実写版「エロ漫画の黄金時代」

左から、南陀楼塩山芳明多田正良いがらしみきお山崎邦紀、熊谷光樹(撮影:『IKKI』編集部・豊田夢太郎)。二次会のカラオケボックスの出口にて。ここに至る日記はのちほど。


朝6時起き。ちょっと寝不足気味なり。まだバスが動いてないので、千代田線経由で上野へ。構内のさぬきうどん屋で朝飯。新幹線はほとんど満席だった。仙台に着いたのは9時。外に出ると、太陽が照りつけていた。今日は全国的に夏日だと云っていたが、それでも、ココが6月の仙台だとは信じられない。バスに乗り、右側の席に座ったのだが、たちまち悔やむ。右側から日差しが強烈に入ってくるのだ。カーテンもなく、左側に移ることもできず、30分ばかり我慢する。


北根二丁目というバス停で降りて、仙台文学館へ。ちょっと丘を登ったところにある、シャレた建物なのだが、市内から離れたところにあるので、人の姿は少ない。現在開催中の「井上ひさし展 吉里吉里国再発見」を見る。井上ひさしの『吉里吉里人』は、東北から独立した農村が、独自の言語・経済・文化・科学を持っていく様子を描いた長篇だが、この展示も、「吉里吉里国」のガイドツアーという構成になっている。さほど広いスペースではないが、イラストパネルなどを多用して楽しい見せ方だ。また、関連する井上の他の作品やエッセイなどが結び付けられており、『吉里吉里人』を通して井上の仕事が俯瞰できるという構図になっている。きっと予算は少ないだろうが、学芸員が知恵を絞っているのが感じられる。井上は最近までこの仙台文学館の館長だったそうで、そのことへの(公式的ではない)尊敬の念も感じられた。もっとも感銘を受けた展示物は、小説や戯曲のプロットと年表。実際に書きはじめる前に、これほどまで準備をしているのか。コレだったら、原稿が遅れるのもしかたない……かな? 常設展では、仙台ゆかりの作家が紹介されていた。やっぱり伊坂幸太郎の扱いが大きい。


反対側のバスに乗り(今度は右側に)、市内に戻る。夕方の会場である〈仙台市市民活動サポートセンター〉へ。このビル丸ごとが、NPOの活動を支援するためのものなのだ。おなじみ、ジュンクのジュンコちゃんこと佐藤純子ちゃんと待ち合わせ、荷物を預けて出かける。日差しはますます強くなる。駅近くの交差点で、自転車に乗った前野久美子さんとバッタリ会い、続けて、広島から来た財津正人さんにも出くわす。狭い街なのだ。〈ジュンク堂〉仙台ロフト店で、ジュンコちゃんの担当した「リトルプレス展」を見て、仙台(?)でイラストレーターの女性が出しているミニコミ『レーズン』(http://miminoko.com/)のバックナンバーを買う。和光大学の授業でジュンコちゃんが薦めていて欲しかったもの。あと、『murren』という山のミニコミも。


青空市場の近くのビル地下の食堂に入る。「わめぞ」連がまぐろ中落ち定食を食べたという店。当然、それとビールを頼む。中落ちは肉のようにアブラが乗っていて、ウマかった。ジュンコちゃんに『月刊佐藤純子』最新号をもらう。東京旅行のハナシで、ぼくも出てきた。ジュンク堂の仙台店が入っているイービーンズの5階で、古本市を見る。前に来たときもやっていたが、〈古書ふみくら〉ほかが出店している。夏目静子・深野治『ニッポン青春グラフティ』(ケイブンシャ文庫)100円、『梶山季之傑作シリーズ4 風変りな代償』(講談社)400円、林義雄『声のよくなる本』(音楽之友社)300円、を買う。梶山本、林本の装丁は真鍋博(林本は本文イラストも)。


アーケード商店街を歩き、ジャズ喫茶〈カウント〉に入ろうとするが、まだ開いていない。近くの喫茶店(古くからある店だとか)でアイスカフェオレを飲み、〈カウント〉に戻ってみるが、シャッターが半開きになったまま。諦めて、会場に向かうジュンコちゃんと別れて、〈マゼラン〉へ。その手前の路上で、向こうから塩山芳明さんがやってくる。映画館を探しているという。あとで会うことにして、〈マゼラン〉に入る。高熊さんに挨拶し、『今野勉のテレビズム宣言』(フィルムアート社)1000円、を買う。装丁は平野甲賀、写真・浅井慎平


暑くてたまらないが、〈火星の庭〉に向かうバスはないというので、定禅寺通りを15分歩いてたどり着く。すっかり汗ダクっすわ。武藤良子さんの展覧会を眺め、前野健一さんサービスのアイスティーをいただく。時間があるので、今日のトークのメモにいくつか書き加える。3時半に出て、錦町公園を抜けて、仙台市市民活動サポートセンターの地下ホールへ。ブックカフェ講座「私のブックカフェをつくろう」の参加者がすでに待っている。7階の楽屋に荷物を置き、講座を拝聴。講師は前野久美子さんと〈貸本喫茶ちょうちょぼっこ〉の福島杏子さん。画像を見せながら、それぞれの店の始めたきっかけや運営について話し、続けて、東京・関西のブックカフェ、福島さんが最近旅行で行ったヘイ・オン・ワイの「古本の街」を紹介。参加者はそれを聴きながら、最初に配られたシートに、「自分がブックカフェをつくるとしたら」という構想を書きこむという段取り。参加者からの質問も活発に、かなり具体的に出ていた。後ろから見ていて、たけうま書房さんに似ているヒトがいると思ったら、本人だったので驚いた。こないだ横浜で会ったときには、来るなんて云ってなかったのに。
 

終りに全員のシートを集めて、前のテーブルに並べる。突拍子もないアイデア、かなり実現性の高そうなものなど、いろいろ(すぐに参加者に返してしまったが、その場でコピーを取って主宰者が保存しておけばよかった)。2時間という短さで、かなり有意義な講座になったのではないか。終わってから、参加していた加藤哲夫さん、大泉浩一さんと、「このスタイルなら、東京などでも人が集まるんじゃないか」と話す。


楽屋に戻ると、いがらしみきおさんとアシスタントのお二人、アストラの奥山晶子さんが到着されていた。そのうちに塩山さんも来て、雑談混じりの打ち合わせ。7時5分過ぎにジュンコちゃんが呼びに来て、地下へ。3人で壇上にあがり、トーク開始。客は40人ほど。いがらしさんが『エロジェニカ』でデビューしたことから入り、当時のエロ劇画の業界事情などへとハナシを進める。いがらしさんは、最初からアクセル全開。「私は田舎で育ったけど、いい人なんかいなかったですよ〜」などと。そして、塩山さんの一日を本人がナレーション入りで撮った映像(自称「森山大道っぽい」)を流すと、会場は大ウケ。いがらしさんは、今後は「宗教マンガ」を書きたいと熱っぽく語る。塩山御大は、五十嵐さんのテンションにやや押され気味だったかな。最後にいがらしさんの漫画家30周年記念のTシャツを、ジャンケンで勝った客にあげて、終了。ほぼピッタリ1時間半。トークの写真は『風の時』編集部ブログにあります(http://yaplog.jp/sendai_kaze/archive/972)。


客席には、岡崎武志さん、財津さん、モンガ堂さん、たけうまさん、ドンベーブックス夫妻、山崎邦紀さんとタコ多田さん(示し合わせたようにアロハと半ズボンで、初老のゲイカップルみたいでした)と、わざわざ仙台までやってきた知り合いの顔多し。最初に想定していたほどの客入りではなかったが、これぐらいの人数だと、かえってディープな話ができたような気がする。サインを終えて、会場を出て打ち上げ会場へ。〈森〉という焼肉屋の2階で、テーブル席が貸し切りに。冷房がないので暑く、ビールがしみわたる。あれはどこの部位なのか、白いモツを焼いたのが柔らかくてウマかった。


いがらしさんがゆっくり話したいということで、先に失礼して、しばらく歩いた先のカラオケボックスへ。ココだと耳のことを気にせず、ゆっくり話せるようだ。塩山、山崎、多田の初老トリオと、いがらしさんの元スタッフという熊谷光樹さん、そして、わざわざこのトークを見に来たという『IKKI』編集部の豊田夢太郎さんの7人。世間のコードにとらわれない、いい加減で自由な会話をたっぷり楽しんだ。12時半に店を出て、出口で記念写真を撮って解散。塩山さんとタクシーに乗って、前野宅へ。シャワーのあと、塩山さんと二人で並んで寝る。御大のいびきがうるさかったが、疲れていたのでわりとすぐ眠った。