舞台挨拶のほうが面白い

12日は府中市美術館の「石子順造的世界」展へ。何カ所かからの行き方があるが、府中駅からバスで行く。バス停の名前を前違えて、気づいたら小金井市に入っていた。慌てて降りて、反対側のバスに乗って戻る。間違えたほうが悪いのだが、行きも戻りも、そのバス停で「美術館前」というコメントが一切ないのはひどい。展示は石子順造の目が届いた美術、マンガ、キッチュの現物を展示するというものだが、うーん。作品を見せることが優先され、石子がそこにどう関わったかということがいまいち判りにくい。図録では非常に行き届いている、石子の履歴が展示ではほとんどカットされている。あと、キッチュのコーナーに関しては、仕方ないとはいえ、石子自身のコレクションはほとんどなく、石子が面白がったテーマを、学芸員がコレクターなどから集めてきて並べたわけで、それって、石子の目がどこまで関わっているんだろう? という疑問を感じた。結局、もっともインパクトがあったのは、つげ義春ねじ式』の原画の全ページを展示した部屋だった。


この日の夕方と翌日、u-senくんに手伝ってもらい、ベランダの倉庫に入れていた本を仕分けする。部屋の中にはスペースがなく、ごく一部だけを中に入れて、あとは古本屋に売ることに。ちゃんと数えてないけど、2000冊以上はあったと思う。古書信天翁、古書ほうろう、立石書店に運ばれていった本は、こんどは誰の手に渡るだろうか。


今日は午前に、ベランダにある廃品を業者が取りに来たのと、立石書店の岡島さんが本を運びにきた。思ったよりも早く、それらの作業が終わる。今日は一箱本送り隊の作業日だが、大量の自分の本を仕分けた後にはちょっときついので休む。その代わり、上野の〈上野オークラ劇場〉で上映される山崎邦紀監督の新作を観に行く。13時半に劇場に着くと、山崎監督らがロビーにいた。場内に入ると、前の作品がまだ途中。滝田洋二郎の30年ほど前の痴漢モノだが、ぬけぬけとバカバカしく面白く、場内大爆笑だった。最初から観たかった。


次に山崎監督の《人妻の恥臭 ぬめる股ぐら》。坂口安吾の『風博士』と『白痴』を翻案し、放射能から逃げている避難所に集まった奇妙な人々の関係を描くというものだが、例によって観念的で、いまいち話の持っていき方が判らない。風博士役の荒木太郎が消えたり現れたりするときのような、即物的な面白さがもっと入っているといいのだが。山崎さんの映画は何本か観ているが、フェティシズムが笑いに転嫁する場合には成功すると思う(それは薔薇族映画のほうが多い)。本作にはそれは感じなかった。客席からも、ときどき苦っぽい笑い声は漏れるものの、さっきの滝田作品の賑わいが嘘のようだった。


終わると客席の明りがつく。場内は満員で、立ち見の客も。かなり待たされたあと、舞台挨拶が始まる。監督、出演の5人が壇上に並ぶ。劇場支配人が司会するのだが、相当情報通らしく、いろいろ小ネタを出してから話を振るので面白かった。しかし、山崎監督への扱いはなかなかで、最初フルネームは間違えるし、最後に一言しゃべらせずにシメようとしていた。山崎さんはこの劇場の前身の建物にあった薔薇族映画館の閉館と、大宮オークラの閉館時に、それぞれ監督作が上映されているという。エロマンガ編集者時代には、関わった雑誌が次々つぶれるので、「廃刊人生」なるコラムタイトルを塩山芳明さんに付けられていたが、映画監督としてもそうだとは。でも、いまだに次々に監督、脚本の仕事があるのだから、じつにうらやましい人生だといえよう。まあしかし、作品そのものよりも舞台挨拶のほうが面白いというのは、モンダイだと思うのだが……。


塩山さんも観に来ていたので、二人で御徒町まで歩き、〈風月堂〉の喫茶コーナーへ。面と向かって話すのは久しぶり。相変わらず口は悪いが、最近落ち込み気味のこちらを気づかってか、新しい仕事をくれるあたり、ありがたし。別れてから、〈味の笛〉でちょっと飲み、〈吉池〉の魚コーナーで買い物して帰る。数の子が激安だったので買ってみたけど、塩が強すぎて食べられたもんじゃなかったです。