《女の防波堤》と《事件記者》

昨日は〈フィルムセンター〉へ。「よみがえる日本映画 新東宝篇」も今秋で終わり。見損ねた作品が何本か。入口で高崎俊夫さんと会う。小森白監督《女の防波堤》(1958)は、敗戦後、連合軍兵士向けに設立されたRAA(特殊慰安施設協会)で働く女たちが主人公。運命に翻弄された女たちを描くという名目の下、煽情的なエロと下世話な興味をたっぷりと盛り込んだ新東宝らしい作品。さんざん主人公(小畑絹子)をもてあそんでおいて、最後にとってつけたようなハッピーエンドで終わる。監督の小森白は、関東大震災後の社会主義者弾圧をこれでもかと云わんばかりにグロテスクに描いた怪作《大虐殺》の監督でもある。実話をもとに話を膨らませるのが得意だったのだろうか。


終わってから、東京駅の丸の内北口まで歩くと、15分ぐらいかかる。〈オアゾ〉前野バス停で、ちょうどやってきた「江北行」の都バス(東43)に乗り込む。昔、本郷から大手町までこのルートに乗ったことを思い出し、これで帰ることにしたのだ。大手町→神田錦町駿河台下→御茶ノ水駅前→本郷三丁目本駒込→動坂下というルート。東京の古くからの中心部をぐるっと回る感じ。駿河台下の古本屋街もバスから見下ろすと違った印象で面白い。動坂下で降りて、本駒込図書館で調べ物と読書。そのあと、〈ときわ食堂〉に行くとほぼ満員。チューハイと定食。


帰りに〈古書ほうろう〉で、往来座・のむみちさん発行の『名画座かんぺ』2月号を受け取る。日にちごとに、名座座6館のスケジュールがヨコ並びに書かれていて、今日は何を見ようかなという時にすぐチェックできる。観たものをマーカーで塗っておくと、鑑賞記録代わりにもなるので、いつも手帳に挟みこんでいる。


それと、先日ここにも書いた、矢部登『田端抄』をほうろうで販売開始しています。500円(税込)。田端を歩いたことがある人なら、必読。近いうち、田端の〈石英書房〉にも置かれる予定です(石英さん、メールしましたよ)。


今日は昼飯に大鍋にカレーライスをつくる。それから阿佐ヶ谷へ。〈ラピュタ阿佐ヶ谷〉で昨日からスタートした特集「記者物語 ペンに掛ける」は、知らない作品が多く、なるべく観に通いたい。山崎徳次郎監督《事件記者》《事件記者 真昼の恐怖》(1959)は、同名のNHKドラマの映画化。50分前後でひとつの事件をスピーディーに見せる。記者クラブのキャップは永井智雄、新米記者が沢本忠雄。ライバル社の新米が山田吾一で、コミカルな役柄で笑わせる。


もう一本は、鈴木英夫監督《危険な英雄》(1957)。石原裕次郎主演かと思えば、なんと石原慎太郎主演。自分の原作でもないのに出演してるのは、これ1本じゃないだろうか。役柄は、目的のためなら手段を選ばない若手記者。誘拐事件の取材で警察が隠していることをスクープにし、そのために子どもが殺されても反省しない、という鉄面皮キャラ。何が起ころうと「おれは正しいことをやっている」と押し通すところは、後年のご本人そのもの。演技はそう悪くないけれど、あまりにも華がない。裕次郎だったらプライドの高い記者の寂しさも表現できただろうし、ライバル記者の仲代達矢を主演にすればクールな悪漢になっただろうが、慎太郎には無理。結局、最後は地方に飛ばされるが、全然反省してないので、後味が悪い。どう考えても損な役柄だと思うのだが、ナニを考えて受けたんだろう? 脚本は須川栄三だが、どうもさえないのは、長谷川公之の潤色で改悪されたのか。芥川也寸志の音楽も緊迫したシーンに暢気なメロディーが流れるなど、ミスマッチだった。


「悪い奴ほどよくWる」さんより、西荻盛林堂書房〉内の「古本ナイアガラ」のメンバーがつくるフリーペーパーの創刊号『古本ナイアガラ 旅のしおり』を送っていただく。どっかでみた書き文字だなあと思ったら、『晶文社スクラップ通信』を編集していたTさんの手になるものだった。特集「私のベスト5」など、ちょっとした読み物が楽しい。こういうモノを見ると、つい「オレも混ぜろ」と云いたくなるのが悪いくせ。


倉敷の蟲文庫田中美穂さんからは、丁寧な手紙とともに、新刊『私の小さな古本屋』(洋泉社、本体1400円)をお送りいただく。メルマガ「早稲田古本村通信」などに書いた文章をもとにした、18年の古本屋暮らしを綴った本。少しずつ読みたい。


あと、『雲遊天下』の最新号も出ました。特集は二つ。「ブレないふたり 鎌田慧小野民樹」「2011年 私の読書」。後者には平井正也マーガレットズロース)、島田潤一郎(夏葉社)、山下賢二(ガケ書房)、野中モモ近藤ようこ倉地久美夫、ミロコマチコ、栗原裕一郎近代ナリコ、渡部幻ら注目の書き手が参加。こういうコラム特集はこの雑誌のカラーに合ってると思うので、今後もやってほしい。ぼくの連載は「酔狂の向こうに」。往来座・瀬戸さんのブログの文章を借りたりしながらの、近況報告みたいな文章になりました。ちょっと暗めの。でも、書き終えてからすぐに、もう楽天的な性格に戻っています(それがいけないのでしょうが)。落ち込んだりすることもあるけれど、私は元気です。