金沢に行ってきた(その2)

昨夜は12時過ぎに眠るが、3時ごろに目が覚めてしまい、寝なおしたのは5時頃。目が覚めたら9時すぎていて、急いで出かける。バスが判らず、タクシーで主計町(かずえまち)へ。昨日打ち上げで行った店の裏側に細い道があり、茶屋街になっている。主計町という地名は地名変更でいちど消滅したが、1996年に復活した。これは全国初の旧町名復活なのだとか。その入り口にある源法院というお寺が、今回の一箱古本市の会場。小さなお堂で境内も狭いので、半分は前の道に出店する。ブースには箱ではなく、木の枠が置かれている。これは、どこかの店が駅弁フェア用につくったものを借りてきたのだという。ぼくと千駄木〈不思議〉だけは、「一箱古本市専用箱」で参加する。


店主は16組で、金沢氏を中心に、輪島市珠洲市から参加している。富山県高岡市から参加した「上関文庫」さんは、以前東京に住んでいて、2006年秋の一箱古本市に「古本すなめり」の屋号で出店し、「古書ほうろう賞」を獲得した人。実家のある高岡市で店舗を開こうと、古書組合に加盟して頑張っているようだ。また、同じ2006年秋に参加し、「南陀楼綾繁賞」を差し上げた「BOOKRIUM」さんも店主として出ている。輪島市から参加の「September Books」さんはあうん堂に自分の本を置いていた人で、桂牧さんのお知り合い。以前、『彷書月刊』の連載であうん堂さんを取材したときに一言触れたが、お会いするのは初めて。


まだ10時前だというのに、すでに日差しはギラギラ。場所によっては直射日光が照りつけてくる。ぼくは主催者の配慮で、お堂前の陽の当らないスペースに出させてもらったが、風が通らないので暑いあつい。10時にスタート。何人かが境内に入って来て、箱の前に立つが、なかなか本を手に取ってくれない。金沢のヒトはシャイなのかな。しばらく売れないので焦っていると、昨日のトークに来た人が連続して買ってくれる。12時すぎに近くの〈禁煙室〉という名(だけど店内はぜんぶ喫煙席)の、昔風の広い喫茶店で、生姜焼き定食を食べる。後ろの老婆二人が、知り合いに浴びせかける悪口を居心地悪く耳にしているうちに、寝不足から少し眠りこんでしまった。また会場に戻る。お客さんに話しかけたり、「ちょっと割り引きますよ」と云ってみると、それなりに売れてゆく。4時前になってもけっこう覗いている人がいた。「古本けものみち」の売り上げは約1万8000円。往復の宅急便代を考えると、あと5000円売れてほしかったが、ぜいたくは云うまい。


他の箱も見て回ったが、あまり買わず。御夫婦とお子さんで参加していた「古本万歩計」さん(http://dixit.exblog.jp/)で、幸田文『月の塵』(講談社文庫)を200円で買ったぐらい。この箱は日本文学の文庫がいい感じに揃っていた。今回は賞のプレゼンターを要請されなかったが、南陀楼綾繁賞は古本万歩計さんに差し上げたい。飲み会に参加されなかったので、賞品をお渡しできなくて残念なり。


荷物をまとめてお寺に置かせてもらい、終わりごろに来てくれた金沢のひとり出版社「亀鳴屋」(http://www.spacelan.ne.jp/~kamenaku/)の勝井さんと、歩いてすぐの〈あうん堂〉へ。あとから「BOOKRIUM」さんも加わり、古本談義。亀鳴屋のできたばかりの新刊、外村彰・荒島浩雅・龜鳴屋編『したむきな人々−近代小説の落伍者たち−』(税込2300円)を見せてもらい、すぐに買う。同じシリーズの『ひたむきな人々−近代小説の情熱家たち−』は大学のテキストということで、メジャーな作家ばかりだったが、本書は思いっきり偏っている。13人中半分以上は名前を知っていたというので勝井さんにホメられたけど、名前聞いたことがあるだけで、作品読んだ人は3人しかいない。なにしろ、武田豊、高瀬文淵、安成二郎、熱田五郎、藤浦洸那須辰造、井上立士、埴原一亟、椎名頼己、榊山潤、安久昭男、網野菊子、伊藤茂次ですからねえ。全員読んだことがあります、という人は、ちょっとヤバいかもしれぬ。表紙イラストは前冊と同じく、グレゴリ青山さん。グレゴリさんのダークな感じのイラスト、とても好きです。


そうこうしているうちに6時になり、勝井さん、September Booksさんと、歩いて打ち上げ会場へ。〈テグ〉という焼肉屋の二階で、靴を脱いで上がる前におしぼりを渡され、ビールを注文する。座敷には店主、スタッフ十数人がぎっしりと詰まる。料理はどれもウマく、とくにシロがコリコリして絶品だった。ビールやチューハイが進む。自己紹介して、今日の感想を話し合ってると、たちまち時間が過ぎる。あうん堂さんに云われて、一箱古本市の画像がプリントされたウチワ3枚にサインしていたのだが、この場で、書いた言葉を読み上げられて、恥しい思いをした。


9時ごろに散会となり、金沢駅に向かう「上関文庫」さんとタクシーに。途中で彼を誘って、近江町市場近くの〈Jazz Spot 穆然(ぼくねん)〉に寄ってみる。細長い造りで、手前にカウンター、奥に長テーブルがある。ウィスキーのソーダ割りを飲みながら、富山の古本事情などを聴く。来年には高岡で店舗を開くそうなので、ぜひ訪れたいものだ。1時間ほどで切り上げ、上関さんと別れて、ホテルまで歩くとすぐ近くだった。