〈シネマヴェーラ〉の石井輝男特集と丸善ジュンク堂渋谷店

この夏はあまり外に出かけられなかったが、〈シネマヴェーラ渋谷〉での「石井輝男 怒涛の30本勝負!!」特集は未見のものが多く、頑張って通った。今回観たのは次の20本(再見含む)。


《肉体女優殺し 五人の犯罪者》(1957)
《天城心中 天国に結ぶ恋》(1958)
《白線秘密地帯》(1958)
《女王蜂の怒り》(1958)
《黒線地帯》(1960)
《女王蜂と大学の竜》(1960)
《セクシー地帯》(1961)
《黄色い風土》(1961)
《日本ゼロ地帯 夜を狙え》(1966)
《大悪党作戦》(1966)
《神火101 殺しの用心棒》(1966)
《温泉あんま芸者》(1968)
《徳川女刑罰史》(1968)
《昇り竜 鉄火肌》(1969)
《明治・大正・昭和 猟奇女犯罪史》(1969)
《やさぐれ姐御伝 総括リンチ》(1973)
《キンキンのルンペン大将》(1976)
つげ義春ワールド ゲンセンカン主人》(1993)
《無頼平野》(1995)
《地獄》(1999)


かなり観たほうだが、《いれずみ突撃隊》(1964)、《徳川いれずみ師 責め地獄》(1969)は見逃してしまった。20本中、いちばん好きなのは《やさぐれ姐御伝 総括リンチ》。池玲子をはじめとする女たちがカッコよすぎる(ラストの裸での立ち回りも最高)。迷宮のようなカスバの描写もイイ。最悪なのは《地獄》(1999)。予算がないのに観念的な作品なので、ワケがわからん。今回、新東宝時代の作品はすべてデジタル素材(デジペ)だったのは残念。デジタルだと画面が浅い感じがする。これらの作品はもうフィルムでは観られないのだろうか?(以前の〈新文芸坐〉での石井特集ではフィルムだったと思う)


映画を観て家に帰ると、『石井輝男映画魂』(ワイズ出版)をめくって、フィルモグラフィーをチェックした。配役やストーリーに加えて、当時の映画評が引用されている。ときには本文もパラパラ。福間健二がインタビュアーになった本書は名著だと思うが、このタイトルをいただいてしまったダーティー工藤監督のドキュメンタリー『石井輝男映画魂』は、ヴェーラの下の〈ユーロスペース〉でレイト公開していたが、予告編がつまらなかったので、観ずに終わった。この映画に合わせて刊行された『続石井輝男映画魂』(ワイズ出版)はいちおう買ったが、ひどいシロモノ。前半はワイズ出版お得意のスチールスクラップで、そこに『石井輝男映画魂』から引用しまくっている(そのくせ、協力者には福間健二の名前はなし)。同書以降に撮った5作はデータや当時のインタビューなどを載せている。最後はミニコミで出た『石井輝男闘病日誌』を転載している。非常に安易な造りだ。


そんなワケで、渋谷に通ったが、困るのは食事。道玄坂や百軒店にはラーメン屋がやたらあるが、食券買わせたりと大仰なわりにはもう一度行きたい味の店はない。カレーの〈ムルギー〉は午前11時から午後3時しか営業しない殿様ぶり。わざわざ入りたい店もなく、名曲喫茶〈ライオン〉で本を読むことが多かった。ここだけは昔と変らず安心するのだが、静寂が売りの店なのに、店員が私語していたのにはちょっと驚いた。


通る道が決まっているので、〈ブックファースト〉か〈啓文堂書店〉しか寄る本屋がない。前者では仕事の本をかなり買っているが、ナニしろ狭いので、あっという間に見終わってしまう。そこに東急本店に〈丸善ジュンク堂〉(正式には〈MARUZEN&ジュンク堂書店〉)ができると知ったので、期待した。今日がオープンだったので、ヴェーラに行ったあとで寄ってみた。東急本店に入るのはコレがはじめてかも。7階にあり、ワンフロアで約130万冊という。ジュンクらしい、図書館的な棚がずらっと並ぶ。レジの近くには新刊コーナーやフェア台があるが、全体的には棚で面陳する方向らしい。丸善らしいのは文具のコーナーぐらいだが、これが前の方にあるせいで、新刊コーナーと既刊の棚との連携が取りにくくなっているという印象も。通ううちに慣れてくるのだろうが、なんとなく落ち着かず、一冊買って早々に出てしまった。ちなみに、カバーは新古書店のカバー並みにそっけなく、デザインセンスが皆無。


初日に足を運んだ人は多いようだが、「空犬通信」(http://sorainutsushin.blog60.fc2.com/)のレポートが詳しい。ぼくはもう、書店でこういう丹念な観察ができなくなってしまったな。