たいがいのことは今和次郎がやっていた

今日は朝からベランダの倉庫の撤去があるので、早めに出かける。JR新橋駅で降り、SL広場の近くにあった立ち食いの牛丼屋に寄ろうとしたら、ない。そういえば、数年前になくなったのだった。烏森口のさぬきうどんでぶっかけうどん


汐留方面に歩き、〈パナソニック汐留ミュージアム〉(http://panasonic.co.jp/es/museum/)へ。入口はずいぶん贅沢なショールームである。4階でやっている「今和次郎 採集講義」展を見る。「農村調査、民家研究の仕事」「関東大震災―都市の崩壊と再生、そして考現学の誕生」「建築家、デザイナーとしての活動」「教育普及活動とドローイングのめざしたもの」の4部構成。今和次郎の展覧会は今まで何度かあったが、どうしても考現学への比重が大きかった。しかし、この展覧会では各ブロックの展示物・キャプションが充実しており、他の仕事との比較の中で考現学がどういう位置を占めるかが、おぼろげに見えるように構成されている。いろいろ発見があったが、今の考現学の最初の労作といえる「東京銀座街風俗記録」(1925)の調査メンバーに、歴史家の服部之総、のちに『銀座』を書く安藤更生(ミイラ研究家でもある)、そして掲載誌『婦人公論』の編集長・嶋中勇作の名前を見つけたのには、なんだかワクワクした。


それにしても、こうやってみると、考現学は戦後の雑誌ジャーナリズム(とくにグラフィックなルポ)やアートを先取りしている。ある家の家財を全部記録する「悉皆調査」などは、1990年代にやっていた、韓国の家族の持ち物を全部美術館で公開するという展覧会を思い出す。凡人が面白いと思いつくたいがいのことは、すでに今和次郎がやっていたのではないか、とさえ思える。


じっくり見ていたら、たちまち1時間過ぎていた。後半に展示替えがあるというから、そのときにもう一度見たいほどだ。図録として青幻舎から刊行された『今和次郎 採集講義』を読んでから、また来ようかな。ショップで絵はがき数枚と一筆筅を買う。「考現学」と書かれたバッジもなかなかいいセンスだったが、どう使えばいいのか判らず見送った。


新橋に戻り、青山一丁目経由で神保町へ。〈東京堂書店〉を覗いたら、1階のレイアウトが変わっている。位置口の左側が入れないようになっているが、ココにエレベーターを設置するのだろうか。〈神保町シアター〉へ、特集「川口家の人々」。で観たのは、清水宏監督《人情馬鹿》(1956)。原作は川口松太郎。わずか70分とは思えない、濃いストーリーだった。


ウチに帰ると、ベランダが完全にすっからかんになっている。すっきりしたけれど、やっぱり、どことなく寂しい。仕事の合間に、〈古書ほうろう〉へ。往来座の「しねみち」こと「のむみち」さん制作の『名画座かんぺ』をいただく。都内6館の名画座の上映情報をヨコ並びにまとめたもの。折りたたむと手帳に挟まるサイズ。各館のパンフレットをいつもカバンに入れているヒトには、まずコレを見ればいいので便利。瀬戸さんのイラストもいい。奥でpow-wow「Zine! Zine! Zine!」展が開催中。イラストレーション塾の卒業生が、それぞれzineをつくって展示するもの。中身よりも、製本の仕方や紙の使い方を見るのが面白い。その横に並べてあった『趣味と実益』第3号を買う。第2号は秋の六角橋一箱古本市で買ったのだが、いいペースで出ている。


昨日の『田端抄』に続き、昨年、矢部登さんからいただいたが、少ししか読んでなかった『眩暈と無限 結城信一頌』(私家版、制作・亀鳴屋)を通読。結城信一がどのように本を読み、どのように原稿を書いていったかの考察を通して、矢部さんが結城信一をどんなに丁寧に読んできたかが伝わる。池袋の〈高野書店〉で結城信一の旧蔵書に出会った時の描写は迫真だ。


なお、いま検索してみたら、同書の中核をなす「眩暈と無限」のテキストが、日本ペンクラブの「e-文藝館=湖(umi)」に掲載されていることが分かった。
http://umi-no-hon.officeblue.jp/emag/data/yabe-noboru04.html