sumus、谷根千、アートタイムズ

朝10時前、仕事場に大きな荷物が宅急便で届く。『sumus』第13号(まるごと一冊晶文社特集)だ。付録の晶文社図書目録1973年版に合わせて、新書判の上下がちょっと長いサイズ。これまでの号と違うサイズなので、全号並べていた読者はちょっと戸惑うかも。表紙には犀のマークがドーンと。一色ということもあり、平積みよりも棚差しにして置きたいたたずまい。そこが晶文社っぽい。パラパラめくって、どのページからでも読みたくなる。図版もたくさん入っています。


ぼくは、「晶文社営業部と中村勝哉社長 島田孝久さんインタビュー」の聞き手・構成を担当しました。『老舗の流儀』のときに、『植草甚一スクラップ・ブック』について、元晶文社営業部長の島田さん(現NTT出版)に取材し、そのとき出たハナシが面白くて、いつか改めて聴きたいと思っていました。なので、今回の晶文社特集はちょうどいいタイミングでした。また、元晶文社の高橋さん、目春さんに協力をお願いし、社内に保存されていた新聞・雑誌広告のスクラップブックをお借りするとともに、インタビューにも立ち会っていただきました。晶文社の営業や中村社長についての貴重な証言ですが、ぼくとしては、1970年代の新刊書店(とくに地方の)の雰囲気が感じ取れるお話が興味深かったです。


到着した分から20部を、12時に〈古書ほうろう〉に納品しています。東京では〈東京堂〉ほかで販売しますが、納品まであと数日かかるようです。なので、東京ではほうろうが初売りになると思います(いや、京都の〈善行堂〉でも夕方販売開始なので、全国初かも)。土日に不忍ブックストリートに遊びにいらっしゃる方は、ほうろうにお立ち寄りください。


ほぼ同じ時間に、亜紀書房からも宅急便。昨年2月に刊行した『ベスト・オブ・谷根千』の増刷ができました。固有名詞など最小限の訂正を入れています。品薄になっていたので、増刷はありがたいです。


ほうろうに行ったときに、『アートタイムズ』第5号を買った。800円(税込)。特集は「野毛版 平岡正明葬送パレード」。個人通信『Monthly Takamitsu』第148号にこの特集が紹介されていて、読みたいと思っていた。平岡正明は「見繕ったり、見立てたり」(美濃瓢吾)するのが得意で、「実力と技術と経験と才能に裏付けされた自分勝手さを、時に誤爆を承知で叩きつける」書き手で、読み手の感情をゆさぶる力はスゴかった。ただ、つねに感性が先に立つ文章だったから、こちらの体調が悪いときにはどうも受け付けないところもあった。全著作のうち、読んでいるのは20冊ぐらいかなあ。この特集では、平岡正明と全身で付き合った人たちの追悼文がたくさん載っている。写真も素晴らしい(とくに19ページの野毛の街で舞踏する平岡の写真は、幻想的でさえある)。責任編集の福田豊は、野毛の〈萬里〉という中華料理屋の主人で、その萬里の中華ランチについて、平岡正明が書いた文章が再録されていて、これがまたイイ(編集後記には、この文章につながるエピソードも)。平岡が編集していたタウン誌『ハマ野毛』の全目次も掲載。


『アートタイムズ』は伝説の呼び屋・神彰が発行していた雑誌で、神の評伝を書き、サーカスなどの芸能の仕事をしている大島幹雄さんが2006年に復刊したもの。これまで手にする機会がなかったが、なんとも素敵な雑誌だ。バックナンバーを入手しようと思う。ちなみに、大島さんのサイト「デラシネ通信」のことを、『彷書月刊』2001年9月号で書いています。
http://homepage2.nifty.com/deracine/index.htm


4時頃に出て、郵便局や日暮里図書館。風が強くて、自転車がなかなか前に進まない。昨日休みだった根岸の〈そら塾〉(http://sorajyuku.exblog.jp/)へ。古民家を利用してのアートスペースとのこと。鶯谷駅から徒歩で6、7分、路地の奥なので初めてのヒトは判りにくいかも(以下に行き方があり。http://blog.bangobooks.com/shop)。戸をあけると、二階から男性が下りてくる。ココで昨年秋から古本を売っている〈バンゴブックス〉(http://blog.bangobooks.com/)のTさんだった。


1階は絵の展示が主で、本は20、30冊ぐらい。「2階にも本がありますよ」というので、急な階段を上って2階へ。二間の壁際に本が並んでいる。猫の本、晶文社本、江戸東京本、タバコの本、食べ物の本といったところが目に付く。古書展で見かけるようなクロっぽい本が多い。あとで聞くと、古書組合の文京支部に入っており、毎日のように市場に仕入れに行くそうだ。道理でしっかりした本が多かった。パソコンの前に座っているのは奥さんで、二人ともオヨちゃんのことはよく知っていると話していた。福富太郎編『伊藤晴雨自画自伝』(新潮社)1600円、を買う。これからは、このスペースでイベントもやっていきたいと云っていたので、今後に期待します。「古本屋ツアー・イン・ジャパン」(http://blogs.dion.ne.jp/tokusan/)にもオススメしたい。〈バンゴ〉さんは、谷中の〈間間間(さんけんま)〉でも今日から店内で古本の箱を置いているそうです。