


坂口さんの運転で、まず北大病院前の〈弘南堂書店〉へ。札幌でも老舗の古本屋。店の外にガラス入りのケースが備え付けてあるので、ナニかと思えば、これが均一台なのだった。あとで聞くと、雨が吹き込んでくるのを防ぐためだとのこと。日本一カネのかかった均一台ではないか。ココから、佐木隆三『ジャンケンポン協定』(晶文社)250円、『別冊新評 梶山季之の世界』(新評社)150円、を。店内は落ち着いた雰囲気。棚につくりつけのガラスケースには、武井豆本も入っていた。日本文学の初版本がよく揃っていて、何冊か買いたいのもあったが、ちょっと手が出ない(『平林初之輔遺稿集』平凡社、昭和7が2万8000円とか)。その代わり、和田義雄の豆本『コーヒー物語』(ぷやら新書刊行会、1984)を2000円で買う。自身がオーナーだった喫茶店〈サボイア〉のマッチ箱に、豆本とコーヒー豆3粒を収める。和田には『札幌喫茶界昭和史』(財界さっぽろ)という名著があるが、同書と『コーヒー物語』は「コーヒー3部作」を成しているらしい。もう一冊『喫茶半代』という上下巻の自分史があるのだが、今回手に入れるコトはできなかった。ちなみに、和田は『窓』という文庫サイズの雑誌も出しており、ぼくも数号持っている。なんだか、和田義雄のことをもっと調べてみたくなった。


お茶と菓子をご馳走になり、店を出る。そのすぐ近くの〈薫風書林〉へ。キリスト教社会主義関係の本が多い。通路には本が積みあがり、レジ前も本でうずまっていて、店主の顔も見えない。北方文献で知られる〈サッポロ堂書店〉も近くにあった(意外と小さな店だった)が、寄らずに先を急ぐ。コーヒーと豆本、音楽CDの〈キコキコ商店〉(http://www1.odn.ne.jp/fks/) へ。オフノートなどマイナーレーベルの新譜をまとめて通販で買えるので、何度か利用したコトがある。お店は一軒家の一室で、靴を脱いで上がる。10人入れば一杯になるぐらいの、妙に落ち着く空間。ときどきライブもやっている。豚肉の角煮(?)、スープ、サラダなどのランチを食べる。コーヒーも美味しい。OKIDOKI[Don’t walk on the cat side](BAKAMO RECORDS)を買う。北海道文学館に寄り、『林芙美子・北方への旅』の図録を買う。そうだ、坂口さんにも函館市文学館の『函館「不良(モダン)文学」は元町育ち 長谷川海太郎久生十蘭水谷準』展の図録をいただいた。ほかに、渋さ知らズなどを入れたCD-Rも。坂口さんは相当ディープな音楽好きでもある。


次に、坂口さんオススメの〈はろー書店〉(http://www.hellobookstore.com/blog/)へ。南3西1の和田ビルという古いビルの3階にある、洋書とアンティークの店。いま海外に買い付けに行っているというご主人がチェコ好きで、店内にはかなりチェコの本があった。値段もリーズナブルだったが、これ以上チェコ本を買うのはマズイので目をそらす。レジ前には、ディック・ブルーナが装丁したペーパーバックが200冊ぐらい箱に入れてあった。どれもとてもキレイだ。LODEWIJK WINDSTOOT『en het mysterie van de naaktfoto’s』(MAEBA、1967)1500円、を買う。


だいぶ薄暗くなり、寒くなってきた。琴似にある〈くすみ書房〉(http://www.kusumishobou.jp/)へ。「なぜだ!? 売れない文庫フェア」として、ちくま文庫や中公文庫、河出文庫の全点フェアを行なったり、「本屋のオヤジのおせっかい 中学生はこれを読め!」というフェアをやっているユニークな店。一見フツーの店構えだが、奥に行くにしたがってフェア台(可動式・面出し)の数がどんどん増え、文房具コーナーまで増殖しているトコロにむやみな活気を感じる。地下一階には、昨年9月にオープンした〈ソクラテスのカフェ〉というブックカフェがある(『ブックカフェものがたり』の巻末リストにも掲載)。本棚と喫茶の席とのスペースの配分がちょうどいい、という感じ。本の量がけっこう多いのもイイ。単行本は定価の3分の1、文庫は80円。和田由美『いつだってプカプカ』(亜璃西社)600円、島村利正妙高の秋』(中公文庫)、河野典生『緑の時代』『狂熱のデュエット』(角川文庫)、『他人の城』(講談社文庫)が各80円。『緑の時代』『狂熱のデュエット』の装丁は柳生弦一郎。こんなイイ本が80円とはウレシイ。店長の久住さんにご挨拶し、コーヒーをご馳走になった。


そのあと〈さっぽろ萌黄書店〉に行くが、ゆっくり見る時間がなくて残念。狸小路に行き、その近くの〈B・C・S〉へ。アート系の本や雑誌が、棚やテーブルの上に置かれている。コーヒーやハーブティーを飲みながら、本を読むこともできるし、買うこともできる。これはまさにブックカフェだ。Bは「books,bread」、Cは「card,coffee,chair,cloth」、Sは「something」だとのこと。札幌の映画館〈JABB〉が発行していた『BANZAIまがじん』のバックナンバーも定価で置いてあり、たぶん所持してないと思われる第11号を買う。ココで、〈古書須雅屋〉の須賀章雅さんとお会いする。ブログ「須雅屋の古本暗黒世界」(http://d.hatena.ne.jp/nekomatagi/)についての取材。すっげえユニークな人なのだが、なかなか一言で形容しにくい。翌日もずっと一緒だったので、そのユニークさはおいおい判ってくるでしょう。東京を出る前に注文しておいた『パンドラの匣』(牧神社)の創刊予告号と創刊号を受け取る。この時期はB5サイズだったのだ。


須賀さんと飲み会の会場まで歩いている途中、ツルッと足を滑らせ転んでしまう。転ぶ瞬間って、なんか時間の動きが遅くなったように感じられる。中学校の運動会で転んだときのコトが頭をよぎったりして。リュックを背負ったまま、派手に横転し、肩と頭を地面にぶつける。痛ってえー! 後ろから来た坂口さんが、「見てましたよ。札幌のいい思い出になるでしょう」となぐさめてくれる。〈結び亭〉というジンギスカンの店で飲み会。「山口瞳の会」の中野朗さんと、もと「札幌タイムス」記者の小笠原淳さん、坂口さんと須賀さん。


中野さんとは、2年前に『山口瞳通信』の原稿を依頼されてからメールでやり取りしていた。丁寧で礼儀正しいヒトというイメージがあり、じっさい、その通りのヒトだったが、一方で、○○罪で警察のご厄介になる(「ただし不起訴です」とのこと)など、すっげえゴーカイな面も併せ持っている方だった。中野さんは25年間生命保険会社に勤め、大阪などで単身赴任生活を送っていたのだが、数年前に会社を辞め、家業のはちみつ店を継がれている。その辺のプロフィールを聞いていると、めちゃめちゃオモシロイ。そういうハナシをしてるうちに、小笠原さんが中野さんの後輩だというコトが判明し、中野さんのテンションがさらに上がる。小笠原さんはぼくの1歳下で、新聞記者という仕事が好きで好きでたまらないのだが、給料遅配で生活できないのでしかたなく辞めたそうだ。ハナシ好きで人好きで、みんなに愛されるタイプだ。東直己さんともときどき飲むらしく、いくつか逸話を聞いた。〈ケラーオオハタ〉のモデルの店は、経営不振で閉めてしまったらしい。


ジンギスカンはさすがにウマイし、勧められるままにじゃんじゃん食べてしまったので、腹いっぱいになる。シメのおにぎり(たらことバター入り)もうまい。中野さんが「もう一軒行こう!」と云い、歩いてススキノの方へ。中野さんの友達がやっている〈やきとりジャンボ〉へ。ミュージシャンなどがよく来る店らしい。全員酔っ払っているので、ハナシが同じところをループしてしまうが、それもまた愉しい。しかし1時すぎるとさすがにグロッキーになり、小笠原さんと一緒に先に失礼する。残りのみんなは3時まで飲んでいたそうだ。北海道のヒトの肝臓は丈夫だ。

*写真は〈結び亭〉にて。左から、須賀さん、南陀楼、坂口さん、小笠原さん、中野さん。