新潟の冷や汁を食べる昼

8時起き。新潟で買ったそば。午前中は連絡あれこれ。10月以降、置賜会津、山陰、四国、近畿、九州などに行く予定があるので、確定事項を増やしていかなければならない。マネージャーなんかいないので、結構これに時間がとられるのだ。

昼は新潟で買った鮭の焼漬けと、沼垂の〈峰村醸造〉で買った新潟の冷や汁。ご飯に豆腐と大葉を乗せて、水で溶いた味噌の冷や汁をかけるだけ。さっぱりしていてウマい。郵便局から田端図書館。明日以降、1週間で3件の著者インタビューがあるので、関連本に目を通すだけでも大変だ。と云いつつ、本を読みながら昼寝してしまう。

たまにはRYUTist以外の新潟ネタも。9月23日からシネ・ウインドで「映画監督佐藤真と新潟と」。『阿賀に生きる』ほかテレビ番組まで含む作品を上映。牛山純一と野尻抱影が観たい。同時期に砂丘館では佐藤真の展示があります。上映にあわせ『阿賀に生きる』スタッフや飯沢耕太郎椹木野衣などトークも開催。人選もテーマも興味深く、新潟の人がうらやましいです。私も期間中に新潟に行く予定なので、何本か観られるといいと思っています。シネ・ウインドで映画観るのじつははじめて。ロビーまでは入っているけど、なかなか見たい作品と時間が合わなかった。https://www.facebook.com/MakotoSatoAndNiigata/

『青春と読書』5月臨時増刊号「集英社文庫創刊40周年記念号」を〈北書店〉でもらう。著者おすすめのタイトルやジャンル別ガイドに加え、40年のクロニクル、数字で見るトリビアなど盛りだくさん。手元に置いておくと役に立ちそう。他の文庫でも節目に合わせてこういうの出してほしい。

夏葉社から新刊、山本善行編『埴原一亟 古本小説集』届く。はにはらいちじょうと読む。芥川賞候補になっているが「忘れられた作家」で、古本屋を営んでいた。私は亀鳴屋から出たアンソロジー『したむきな人々』ではじめて知った。あと、解説に出てくる単行本も一冊持っているがまだ読んではいない。夏葉社としては創業時の関口良雄『昔日の客』以上の無名な著者だ。まず「亟」が入力できないもんなあ。でも、これは味読したい短篇集ですよ。こういう本が長く読まれていくようになればいいと思う。

根津へ。〈和幸〉で日本酒と豆腐バタ焼き、鮭塩焼き定食。うまい。そのあと、トンブリンさんと待ち合わせて、彼が教えてくれた店に一緒に行く予定だったが、先に入ってみると満席でびっくり。変わった業態の店だが、ちゃんと需要があるのだ。トンブリンさんに連絡して今日はナシにする。帰宅して明日の準備。朝から新幹線で神戸に向かうのだ。

寝る前にThe Laundries『Synanthrope』を聴く。これが気に入って、過去作も聴きたいと、このバンドのサイトを見ていたら、アルバムのレーベルdog and me recordsを主宰しているのが作家の西崎憲氏だと知る。びっくり。http://www.dog-and-me.com  The Laundriesというバンド名はThe Lilac Timeの曲からとったという。私はネオアコはほとんど聴かないが、このバンドの『And Love for All』はXTCのアンディ・パートリッジがプロデュースしたので買った。「The Laundries」はその一曲。

RYUTistを知ってから、これまでのCDや動画を視聴するだけでなく、アルバムに参加したミュージシャンのことや古町の歴史を調べたりするのが癖になってしまい、大変忙しい。中学生のころから、何かにハマると起源への遡行と関係者へと興味が広がってしまう。筒井康隆山下洋輔冷やし中華愛好協会→奥成達とか。YMOムーンライダーズを聴き始めたころは、ライナーに載っている全員のことを知りたくて、音楽雑誌を隅々まで読んだ。ただ、当時は田舎在住でネットのない時代だからまだよかったと、いまでは思う。ドはまりしすぎて、他のことができなくなったかもしれないからだ。適度に情報が遮断されていたことで、音楽のほかに、小説にも漫画にも没入することができた。

ただ、今みたいに膨大なアーカイブがあり、関連性も検索一発で判明すると、かえって先が見えて冷めるのも早いのかもしれない。しかし、これだけネットが発達しても、自分で調べたことや、現場で見聞きしたことの優越性(少なくとも自分にとっての)は変わらない。身銭を切ること、時間を費やすことは決して無駄にはならないと思う。とはいえ、あまりに畑違いな世界なので面白がりつつちょっと困惑はしているのだが。

フリーランスと出版社

なんだかちゃんと眠れず、朝方に起きてしまった。メールの返事を書いたりして、10時ごろまで眠る。そのあとは洗濯したり、読みかけの本を読んだりする。

赤道古本市で買った、佐倉色『とある新人漫画家に、本当に起こったコワイ話』(飛鳥新社)を読む。書店で見かけて気になっていた。KADOKAWAの雑誌でデビューした漫画家が、担当編集者の理不尽な要求に追い込まれていく実話。「ボーノ」という編集者の実名こそ出していないが、出版社名も雑誌名も出している。そうしないと説得力がないということもあるだろうが、私が知らないだけで、すでにネット上で話題になっていたので隠しても仕方がないということなのだろう。

フリーランスで仕事をしていると、出版社の編集者から理不尽な対応をされた経験は誰にでもあるだろう。私にもある。もちろん、この作者が受けたほどのひどいものではないので、なんとか続けていられるわけだが。ここに描かれている編集者の質が悪いところは、謝ったり誠意を見せているときには本人も心底反省しているように見えるところだ。でも、一枚薄皮をはがしてみれば、仕事相手を根本的になめていたり、会社が守ってくれると安心しているわけだ。

この本の後半で作者は、「というかここまで やられているのに ボーノ氏からの悪意や 敵意や目的が 全然見えてこない事が 不気味で怖い… 人が相手じゃないみたい」と感じているが、たしかにこれは怖い。漫画家が編集者との関係を描いたドキュメント的漫画として、西島大介の『魔法なんて信じない。でも君は信じる。』(太田出版)を思い出した。

この本を読んだ人は、出版業界で仕事をしているフリーランスの立場から書かれたこの書評(https://shimirubon.jp/reviews/1682954)も読むと、いろいろ考えるきっかけになるかもしれない。かなり長いですが。

6時に千駄木の〈おでん高橋〉。奥の座敷で、〈古書ほうろう〉の健太郎さんと一緒に、Nさんと会う。「不忍ブックストリートMAP」を参考にしたいということで、一通りお話しする。夏だけど、おでんがうまい。10時に解散して帰る。

8月28日(月)19時30分より〈古書ほうろう〉で南陀楼綾繁 × 吉上恭太 × 山川直人トークイベント「東京で語ること、歌うこと、描くこと」開催。予約受付中です。当日来場された方にはこの日のためにつくったフリーペーパーを配布します。
http://horo.bz/event/ayashige_kyota_naoto20170828/

新潟から奥沢へ

7時起き。テレビで朝のニュース見る。9時前に宿を出て、近くのバス停へ。新潟駅に向かうバスに乗る。信濃川にかかる八千代橋を渡ると、左手にNST新潟総合テレビ)の社屋が見える。RYUTist関連の動画には、彼女たちがゲスト出演したことのある『八千代コースター』が見つかるが、八千代橋近くの会社だからこういう名前なのだ。なるほど。この番組、面白そうなので見てみたい。

万代シテイで降りて、バスセンターの立ち食いそばでわかめそば。このあと飲むのでカレーは食べず。新潟市無線LANが使えるので、ベンチに座ってYouTube見る。昨日のRYUTistライブはカバー曲もよかった。私がカバーしてほしいと思うのは、マーガレットズロースの「ぼーっとして夕暮れ」。コーラスが映える曲。ボーカルの平井正也さんは新潟県新発田市出身で、いまは別府在住。https://youtu.be/SrTw5gp1wUk あと、とんちピクルスさんの「抱きしめたい」もリリカルでいい。https://youtu.be/YJvOVc4bgic もっとも、とんちさんには、純真な女の子にはタイトルすら聴かせられないヤバい曲も多いが(笑)。

駅まで歩き、〈ぽんしゅ館〉へ。佐藤ジュンコと落ち合う。窓際のテーブルに荷物を置いて、まずは買って帰るものの物色。前回気に入った鰹だしのしょうゆやぽん酢、そば、バスセンターのカレーのレトルトなどを買う。11時からバーで酒を出すので、地酒の利き酒セットを頼む。大き目のぐい飲み3つに入っているので、けっこう飲みでがある。3種類300円のおつまみセットも。あとから文旦さんも来て、午前中から飲みながら話す。

12時に出て、改札で二人と別れて新幹線に乗る。ぽんしゅ館で買っておいたおにぎりと味噌汁食べて、眠っているともう上野だ。そこから奥沢まで行かねばならないが、荷物が重い。しかし、一度家に帰ると出かける気力をなくしそうなので、頑張って山手線に乗る。目黒で乗り換えて奥沢。南口の、いままで入れていなかった古本屋が今日は開いていたので覗く。

北口を5、6分歩いて〈読書空間みかも〉へ。古民家の応接間で二か月に一回ぐらい一箱古本市をやっている。参加者はいつも5、6箱だけどアットホームな感じがいい。休憩に使っている座敷に荷物を置いて、今日のトークのメモを取ったりする。

古本市が終わって、6時にトークがはじまる。新刊『町を歩いて本のなかへ』(原書房)ができるまでを、編集のHさんとのやり取りも含めて話していく。この半年間ぐらいのことだが、改めて経緯をたどってみると、ああそうだったと思うこと多し。とくに今年は1月から3月まで、自分が自分でなかったような日が続いていたので。いったん話を終えると、おいしいスイカが出てくる。それを食べながら、雑談モードに。後から来たレインボーブックスさんに「ナンダロウさんが私のことをよくネタにしているそうですが」と云われるが、半分はちゃんとリスペクトして紹介しているのですよ。もっともあとの半分は、そこまでやるかとあきれてますが。

疲れ切って、奥沢から南北線駒込で降りて、駅前のラーメン屋でビールとラーメン。タクシーで帰る。荷物を片付けつつ、RYUTistのCDや、「柳書店」で演奏した鈴木恵トリオのシングルなど聴く。「サンディー」で超泣けるイントロのギターを弾いている遠山幸生さんにいただいたThe Laundries『Synanthrope』も聴く。英語詞の曲も日本語詞の曲もいい。せつなさを感じるボーカルと演奏。そのあとも、動画を流しっぱなしにして寝る。東京に帰ってきたが、まだ体の一部分は新潟にあるみたいな感じだ。

「柳書店」が結ぶ縁

朝7時起き。調子に乗って飲みすぎて、頭が痛い。出かけようとしたところに大雨が降ってくる。旅館で傘を借りて、古町モールまで歩く。喫茶店を探すがまだ開いていない。前回行った〈エトワール〉が8時オープンなので、前のベンチで待つ。あとで誰かが云っていたが、古町の喫茶店はなぜか二階にある店が多い。エトワールも同じだが、オープン直後からどんどん客が入ってくる。モーニングはトーストやサンドイッチなどがあるが、胃に優しいものをときのこ雑炊を選ぶ。雑炊というよりはリゾットぽくて、身体にしみいる。この店はコーヒーもウマいのだ。

バスで新潟駅へ。駅の南口まで歩く。毎回歩くためにこんな反バリアフリーな駅はないなと思う。いま工事しているが、すこしはマシになるのだろうか。本数が少ないのでバス停のベンチで待ち、9時20分のバスに乗る。15分ほど乗って、野球場科学館というバス停で降りる。変わった名前だと思ったら、もともと野球場があって、それとは別に科学館というのもあるのだった。県立図書館はさらに奥にあって、10分以上かかった。すでに汗だく。

県立図書館に来るのは初めて。館員のOさんに連絡しておいたので、出勤日じゃないのに来てくれていた。調べはじめているテーマについての資料をいくつか出してくれている。それから2時間ほど調べもの。ここは公開書庫といって、手続きすれば書庫の中に入れるのがいい。一区切りつき、受付でバスの時間を確かめたら、ついさっき出たところ。施設内のカフェでサンドイッチとコーヒーで時間をつぶす。

バス停まで歩き、そこで15分近く待ってバスに乗る。南口から万代口に出て、またバス停。ここもさっき出たところ。とことんタイミングが悪い。バスは東に向かって走り、沼垂を抜ける。「◎◎木戸」という名前のバス停が続き、下木戸で降りると、目の前が東区役所。そこのエントランスで開催されている「赤道古本市」を覗く。出店者は17,18組ほどで、学校町通の常連が多いが、最近どこにでも夫婦でやって来る「カメブックス」がココにも参加。新潟本を多く出している箱から、朝日新聞新潟支局編『越後の停車場』(朝日新聞社)を買う。県内の全路線、全駅の歴史が記されている本で、図書館で見たときからほしかったもの。

これから古町方面に戻るのに、一発で行けるバスがなく、また駅で乗り換えないとと云われ、ガクッと来る。バス好きだけど、この乗り換えの連続は疲れる。それを見て、主催の文旦さんが店番を抜けて、車で送ってくれる。ありがたい。これまで通ったことのない、工場の裏道を抜けるルートを通ってくれたのも面白かった。

塚田旅館に戻り、布団に寝転んで休憩。2時間ほど涼んだので、体力が回復した。5時半に出て、〈北書店〉。すでにお客さんが並んでいる。ドアには佐藤ジュンコ直筆のRYUTist×北書店「柳書店」のポスターが貼られている。中に入れてもらって、適当な位置に座る。そのあと、開場してどんどん席が埋まっていく。いつものトークイベントでは出たところ勝負の佐藤店長が、入念に段取りをチェックしているのがほほえましい。

6時に柳書店、開演。女学生らしく白シャツにスカートで、眼鏡をかけたメンバーが登場。鈴木恵withフレンズをバックに、本日初演の「虹」を歌う。絵本作家の中川ひろたか作曲で、いろんなミュージシャンがカバーしているそうだ。夏の夕方に聴くのにふさわしい曲だ。

そのあと、第1部のトークコーナー。佐藤店長の司会で、メンバーとのやり取りがあり、のんのが佐藤ジュンコの本が好きだという話から、ジュンちゃんが前に出て話す。次に、新潟の一箱古本市の話になり、私が前に呼び出される。一箱古本市をはじめたきっかけや、谷根千を案内したいこと、昨日ともちぃの取材をした話などする。最近トークで緊張することはなかったが、メンバーの真横に立たされうろたえ気味。佐藤さんに「オレのほうばっかり見ないで」と注意される。

その後、『柳都芸妓』の中ジャケに新潟の古地図を提供した野内隆裕さんが登場。新潟の街歩きの活動をしつつ、私も昨日行ったカフェ〈日和山五合目〉を経営している。「好きな小路」を語り出すと止まらないところは、古本界隈にもこういう人いるいるという感じで親しみやすい。野内さんはテレビ番組がきっかけで会った安部プロデューサーが、古町の歴史について何度も尋ねてくる様子に「こいつは本気だ」と感じたそうだ。

新潟に来る前に、Facebookで安部さんが野内さんに協力してもらったことを書いていて、そこにこんなことを書いていた。

「まだまだわからない事が沢山ありますが、古町を見る目が変わったのは間違いなく、『歴史の上を歩いている』。小さなカケラを見つけて、それを調べ結びつけ。今もそれを続けています」

これを読んだとき、私も自分なりに「本」で同じことをやってきたんだよなあと、共感したのだった。そして、野内さんも「街歩き」を突きつめてきたからこそ、安部さんの本気さをすぐに判ったわけだ。分野は違えど、熱量の高さは伝わるのだ。嬉しくなって、トークが終わったあと、野内さんとあれこれ話す。

第2部はライブ。鈴木恵withフレンズの生演奏と、音源を使った曲が半々ぐらいだったか。『柳都芸妓』からも前のアルバムからもやり、「家族の風景」(ハナレグミの曲だとあとで知った)などのカバーもやる。先週の渋谷〈eggman〉のライブでは、大音量でダンスしながらのパフォーマンスだったが、今日はスタンドマイクでじっくりと歌声を聴かせてくれた。左端に座っていたので、むうたんの顔が真正面にある。歌っていない時にもいつもニコニコしている。アンコールも入れて10曲以上やってくれた。


鈴木恵さんは普段はトリオで活動している。今日は演奏しつつ、カフェも出していた。青木宏美さんのドラムも快調なビートを刻んでいた。「サンディー」の冒頭に泣かせるギターを弾いた遠山幸生さんはThe Laundriesというバンドもやっていて、あとでCDをいただく。

終わると、奥で物販コーナーがオープンし、長蛇の列が。その一方で、トークでジュンちゃんと私の本を紹介してくれたので、買ってサインを求めてくれる人がいた。何人かのファンと話すが、明日の東京のイベントにも参加する人が多い。一番すごかったのは、他県に住んでいるが、ライブに通うために新潟に部屋を借りたというひとだった。

RYUTistにはまりはじめたとき、自分はグッズには手を出さないだろうという確信があったのだが、今日のイベントに合わせて佐藤ジュンコイラストのトートバッグが発売されており、もろくも列に並ぶ。トートと持ってなかったCD『フレ!フレ!フレ!』を買うと、握手券を2枚くれた。それを持って、メンバーとひとりひとり握手。マネージャーさんに「2枚あるからもう一回並べますよ」と云われたけど、さすがにそれはしなかった。

物販が終わり、ファンが退出したのち、メンバーとスタッフの打ち上げ。佐藤店長が張り切ってたこ焼き器を持ち出し、メンバーがタコを切ってたこ焼きをつくってくれた。昨夜の飲み会で私が誘ったので初参加した亀貝さんも、すっかりRYUTistが好きになったようだ。メンバーともちょこちょこ話させてもらうが、みんな、とことんいい子なのであった。明日は東京で2公演もあって朝早く出発するのに、日付が変わる頃まで付き合ってくれた。

最後に残った人たちで片付け。あとは佐藤さんとジュンちゃんにまかせて、宿に帰る。風呂に入り、今夜のことを反芻しつつ床に入る。ニイガタブックライトの活動は2011年6月の「一箱古本市in現代市」からはじまっているが、のちにRYUTistとなるメンバーのオーディションもその前の月に開催されているのだ。新潟の一箱古本市RYUTistが同じ年にはじまっていることに、奇縁を感じる。

古町から沼垂へ

朝7時起き。上野駅へ。構内の讃岐うどんでぶっかけ食べて、新幹線に乗る。途中まで本を読んでいるが、途中からよく眠った。長岡のあたりでは大雨だったが、新潟駅に着くと曇りだが降ってはいない。いつものレンタサイクルを借りる。気温は高く暑いけど、万代橋を渡るときには風が涼しかった。

常宿の塚田旅館に荷物を置いて、〈北書店〉へ。藤村誠『古町芸妓物語 新潟の花街』(新潟日報事業社)を買う。前に旧版を持っていたが、手放していた。RYUTistの新アルバム『柳都芸妓』を聴いてもう一度読んでみたくなった。古町の13の小路を歌詞に詠み込んだ「夢見る花小路」を脳内再生しつつ、古町を西から東へと走る。

日和山という、上に神社のある小山の中腹にあるカフェ〈日和山五合目〉へ。一階がギャラリーとカフェの注文口で、二階がテーブル席。本棚には新潟の郷土資料がずらりと並ぶ。地元の女性二組が世間話をしている横で、何冊か引き出して眺める。そのあと、商店街のほうに戻り、〈東屋〉でチャーシューメン。やわやわの麺に塩味。うまい。次はそばも食べたい。少し時間が余ったので、〈ドトール〉へ。

古町通7番町の柳都アーティストファームへ。そのうち出る本に収録される予定で、RYUTistのともちぃこと宇野友恵さんにインタビューする。6月の学校町通の一箱古本市のときは顔さえ判らなかったのだが、この二か月でアルバムを聴き動画を見まくって、インタビューの下調べの限度を超えた情報を蓄積してしまった。マネージャーの松木さんの名前も知ってたし。本題を離れて、いろいろ訊きたくなる気持ちを抑えて、1時間半ほど話を聞く。あとから北書店の佐藤店長が来て、聴いていた。

終わって、また万代橋を渡り、メディアシップの新潟日報社へ。記者の方に挨拶に行ったが、思いがけず打ち合わせに発展した。沼垂方面に向かい、〈古本もやい〉。二度目だ。店番は書肆鯖くん。店内で「古本みずのいきもの」という企画をやっている。那覇の〈くじらブックス〉、鳥取の〈汽水空港〉など全国の「水っぽい」屋号の古本屋さん9店舗が本を出している。信濃郷土誌刊行会編『信濃怪奇伝説集』(初版1934、6版1943)を800円で買う。近くの市立中央図書館の郷土資料コーナーで調べもの。今回も面白い資料が見つかる。

〈峰村醸造〉でレンタサイクルを返却。いままで沼垂周辺にはスポットがなかったはずなので、ここができて便利になった。店内で味噌漬けなどを買う。栗の木バイパスを渡り、〈東来順〉でカレーとラーメンのセット。ここのカレーがうまいということは数人から聞いていたが、実際、そば屋のカレー的なものとは違う、スパイスのきいたカレーでうまかった。〈BOOKS f3〉では石川直樹展をやっていた。石川さんを編集長に知床斜里観光協会が発行した『SHIRETOKO! SUSTAINABLE』を買う。知床の人たちがたくさん登場している。

沼垂テラスの〈ISANA〉へ。仙台から来た佐藤ジュンコとISANA店主の中川なぎささんとのトーク。2年前は私も入れた3人でこの店でトークをした。2人の人柄を反映して超ゆるゆるのまま進む。これはこれで面白いと思っていたら、最後にそれぞれイイ話をして締めた。なぎささんの「デラックス」おばあさんの話は、店をやっている人だけでなく何かの場を持っている人なら共感するはずだ。ジュンちゃんが東日本大震災後に描いた絵の線の話もよかった。途中からRYUTistののんの、ともちぃ、みくちゃんとプロデューサー阿部さんも参加して、熱心に聴いていた。

打ち上げは向いの〈大佐渡たむら〉。その席では、主役の2人を差し置いてRYUTistの話ばかりしてた気がする。いい気分で、新潟の日本酒・藤の井や鶴の友をどんどん飲んだので、翌日は二日酔いになった。12時過ぎに終わって、佐藤店長、ジュンちゃんとタクシーに。塚田旅館に戻り、風呂に入って寝たのは2時過ぎ。

ちょっとぜいたくな朝食を

朝8時半起き。昨夜からの雨はまだちょっと降っているが、傘をさすほどでもないので、自転車で出かける。池之端の〈ASAGAO〉へ。トンブリンさんから教えてもらった、朝7時から食事ができるレストラン。1階はカウンターのみ、2階はカフェスペース。カウンターに座り、ワンプレートのランチ(?)を食べる。フレンチだが、箸で食べる。焼いた鯛、国産鶏肉のソテー、マカロニと玉葱。素材もソースもうまい。食後のコーヒーは根津神社近くの〈みのりカフェ〉の豆と淹れかただそうで、これも美味しかった。これで1296円はリーズナブルだ。午後3時まで営業で、夜は1組のみ予約を受け付けるそうだ。ちょっと知り合いを連れていきたくなる店。次はコースにも挑戦してみたいものだ。

いい気分になって帰るが、雨が強くなってくる。それでも霜降銀座まで行き、1100円の散髪屋でバリカンで3ミリ。帰ってシャワー浴びるとスッキリした。朝からいいモノを食べたので、昼はさすがに食べる気がしない。

佐高信『メディアの怪人 徳間康快』(講談社+α文庫)読了。出版史的にも興味深い箇所が多いが、なによりも徳間書店徳間康快が義に厚く、決断力のあるボスだったことが判る。徳間書店以外にも大映の再建に関わり、日中合作の『敦煌』や日ソ合作の『おろしや国酔夢譚』を実現させたこと。逗子開成学園を立て直し、生徒に慕われたこと、宮崎駿のアニメにカネは出すが口は一切出さなかったことなど。彼のもとには政治家、作家、ジャーナリストなどさまざまな人たちが集まった。その群像も興味深い。徳間が引き受けた『東京タイムズ』で、佐高の連載を担当したのがのちに晶文社に入る中川六平さんだった。あとがきで著者はこう書く。

「徳間さんが現れてニコッとするだけで、パッと座が明るくなる。フランスの哲学者アランは『楽観主義は意志の所産である』と言っているが、他人を愉快にさせながら、自分はとてつもない寂寥を抱えていた。そこがまた魅力だったのである」

本書で引用されている『徳間書店の30年』は私も持っているが(そして、探しても出てこないが)、読ませる出版史だった。

そのあと、宮田昇『出版の境界に生きる 私の歩んだ戦後と出版の七〇年史』(太田出版)を読む。第一部では自身の来歴を詳細に語っているが、早川書房に入社する前の、近代文学社で編集をしていた時の話がとくに面白い。宮田さんはその後、英語教材の南雲堂に入るが、ここで出していた変型のフェニックス・ライブラリーから、早川書房のポケットミステリを思いついたというのは貴重な証言だ。また、早川の後に入るタトル商会より前に著作権仲介をしていたフォルスター事務所は、日比谷の日活国際会館にあったという。この建物はのちに日比谷パークビルと改称、2000年代に取り壊された。跡地には2007年にザ・ペニンシュラ東京が建てられたという。解体前の様子は以下のブログに詳しい(http://www.us-vocal-school.com/weblog/music_life/archives/000670.html)。

夕方、田端図書館へ。雑誌や新聞を流し見する。情報欄で行っておきたい展示をいくつか発見。スマホで自動的に情報が飛び込んでくるようになっても、こちらが興味を持つ情報は紙の雑誌で得られることがいまだに多い。帰りがけに、劇団東京乾電池『長屋紳士録』公演のチラシをもらう。遠目でも蛭子能収の絵だと一発で判る。エビスさんの絵はじつはとてもポップでデザインしやすいと思う。夜は録画を消化しつつ、あれこれ。豚肉、モヤシ、きくらげの卵とじと味噌汁。

野勢奈津子・松岡宏大・矢萩多聞『タラブックス インドのちいさな出版社、まっすぐに本をつくる』(玄光社)届く。日本でも『夜の木』などが翻訳されている、南インドの手づくり出版社の人々についてのノンフィクション。図版も多く入っていて面白そう。

終戦記念日にめくる最後のページ

朝8時起き。終戦記念日。盆休みで電車は空いている。高田馬場に出て、〈吉そば〉で天玉そばを食べ、隣の〈サンマルクカフェ〉で本を読む。出ると、雨が強くなってきた。

神楽坂の新潮社へ。先月から通っていた作業も今日で終わり。10日間通ったことになる。サクサク進んで1時半には、最新号の最後のページをめくる。やっと眺め終えた。少なめに見積もっても50年分で4万ページ以上めくったことになる。これから補足の調べものをして、いよいよ原稿を書かなければならないのだが、最初の関門は突破した感じ。

夏休み明けですっきりした顔をしている担当のTさんと、雨の中を〈カド〉へ。先日行って気に入った店。昼酌セット(天狗舞、マカロニサラダ、もつ煮込み)と鶏から揚げ定食という豪華な組み合わせで、ちょっと打ち上げ。ただ、昼営業の終り近くなので、一気に全部出されてゆっくり食べられなくて残念。すぐ近くの〈クラシコ書店〉を覗き、地域雑誌『ここは牛込、神楽坂』の田中小実昌がエッセイ書いている号など2冊買う。

大手町経由で西日暮里。地上に出ると大雨。空気もムシムシしていて、歩いていると汗だくになる。おまけに腰が痛くなって、雨の中、何度も立ち止まる。やっと家に着いて、シャワーを浴びて昼寝。夜はたまっている録画を消化。豚肉としめじのトマトパスタ。まだ雨が降り続いている。