神保町で懐かしい名前に出会う

朝7時頃、風の音で目が覚める。すでに暴風域に入っている。次々止まる交通機関のニュースを見ながら、ソーメンで朝飯。日がさしているのに、ものすごい風が吹いている。仕事場まで歩いて行けそうにないので、「小説検定」の本を読んですごす。『彷書月刊』の特集、未定だった対談相手とやっと連絡が取れ、快諾してもらう。これで対談二本とも成立。嬉しや。12時ごろには風も収まってきたので、出かける。団子坂を下りて行くと、掲示板に貼られていたものがすべて吹き飛ばされていた。


久しぶりに神保町へ。新お茶の水近くのラーメン屋でつけ麺を食べる。〈神保町シアター〉でチケット買ってから、〈東京堂書店〉へ。3階に行ってビックリ。ミニコミ『リトリート』の第2号が並んでいるではないか。発行人の枕屋探涼ことSさんは、ぼくの大学時代のサークルの先輩で、めちゃくちゃ影響を受けた。大学卒業後、Sさんは沼津で就職したが、しょちゅう会っており、1998年には一緒に『日記日和』をつくったが、発行後に(いま考えると大したコトのない理由で)喧嘩し、絶縁してしまった。2002年に出した『リトリート』創刊号(坪内祐三さんが『本の雑誌』の日記で取り上げていた)は買っていたが、その後続きが出ていなかった。この2号は、宇田川新聞さん(『日記日和』の表紙を描いてくれた)の表紙で、中は92ページ。この厚さで500円は安い。ほとんどの記事は一人で書いている。寄稿者の一人、・ホシノフミオさんはぼくも知り合いだったが、数年前に亡くなっている。冒頭の「ひとりもの」特集や、CDやマンガのレビューなど、対象は違えど、文体とか皮肉っぽさは学生時代からほとんど変わっていない。43歳(たぶん)のSさんがつくる、ローテク・文字だらけのこのミニコミを、たとえば、退屈男くんやu-senくんがどう読むだろうか? 感想を聞いてみたい。10年ぶりにSさんと会ってみたいけど、向こうもこちらもガンコだから、きっかけがないとムリだろうなあ。


1階に下りて、「小説検定」の資料を買い込む。〈すずらん堂〉で、葛西りいち『あしめし』第1巻(小学館)と岩本ナオ『雨無村役場産業課』第2巻(小学館)を買う。〈神保町シアター〉に戻ると、さすがに今日は人が少ない。それでも台風の直後に40人ぐらい集まっているのはすごい。鉄道映画特集で、丸山誠治監督『山鳩』(1957)を観る。草軽電気鉄道の駅長を森繁久彌が演じており、一両しかない電車がゴトゴト走ってきたり、ポイントを切り替えたりという描写が細かくて、まずは鉄道映画として優れている。しかしそれ以上に、迷い込んできた若い女岡田茉莉子)と森繁のあいだに生じる温かい交流が素晴らしく、このまま最後まで悲劇が起きずに終わってくれるよう、祈るようにして観ていた。いくつかのトラブルを乗り越えて、ハッピーエンドで終わってくれた。岡田のはつらつとして、しっとりとした演技が素晴らしい。旅館の番頭の田中春男、主人の左卜全、岡田の母の清川虹子など脇役も名手揃い。これから機会があれば、何度も観かえす映画になりそうだ。今回の特集でこの作品を選んでくれた川本三郎さんに感謝。


西日暮里に戻り、片付けいろいろ。『貸本マンガ史研究』第21号や、『Sanpo magazine』のフリーペーパーが届く。こないだ店が閉まっていた道灌山下のラーメン屋は、閉店ではなくリニューアルだった。よかった、コレでまたつけ麺が食える。ウチに帰って、新高円寺〈プリムール〉のマスターがつくった、旬公が育てたブタのソーセージをボイルして食べる。肉がぷりぷりしていて、中のスパイスととても合う。ご飯がよく進んだ。『あしめし』を読む。ブログでの連載をまとめたものだが、うーん。エッセイマンガは好きなのだが、これはエッセイではあってもマンガにはなってなよなあ。アシスタントものでは、志々藤からり『イカサマアシスタントへの道』(新書館)のほうが面白いと思う。