一箱本送り隊・石巻ブックエイド 1日目

朝6時起床。雨は降ってない。出かける準備をして、バスに乗っている豊永さんに電話をかけると、すでに石巻に着いて門脇小学校の近辺を見ているとのこと。待ち合わせの場所を決め、駅の方へ。復興ふれあい商店街で待っていると、大型バスがやってきて中からぞろぞろ送り隊のメンバーが下りてくる。お疲れ様でした。バスツアーでやってくる人、現地集合の人など参加形態が様々なので、配置がなかなか決まらない。とりあえず、こことリーガルシューズ用の荷物を下ろし、数人に待機してもらうことに。バスに乗り込み、駅ロータリーを経由して、IRORIへ。ここで残りの荷物をすべて下ろす。


かめ七を開けてもらい、手荷物をここに運び込む。丹治隊長が借りて来た車に、バザー用の本を載せ、各スポットに配達して回る。相澤酒店前で、埼玉(だったかな?)からやってきたというおじさんが、段ボール三箱を車で持ってくる。先日ぼくが出たラジオ(文化放送)を聴いて、本が必要かと思い、昨夜石巻に着いたのだが、誰に連絡取ればいいのか判らず、歩いていて見つけた酒屋さんに話しかけたのだという。うーん、なんという泥縄。善意はありがたいが、事前にメールいただければ、現地での本の受け付けはやってないことを伝えたのだが。とはいえ、もらった箱を開けてみるとイイ本があり、あとでバザーの本が品薄になってから、その場でスタッフが値付けして出したらよく売れたらしいので、結果オーライでした。


ふれあい商店街に戻ると、テントを設置中。その間、リーガルシューズに荷物を運搬。またふれあいに戻り、長テーブルを出したりしてるうちに、店主さんが集まってくる。本来は9時からIRORIで全体ミーティングがあるが、ここから離れられない状況なので、井上さんたちに説明を頼む。覚悟はしていたけど、思った以上に動線が長いなー。そうこうしてるうちに10時になり、一箱古本市の販売スタート。


ふれあい商店街の店主さんは17箱。敷地の前の方に12箱、奥に5箱を配置。そのうち2日とも参加するのが4箱ある。富山から参加の「古本よあけ」で百年文庫の『窓』を、東京から参加の「鉄の掟」さんは工場萌えだそうで、内外の工場のポストカードを販売している。ドイツのやつを1枚と、佐木隆三『高炉の神様 宿老・田中熊吉伝』(文春文庫)を買う。田中熊吉は八幡製鉄所の高炉で98歳まで働いた人物。牧野伊三夫さんに案内してもらって高炉跡地に行ったとき、この人の写真を見たことがある。石巻から参加の「古本はじめました」は海外文学の文庫や原書が中心。サマセット・モーム『お菓子と麦酒』(角川文庫)を。不忍の常連の「キラク書店」でポストカード。南三陸町から参加の「ぽるた」は、バラエティに富んだ品揃えで観ていて楽しい。『イラン映画をみに行こう』(ブルース・インターアクションズ)を買う。


奥に行くと、パナックけいていの佐藤さんの「ぱなけいブック」では、津波で汚れたけど助かった初期の『本の雑誌』を非売品として並べていた。とても大事にされているようだった。佐藤さんの姪御さんの「八重樫書店」では、小学生のレンくんが店番中。ニコニコ笑う顔がかわいい。石巻から参加の「マロウ」さんは、きれいな布を使って華やかに見せている。自分でつくったお菓子をくださった。「はるみ堂」の店主さんは震災後、石巻を離れていたが、友人である魯曼停の奥さんが一箱古本市に参加したがっているが、被災して本がなくなっていることを知り、本を提供して販売を奥さんに任せるというやり方で参加。魯曼亭の阿部さんは楽しそうに店番していた。ここで上垣外憲一雨森芳洲』(中公新書)を買う。


という感じで、ふれあい商店街だけでイイ本が何冊も見つかり、荷物が増える。本のレベルはとても高い。それぞれの箱の看板やディスプレイにも工夫が見られる。あと、ほかの一箱古本市に比べるとスペースが狭いので、不忍的というか、一箱の範囲からはみ出している店主が少ないのも、気持ちいい。


スタッフの松尾さんたちが、やってくるお客さんにスタンプラリーへの参加を呼びかける。商店街のなかを歩いてもらうために導入したしくみだが、どれだけの人が参加してくれるか不安があった。しかし、親子連れを中心に多くの人がスタンプを押しに来てくれる。11時頃だったか、さっそく完走者が。20代の男性が、自転車で一番端の石巻市図書館まで回ってきたという。回るだけでなく本も十数冊買ったというからエライ。その後も、少しずつ完走者が出ていった。完走者にはナカムラユキさん作のミニ絵本『いつも本といっしょに』が渡される。


テントの近くにはカキフライを売る店が出ていて、串に刺したやつを1本食べる。そのあと、やはり近くにある「東家」から、注文していた弁当が届く。いろんな種類があって、目移りがする。20個もテーブルに置いておくと、通りすがりの人が販売しているのかと思って覗くのが可笑しい。おかずもご飯もとてもおいしくて、スタッフに好評だった。奥の事務室でナカムラユキさんのマスキングテープのコラージュ・ワークショップがはじまるが、井上さんに頼んで移動する。


相澤酒店前での古本バザー、長テーブルにかなりの量の本が。売れ行きはかなりいいという。ウイスキーなどのミニボトルを販売してる相澤さんも満足そうだが、「なぜ、ここにスタンプ置かないんだ」とムチャを云う。だから、事前に用意してないんだって(笑)。次に商工会議所の横の空き地。テントを設置したので、それなりに見栄えがいい。ここにはバザーのほか、益子珈琲隊と羽鳥書店のブースが。羽鳥書店は社長、矢吹さん、吉田さんの三人で参加。出来上がったばかりの小野智美編『女川一中生の句 あの日から』(はとり書店)をいただく。益子焼カップでアイスコーヒーを飲む。そのカップは持って帰れる。用意したカップがなくなり、あとは紙コップで淹れていた。寿通りのパナックけいてい元店舗へ。ルート的にはココが一番人の流れが少なそうで、店のシャッターも上げずにやっていたが、助っ人さんに訊くとよく売れているという。思った以上に街の中を人が歩いているようだ。


かめ七へ。ここは5箱。仙台から参加の「つれづれ団」は、出店のほか、ブックカバーづくりもやっている。お母さんと子どもが思い思いのブックカバーをつくっていた。仙台からはもうひと組「鉄塔文庫」が参加。さすがにシブイ文学趣味。今晩一度帰って店を開けて、また明日参加するというから頭が下がる。「乙女湯のたしなみ」の宇佐川さんは不忍に前に出てくれていて、いまは、石巻の銭湯「つるの湯」で活動している。昨夜、東京からのバスに乗ったが、途中でバスが故障し、さんざんな思いをしてたどり着いたという。さすがにぐったりしていた。「本屋アベ」と「ハルカナ」は、どちらも石巻からの参加の女性。友達同士ということで、楽しそうに話していた。かめ七の店内に入ると、こちらにもお客さんが多いようだった。


そしてIRORI石巻へ。スペース的には狭いのだが、隣の日和アートセンターの前も借りて、8箱配置している。東京から参加のライター石黒由紀子さんの「inu kuro books」は犬の本だけという箱。先日行った青山の〈see more glass〉と親しいそうで、そこのフリーペーパーと手ぬぐい(荒井良二さんの絵)をいただく。「cafe de poche」は京都のブックイベント・ユニット。伊東さんとは数年ぶりに会う。石巻2.0スタッフの阿部睦美さんは「TOKYO KOKESHI NEWS」という屋号だが、なぜか新品の絵本を激安で出していた。不忍常連「脳天松家」さんは、ふれあいに出ている「キラク書店」とここの両方で買うと切手をサービスという趣向。それに乗って、佐々木久子『酒 はるなつあきふゆ』(集英社文庫)を買う。雑誌『酒』の編集長のエッセイ。石巻から参加の「春夏冬書房」では、たしか母娘で参加されていた。『廃墟紀行』というムックが出ていたので、「こういう本を見て、つらくならない?」と娘さんに訊いたけど、「前に買った本だから自分は平気だけど、見られない人はいるかも」という返事だった。


一通り回ってもう一度、ふれあい商店街に戻る。夕方になっても、本を見に来る人は多い。店主さん同士の会話もはずんでいる。16時に販売終了。店主さんにはなるべく表彰式に参加してほしいのだが、ここからIRORIは遠い。帰っちゃう人が多いかと心配していたが、ほどんどの店主さんが足を運んでくれることに。ぼくも急いでIRORIへ。今日一日でこの通りを4往復ぐらいしているな。


IRORIに着く。撤収で混雑するなか、どうにか場所をつくる。参加者が思いのほか多いので、立ったままの表彰式に。今日のプレゼンターは4組。ふれあい商店街賞は佐藤さんの大盤振る舞いで2つ。「古本はじめました」さんと「マロウ」さんに。石巻2.0賞は「八重樫書店」。レンくんに「石巻の未来を感じた」と代表の松村さん。一箱送り隊賞は「乙女湯のたしなみ」さん。南陀楼綾繁賞は「ぽるた」さん。賞品は一箱専用箱。発表するごとに、大きな拍手が起きる。これで一箱古本市の初日は終わった。


4か所に分かれて宿泊するので、ぼくは菊池旅館へ先導。男3部屋、女1部屋の13人。3人泊まる部屋はベッド1つと床に布団2つを敷くと足の踏み場がない。バスツアーで来た店主の杉山さん(飄々とした面白い人だった)と益子珈琲隊の鈴木さんと一緒に、つるの湯へ。古い建物のまま、震災後に復活している。東京に比べるとぬるめのお湯にゆったりつかる。あがると、「乙女湯のたしなみ」さんが女湯で淹れた冷たいお茶を、番台経由で手渡してくれる。ちょっと歩くけど入りに来てよかった。近くの大衆食堂「パレス」が、今日は店じまいしていたのが残念。


昨日と同じ会場に着くと、すでに無声映画の上映が始まっている。キートンチャップリン。途中、マイクが不調だったようで、坂本頼光さんが肉声を張り上げていた。後ろのテントではベルギービールのフェア。そこでちょっと飲んだ後、アイトピア通りをひとりでブラつき、目についた飲み屋に入る。そこで日本酒を一杯と、おでんを少し、それと「ベトコンラーメン」を食べる。塩味でうまかった。あとから入ってきた3人組の一人のおやじが、絵にかいたような酔っ払い方で若者に型どおりの説教をしていて、なんだか面白かった。


21時にIRORIへ。珈琲隊で参加してくれた益子は、東日本大震災の被災地であり、陶芸作家の工房が多くの被害をこうむっている。陶芸家の鈴木稔さんが、震災後の陶芸家のネットワークづくりやいま抱えている問題について率直に話をされる。送り隊のメンバーのほか、石巻の方も聴きに来られており、活発な意見が交わされた。鈴木さんが「自分がこういう活動をやるとは思わなかった。でも、いまはこういう役回りになったんだと思って引き受けています」とおっしゃったのが印象的だった。ぼくが送り隊の呼びかけ人になったのと、どこか似ていたからだ。


22時30分に終わり、片づけてから各自、宿へ。板谷さん、大学生の島村くんと同室。疲れたので早く寝ようと電気を消すも、なんとなくムシムシして眠れない。しかし、窓を開けるには他の2人を踏まざるを得ず、2時すぎまで悶々とするが、さすがに耐えきれず、板谷さんを起こして窓を開けてもらう。それで風が入ってきたので、やっと眠れた。