金沢に行ってきた(その3)

昨夜はまた3時ごろに目覚めてしまい、ちょっと本を読んだり、仕事のメモをとったりして5時まで起きていて、朝寝過してしまうという例のパターン。近江町市場で朝飯と思っていたが、諦めてホテルのバイキング。それからタクシーで長土塀二丁目の〈金沢文圃閣〉へ。自動車の販売所に隣接しているが、そのガレージが均一棚になっている。コレは前来たときはなかったな。まずその均一から見て、新潮文学アルバムのバラや平野威馬雄ヒューマノイドについてのマジメな話』(平安書店)、福岡隆『人間・松本清張』(大光社)、金子和弘『ヤング強奪の商法』(ワニの本)などを。どれも200円なら安い。『ヤング強奪の商法』(1976年)には「独身貴族の金脈を掘れ」というサブタイトルがあり、いまでは大手になっている企業やチェーン店の出発点が描かれているようだ。面白そう。


店内に入り、普通のA5サイズになった『洋酒天国』第51号(『新青年』の思い出を横溝正史らが書いている)300円、横山政男ほか『朝日新聞記者の証言4 学芸記者の泣き笑い』(朝日ソノラマ)400円、を買う。相変わらずいいセンスの棚だなあ。本を見てると、ラジオからあうん堂さんの声が聴こえてくる。地元のラジオで昨日の一箱古本市について話しているのだ。アナウンサーの女性も会場に来たようで、雰囲気をよく伝えていた。


勝井さんがやって来て、車に乗せてもらって出発。スーパーの古本コーナーがあり、以前、文圃閣さんに連れていってもらったが、最近そこがリニューアルして広くなったというので、寄ってみる。100円コーナーが半分以上で、300円、500円もある。100円本は何も表示がなく、300円、500円はその値段のシールが裏表紙に貼られているという、アバウトな値段表示。勝井さんが財布を忘れて家に取りに帰ったこともあり、隅々までじっくり見る。佐野繁次郎装丁の源氏鶏太『停年退職』(朝日新聞社)、朝日新聞学芸部編『戦後芸能史物語』(朝日選書)、山崎今朝弥『地震憲兵・火事・巡査』(岩波文庫)など100円なら買っておきたいもの多し。先日別のところで買った幸田文『驛』(中央公論社)の函入り美本を500円で見つけ、やったと思い、レジに並ぶと、おばさんがほかの本がすべて100円だったので勘違いしたのか、それとも表表紙と裏表紙を間違えたのか、100円で打ったので、一瞬良心がとがめるが、そのまま受け取って出る。まあ、金沢土産とありがたく受け取っておこう。


そこから能登に向かって、30分以上走る。県立看護大学の横を入り、造成中の宅地の一角にちょっとシャレた一軒家がある。これが〈茶房山猫文庫〉(http://www.yamanekobunko.info/)というブックカフェで、勝井さんは気に行って何度も来ているそうだ。店は二階にあり、3つのスペースにテーブルが5、6席あり、おおきな本棚が二つある。本は店主が読んだ本を並べていて、すべて販売している。料理は自然食志向のメニューで、きのことツナのパスタを食べる。コーヒーが美味しい。本はすでに持っている本が多かったが、勝井さんが見つけてくれた『鶴彬 こころの軌跡』(『死ね・フロント』別冊)300円、を買う。昨年つくられた鶴彬の伝記映画のパンフレット。「手と足をもいだ丸太にしてかえし」などの反戦歌人・鶴彬は、この店のある河北郡高松町の出身なのだ。


そこから内灘に向かって走る。勝井さんの話では、白山山麓に以前、〈古本ココ〉なる古本屋があり、おたくっぽい青年がおニャン子クラブをかけながら店番をしているという。いまどきなぜ、おニャン子? けっこうイイ本が見つかるというので、期待していたが、着いたら店が消えていた。ざんねん。車中で勝井さんと本の話がたくさんできて楽しかった。本好きの人は多いし、編集が好きな人もいるが、本好きでかつ編集好きという人はそうはたくさんいないので、勝井さんと話していると、「こんな本がつくりたい!」という意欲を刺激されるのだ。最後に小松空港まで送ってもらうが、途中眠くなってうとうとしてしまい、申し訳なかった。


チェックインし、20分遅れで飛行機が出発。東京に帰って来たのは、7時半ごろ。さすがに疲れたし、腰が痛いので存分に歩きまわれなかったが、充実の金沢滞在だった。金沢の一箱古本市は次回9月16日(日)で、以降も定期開催されるようなので、来年あたり、また参加できたらいい。


ウチに帰ると、校了日に通信トラブルがあり発行日が遅れた(校了日に原稿をやり取りしたので、よく知っている)『彷書月刊』9月号が届いていた。特集は「総目次1985-1996 前編」。目的の特集や記事を見つけるのに、いつもバックナンバーをひっくり返していたので、この総目次は大変ありがたい。ぼくが最初に書いたのは1995年1月号の宮武外骨特集だが、これは目次に署名がなく、1995年8月号の映画館特集に本名で寄稿している(同じ特集に、内藤誠山崎範子唐沢俊一福間健二ほかが寄稿)……なんてことも、一発で判る。次号は自分が連載した時期に重なっており、便利なのは云うまでもない。しかし、あと2号がどんな特集になるのか楽しみにしていただけに、目次で埋まってしまうのはちょっと惜しい気もする。ぼくの連載では、台北の〈胡蝶書坊〉を紹介。さて、ラストはどうしようか?


もう一冊、大村彦次郎荷風 百ケン 夏彦がいた 昭和の文人あのひこの日』(筑摩書房)を送っていただく。タイトルからこの三人の評伝かと思ったら、違うんだな。この三人を含む作家たちのエピソード集。いわば大村版「ちょっといい話」だ。この本はきっと、舐めるように読むだろう。