猛暑の京都、初めての店を歩く

朝8時起き。10時に出て、新幹線。1時間ぐらい眠る。13時に京都駅着。ホームに降りると、ムッとする暑さを感じる。30度超えるという予報を見ていたが、予想以上に暑そうだ。JR山陰線の乗り換え、ひとつめの丹波口で降りる。そこから、7、8分歩き、大通りから住宅街に入ったところにある〈エンゲルス・ガール〉という中古レコード屋兼古本屋へ。2時開店ということだったが、覗くと男性のご主人が「どうぞ」と中に招じてくれる。


この一角は長屋のような造りだが、それにしては新しい建物で不思議な感じ。この一帯のオーナーの息子さんが建築家と組んで、古い長屋をリノベーションしていったのだという。前の家はタレントのEさん(以前《探偵!ナイトスクープ》にも出ていた人)の自宅兼事務所だそうだ。店内は手前にレコードと古本、奥が小上がりで大きなテーブルが置かれている。『Sampo magazine』第4号の記事では、ジャンルがバラバラとあったのでもっとゴチャゴチャした店かと思っていたら、意外にすっきりしている。壁に掛けられていたベヴァリー・ケニーのCD[Lonely and Blue]と、500円均一の箱からキンクス[Muswell Hillbiliies]、それと佐藤蛾次郎『あの人の話』(文芸社)を買う。ガジロー本は映画の裏話が多そうだったから手に取ったが、サイン本だった。

 
奥のテーブルに座って、ビールを飲みながらご主人と話す。「昨日、この近くで渋谷毅さんのライブをやったんだよ」と云うので驚く。島原の〈きんせ旅館〉(http://www.kinse-kyoto.com/blog/)で、渋谷さんと華乃家ケイさんのライブをやったんだと。島原というのは、あの島原遊郭のあったところで、この旅館は古い部分では250年前のものだという。ぜひ行ってみろと勧められ、10分ほど歩くと、たしかに島原大門がある。その奥が島原で、いまでも1軒、置き屋があるそうだ。奥まで歩き、〈楽々亭〉という中華料理屋に入る。ちゃんぽんを頼むと、とろみのついた汁に細麺が浸かった丼が出てくる。神戸・元町〈丸玉食堂〉のローメンにそっくり。熱いので食べるのに時間がかかるが、ウマかった。


道を戻ると、たしかに旅館があり、「カフェ・バー」と書いた看板がある。矢印が外を指していたので、別の入口があるのかと回ってみたが、何もない。恐る恐る玄関を開けてみると、ホールには誰もいない。奥から人の声が聞こえるので、入ってみたら驚いた。広い応接間というか戦前のカフェーみたいな場所で、照明は薄暗い。壁際にアップライトのピアノがある。二組ほど先客がいるが、近所の人みたいだ。左手のバーカウンターに座り、若い男性にアイスコーヒーを頼む。その人が、旅館の後継者で、曽祖母の代にこの旅館を買ったのだという。旅館廃業後、10年以上そのままになっていた建物に手を入れて、1階をカフェ・バーにしているのだという。ライブなどのイベントにも力を入れたいとおっしゃっていた。この場所で聴きたいミュージシャンが、すぐさま何組か思い浮かぶ。東京にあったら、自分で企画しているところだ。


そこから大通りまで歩き、バスで河原町四条。乗り換えて、荒神橋というところで降りる。ウェブの地図ではバス停の名前が書かれてなかったので、不安になりながら、〈Hedgehog〉(http://www.hedgehog-books.com/)という店をめざす。京都地方法務局の先、二階がカフェの建物だった。入り口が煙草屋の店先みたいになっていてイイ感じ。奥がギャラリーで編み物の展示をしている。手前が本棚で、和書だけでなく洋書やアート本も多かったが、お客さんがたくさんいて、汗が噴き出してくるので、5分ほどで失礼する。


次の店まで歩けそうなので、北に向かって歩く。梶井町の清和テナントハウスという建物を探すが、プリントしてきた地図になぜか目的地の印がなく、さんざん迷う。やっとたどり着いたのは、古い雑居ビルで、二階に小さな店がいろいろ入っている。その中のひとつに〈ハコバカ〉を見つけビックリ。先日、一箱古本市専用の箱をデザインしてくれたユニット。こんなところに事務所があったのか。今日は京都にいないと聞いていたが、やはり誰もいなかった。その奥の間口の狭い、4畳半ほどの店が目的の〈moshi  moshi(http://sites.google.com/site/moshimoshi1234567/)で、入ると大人しそうな女性が無言で迎える。手前のところに古いグラフ雑誌や建築雑誌があり、奥には紙モノ、ミニコミなどがある。狭いけれど、置いてあるものは完全にぼくのストライクゾーンだ。ずっと昔、浅草橋にあった〈キントト文庫〉を訪れたときの興奮を思い出す。


欲しいものがたくさん見つかるが、荷物と財布とを考えて、『商店界』1959年6月臨時増刊(オール喫茶・食堂経営の実際)2000円と、『ペリカンクラブ』および『スーパー・ペリカンクラブ』5冊を各500円、〈三省堂〉の参考書の販促用らしい時間割(戦前のもの)450円、を買う。会計のときに女性に「どこで知られたんですか?」と訊かれたので、『Sanpo magazine』でと答えると、ぼくのことをご存じだったばかりか、東京のライブハウスで見かけたことがあるとおっしゃる。とうめいロボと友だちで、今度一緒に展覧会をやるのだという(北堀江〈SHAMUA〉、6月24日〜29日)。面白い店と人だなあ。すっかり気に入った。


重くなった荷物を抱えて、出町柳へ。あと1時間あるので、「書評のメルマガ」で川辺さんが〈トランスポップ・ギャラリー〉で西岡兄妹原画展をやっていると書いていたのを思い出し、寄ってみる。展示を見ていると、店主と会話している人の声がなんだか聞いたことがある。奥に入ると、後ろから声を掛けられて驚く。うらたじゅんさんだ。今日のトークを見に来てくれたという。店主の山田さんを紹介されるが、この人がまた面白い人で、30分ぐらい話しこんでしまった。プレスポップ・ギャラリー(トランスポップの出版部門)発行の『無垢なるモンスター ダニエル・ジョンストン物語』と、ミニコミ『スウィート・ドリームス』第3号を買う。うらたさんはお孫さん(がいるのだ)にあげるのだと云って、最近完結したクリス・ウェアグラフィックノベル『ジミー・コリガン』の日本語版(プレスポップ刊)全3巻・函入りを購入していた。出ようとしたら、なんか濃い顔の背の高い男性が入って来て「竹内です」と云う。今日トークさせてもらう編集者の竹内厚さんだった。『エルマガジン』時代に一度だけお会いしているが、そのときは、もっと草食系の風貌だった気が……(ぼくのことだから当てにはならない)。


出町柳駅のすぐ近くの横丁にある、〈かぜのね〉(http://www.kazenone.org/)へ。「多目的カフェ」としてさまざまな目的に使える店だという。店内にヒトがいるので、前のイベントが終わってないのかと前で待っていたが、奥に座敷があり、そこがトーク会場なのだった。フリーペーパー『ぱんとたまねぎ』の林舞さんがやってきて、バックナンバーを壁につるす。暑いのでビールを飲んでいると、お客さんがやってくる。川辺さんやフリペ『HOWE』の立石さん(奈良から京都に引っ越したという)も来てくれる。「左京区とフリペ、ときどきミニコミ」というよく判らんタイトルのトークだが、竹内さん、林さんの活動を聞いていくと、それが左京区の特徴を紹介することになるので、ハナシが進めやすかった。お互いが持ってきたフリペ、ミニコミを紹介し合っていると、それだけで時間が過ぎる。2時間ちょっとで終了。そのあと、前のカフェスペースに写って、打ち上げ。10人以上残ってくれる。林さんに匹敵するパン好きの女性とか、面白い人が多かった。


11時半ごろにお開きになり、出町柳でタクシーを拾い、四条烏丸へ。ちょっと油断していて、数日前にネットでホテルを予約しようとしたら、ビジネスホテルはまったく空きがなく、〈ファーストキャビン〉というカプセルホテルみたいなトコロに泊まることに。ひとつごとにブースがあり、その中にベッドがあるが、旅館法かなにかで鍵を掛けられないという。シャワーやトイレは外にあり、いちいち出入りしなければならない。個人行動だとはいえ、ユースホステルみたいで気づまりがする。シャワーを浴び、周囲のいびきを聞きながら本を読むうちに眠りに落ちた。暑いなかをよく歩き、よく人と会った一日だった。