上田で真田丸もサマーウォーズも観ず

7時過ぎに子どもの声で目覚める。母屋以外に小屋(中里和人さんがつくった小屋も)やテントがいくつもあり、いろんな人たちが泊まっている。田島征三さんがつくったという小屋全体がオルガンになっているのを見にいく。鳴らしかたが判らなかった。起きてきた人から三々五々、食事。昨夜、いちばん遅い人は朝4時まで話していたそうだ。

依田さんの車で、15分ほどのところにある布引観音温泉へ。そこから1キロほどのところに布引観音があり、美しいと聞いていたが、温泉に入った後に大汗かいて上がるのもなあと、今回はあきらめる。温泉のお湯は熱めで、さっぱりできた。また依田さんが迎えに来てくれて、途中のコンビニで長野市に送る荷物を発送。小諸駅で降りて、しなの鉄道に乗る。初めて乗るけど、これ一本で、軽井沢から長野まで行けるのだ。景色を眺めていると上田に着いた。20分と近い。

駅前の駐輪場でレンタサイクルを確保。無料だが、台数が少ないので借りられてよかった。地図を眺めて、行動開始。まず北東にある上田図書館へ。古くていい感じ。二階の郷土資料室へ。棚を眺めていると、いろいろ発見がある。作家の新田潤が上田出身だったり、山本鼎が上田で自由画教育をはじめていたり、『大菩薩峠』『宮本武蔵』の挿画で知られる石井鶴三の記念館が上田にあったこと(いまは閉館)など。びっくりしたのは、この図書館に飯島花月の「花月文庫」を所蔵されていたこと。この目録は以前調べたことがあった。和本以外にも明治・大正の雑誌や風俗史に関する書籍が多く、交流のあった宮武外骨の本も多い。1、2冊借り出してみたいけど、時間がないのでやめておく。コピー数点とって、出る。

西に向かう道を通り、駅から続く通りへ。〈池波正太郎真田太平記記念館〉がある。大河ドラマの『真田丸』に興味はないが、池波の『真田太平記』は高校の図書館で借りて一気に読んだ。ちょっと見てみたいが、本屋優先なので後回しに。そして結局、行かなかった。ちなみに、上田はアニメ映画『サマーウォーズ』の舞台であり、聖地巡礼のマップもあるらしいが無視。この作品は好きですが、優先順位は低い。

道をへだてて、新刊書店と古本屋が並んでいる。まず、古本の〈斎藤書店〉へ。入り口に「七月末日をもって閉店します」とあり、驚く。入ってみると、とても広い。薄利多売の昔の古本屋という感じで、特別珍しい本はないけど、値段は安い、一回りして、文庫2冊と『長野県犯罪実話集 捕物秘話』第12集(防犯信州社)を買うことに。「なぞのピンホール殺人事件」「おれは大泥棒だった」など、見出しがそそる。帳場に持っていくと、おばあさんが900円のところを「500円でいいですよ」と云ってくれる。別の客との会話で、ご主人を施設に入れたと話していたので、もう商売する気力がないのだろう。昨日、あれだけこの近辺の人に会ったのだが、上田の古本屋情報として斉藤書店のことや、ましてその閉店のことを教えてくれる人はひとりもいなかった。この辺に、いまのブックイベントと、昔からある本屋の間に乖離があることが判る。この間をつながないと、イベントなんかやる意味はないですよと云いたい。

向いの〈平林堂書店〉へ。ここも広いなあ。戦後すぐに別の店名で創業したはず。あとで寄った〈コトバヤ〉に社史があった。郷土関係の棚も充実している。上田図書館で見かけた私家版と「上田小県近現代史研究会ブックレット」のある巻を探したが見つからず、店の人に聞いたけど在庫はなかった。残念。「ブックレット」の『夢と暮らしを乗せて走る別所線』『蚕都上田ものがたり』買う。

北上して柳町へ。ここはまあ、美観地区ですね。〈コトバヤ〉へ。昨日の古本市でお隣だった女性店主が迎えてくれる。古い民家を使ったブックカフェ。古本には目を引くものがある。読書の森も出ているという『小諸町人鑑』を新刊で、長野県東御市のリトルプレス『hitoiki』、サントリー美術館の芹沢ケイ介展のパンフレットを買う。「上田焼きそばの店がいいですよ」と教えられて行ってみるが、二軒とも待っている客がいて諦める。何かないかと裏通りに入ってみると、〈藤かつ〉というとんかつ屋を見つける。客は誰もいない。ソースカツ丼が美味かった。その近くの〈上田映劇〉の建物を眺める。エドワード・ヤンの作品もやっている。いつかここで映画観てみたい。

海野町の〈上田デパート〉という古いビルへ。その名の通り、いろんな店が入っていたのだが、いまは全部なくなって、〈メロディーグリーン〉という店だけが営業している。この店がすごい! 中古レコードと古着となぜか世界のタバコ(紙巻だけじゃなくて刻みタバコもある)を売っている。レコードは相当マニアックで、日本のミュージシャンの棚を眺めるだけでも欲しいのが見つかる。土岐麻子『LIGHT!』、倉地久美夫『夏をひとつ』を買う。

そこから気合を入れて、東へ走る。古本屋ツアー・イン・ジャパンさんが二回訪れても営業していなかったという〈ほその書店〉に向かうのだが、コトバヤさんに場所を教えてもらったら観光マップのエリアからはみ出してしまったのだ。途中、古い建物があったので寄ってみると、八十二銀行上田東支店だった。さらに東に行くと、大きくカーブする坂にぶつかる。これを越えるのか……とうんざり。途中まで行くも、とても上がり切れる感じがせず、あきらめて引き返す。と、その交差点の向こうに「本」の看板が! 大通りの反対側を走っていたので、気づかなかったのだ。いさんで店の扉を開けようとするが、無情にも鍵がかかっていた。

ふと見ると、隣にもうひとつ建物があり、そちらも〈ほその書店〉のようだ。近寄って見ると、入ったところの床に本が散乱していて、おじさんがかがみこんで何か作業している。恐る恐る「入っていいですか?」と訊くと、「いいですよ、入れるところはね」という返事。つまり、客のためにいまそこにある本をどかすつもりはないという宣言だ。もちろん了解して、山をまたいで奥に入る。天井までの棚に本がぎっしり詰まっている。通路には本が積まれてないので、意外にちゃんと見られる。戦前から昭和50年代までの本が多く、背表紙を見るだけでわくわくする。棚ごとに分類されていないようで、何が出て来るか判らない。しかも、本には値段がついてないので、店主に聞くしかないのもドキドキの要因だ。

15分ほど眺めて、4冊を抜き出し、店主に渡すと「6000円ですね」と云われる。1冊は戻して、3冊で5000円払う。大崎紀夫『湯治場』(朝日新聞社)、武田肇『半ズボンの神話』(第二書房)、小川定明『新聞記者腕競べ』(須原啓興社、大正6)。一冊ごとの値段は大判の写真集の『湯治場』が一番高いと云われたが、おそらく『新聞記者腕競べ』の方が珍しいだろう。会計後、見上げたら階段から二階までも本がぎっしり。階段にモノが積まれていたが、頼んで見せてもらう。本だけじゃなくて、器などの量も半端ない。営業してくれていてほんとによかった。ちなみに、「知り合いが何度か来たけどやってなかったそうで」と云うと、「午後はだいたいいるけどね」とシレッとおっしゃった。

次に〈BOOKS & CAFE NABO〉へ。こちらは打って変わって、古民家を改装したおしゃれな古本屋&カフェ。カフェだけでも席数多く、古本の量もかなり多い。カウンターでリンゴジュース飲む。『上田市誌 近現代編』が分冊で新刊として販売されていたので、「上田の風土と近代文学」の巻を買う。すっかり荷物が増えた。店を出ると雨が降り出している。急いで駅前に戻り、駅前ビルのパレオの中にある〈上田情報ライブラリー〉へ。新しくできた図書館らしく、閲覧席が多い。ここも郷土資料が充実しているので、あれこれ引き出して眺めるうちに眠くなってきた。

外に出ると、雨は止んでいた。上田城の近くの〈蚕都上田館〉を見に行く。1915年(大正4)竣工で、最初は上田市図書館、そのあとは石井鶴三美術館だった。いい建物。

ちょっと一杯飲むかと、昼間ウロウロしたあたりに戻るが、日曜でもあり、もうちょっと後に開店する店が多いようで、いい店が見つからない。駅前に戻ってレンタサイクルを返却し、近くのビルの地下の飲食街へ。居酒屋に入り、ビールとおたぐり(馬のモツ煮)、日本酒と野沢菜。ほどよく酔い、駅の一階の立ち食い(椅子はあるが)そば屋へ。きのこそばを頼むと「ゆでるのに3分かかります」と云われる。その通り、本格的なウマさで、きのこも大きく、これで380円とはすばらしい。近年食べた立ち食いそば屋のベストだ。

小諸に戻ると、また車で迎えに来て下さる。読書の森には、今日も新しい客が。スイスで活動しているスイス人の夫と日本人の妻がいたり、数週間泊まり込んで農作業をしていたオーストラリア人女性がいたり。食べ終わると、スイス夫婦の演奏がはじまり、別の部屋に移って演奏が続く。私も太鼓で参加した。

今夜もまだまだ続くみたいだったが、10時ごろに失礼してパオに戻る。自転車とはいえ、一日移動し続けだったので、疲れてすぐ眠る。