金沢に行ってきた(その1)

昨夜もいつものごとく夜眠れず、《金曜JUNK バナナマンバナナムーンGOLD》を聴き、さらに本を読んでからやっと眠れた。と思ったら、目覚ましがなり、出かける。羽田空港から小松空港まではぐっすり眠った。小松空港からのバスで、金沢駅直行に乗ってしまったが、香林坊経由のに乗るべきだった。で、金沢駅から巡回バスに乗り、香林坊で降りて、竪町商店街へ。金沢も東京と同じぐらいカンカン照りで、暑い。


オヨヨ書林〉に着き、中に入ると、その広さに驚く。客も4、5人入っている。別の店みたいだ。奥に帳場があり、オヨちゃんがいた。棚をひとめぐりしたが、東京の頃と比べてかなり安くなっている。前に扱っていた本は、半額から三分の一になったという印象だ。500円という値付けは昔のオヨヨではあまり見なかった。挨拶だけのつもりだったが、すっかり熱中してしまい、小沢栄太郎『先祖はモリエール』(講談社)500円、木村二郎『ニューヨークのフリックを知ってるかい』(講談社)500円、『季刊メディアレビュー』1、2号、各200円、『月刊タウン』第5号、300円、を買う。いきなり荷物が増えてしまった。


オヨちゃんに教えてもらい、ラブロというビルの裏に広がる「新天地」に行ってみる。飲み屋やバーが並ぶ「金沢のゴールデン街みたいなとこ」(オヨちゃん談)で、その入り口に〈三晃〉という定食屋がある。麺類から定食まで、ごくフツーのメニューばかりだが、妙に落ち着く。ビールを一本飲み、うな丼を食べる。バスで武蔵が辻で降り、近江町市場の入り口にある〈近江町いちば館〉へ。数年前に近江町市場が再開発で整理しなおされたときにできたビル。この4階が今回のトーク会場になっている。


トークのお相手の「カナザワ映画祭」の小野寺生哉さんと会い、1階のカフェで打ち合わせというか雑談。なぜか塩山芳明さんの話など。会場に戻ると、お客さんが集まりはじめている。3時過ぎにトーク開始。まず、ぼくが例によって一箱古本市やブックイベントについて話し、そのあと小野寺さんに「カナザワ映画祭」のことを聴いていく。あの思いきったプログラムがどんなやり方で実現していくのかが判って面白かった。「映画マニアじゃなくて、なんとなく面白そうと思ってくれる人に向けた映画祭にしたい」という心意気がいい。今回の映画祭は9月17日(金)〜24日(金)で、テーマは「世界怪談大会」。世界にプリントが2本しかないという、ほんとに怖い映画を無料で野外上映するオープニングをはじめ、すごいプログラムが山盛りだ。
http://www.eiganokai.com/


最後にお互い3冊ずつ紹介する。ぼくは「金沢にゆるく関わる本」ということで、以下を紹介。半村良『平家伝説』(角川文庫)は能登の時国家と北陸出身者が多い銭湯が悪路バティックにからむ壮大なウソ話。半村の〈伝説〉シリーズではとくに好きな一冊。また、能登から来たIさんにあとで指摘されたが、半村の母は能登出身で、戦時中に半村も疎開していたことがある。『能登怪異譚』収録の「箪笥」は能登の空気をみごとに描いている、とIさんは云っていた。もうひとつ云い忘れていたが、半村は『産霊山秘録』で第1回泉鏡花賞を受賞しているのであった。次は、吉屋信子『自伝的女流文壇史』(中公文庫)。この中に「美人伝の一人 山田順子と私」という章がある。山田順子と云えば、金沢出身の徳田秋声をその色香で籠絡したと云われ、秋声が多くの作品に書いた女性作家。ちょうど、二人の関係をモデルにした『仮装人物』を読んだトコロだったので。これも、あとで聞いたところでは、金沢の徳田秋声記念館では山田順子についての展示をやったことがあるという。さすがだ。最後は、西村賢太『どうで死ぬ身の一踊り』(講談社文庫)。作者が敬愛する作家・藤澤清造七尾市の出身であることから。


トークで話せなかったことをいくつか補足。ぼくも行ったコトがあり、小野寺さんも通ったという「古本とプラモデルの店」は、北陸新幹線の用地にひっかかったため、しばらく前に移転して、なぜか「古本とちゃんこ鍋の店」になっているという。カフェコーナーもあり、コーヒーを淹れてくれるのだが、前の店とおなじく店内が汚いのであまり飲む気にならない、という某氏からの情報あり。また、種村季弘もエッセイで書いている、菓子屋の前にある古本屋で、ぼくがなぜか店主に説教された話をしたところ、「BOOKRIUM」さんが「小島政二郎がこの古本屋のことを、『居心地のいい店』(北洋社)で書いてますよ」と教えてくれる。


終わって、〈NYANCAFE BOOKS〉(http://nyancafe.exblog.jp/)のたなかりんださんとご主人に、車でお店に連れていっていただく。住宅街にある一軒家で、ドアを開けると居間がそのまま店になっているようなスペース。壁一面の本棚は、猫や演劇、音楽などに関する本が多いかな。近所の美大生などが、道に迷いながらやってくるそうだ。冷たいお茶と京都の菓子をいただく。また車で打ち上げの会場へ。淺野川沿いに昔のお茶屋の建物が並んでおり、そのひとつが〈空海〉という居酒屋になっている。その二階の座敷で、小野寺さんやあうん堂夫妻、NYNCAFE夫妻、オヨちゃんと飲む。魚中心のコース料理が美味しい。東京でさんざん飲んだりイベントやったりしたオヨちゃんが、いつの間にか金沢の古本屋さんに溶け込み、こうして一緒に金沢で飲んでいるのは不思議な気分。9時ごろにお開きになり、また車に乗せてもらって、ホテルへ。チェックインしてから、その辺を歩いてみるが、遅くまでやっている店はあまりなさそうで、早々に部屋に戻る。