エエ市で観る《グラン・トリノ》

朝8時起き。仕事場へ行き、いくつか用事を済ませてから東京駅へ。高速バスに乗り込み、エエ市へ。しだいに田んぼが風景の中心を占めるようになっていく。旬公が「スナック誘惑」という店の看板を写真に撮っていたが、バスから見ていると、「美容室 美人」とか「スナック 温情」とかの直球な店名の看板が目に入り、ああ、エエ市に来たのだとしみじみする。


バス停を降りて、〈ユニクロ〉で着替えを買い込み、歩いて隣のショッピングセンターへ。その中にある蕎麦屋で旬公と待ち合わせ、昼飯。それから店内の映画館に入る。6スクリーンあるシネコンで、やたらと設備はいいが、客の姿は少ない。そんな、どことなく侘しい地方の映画館で、地域のコミニティが崩れた街に居座って生きる老人を描いたクリント・イーストウッド監督の《グラン・トリノ》(2008・米)を観るとは、不思議な気分。前半はイーストウッドとモン族の少年のすれ違いをコミカルに描く。イーストウッドが気に入らないコトに出会うたびに「ガーッ」と唸るのが可笑しい。そして、終わりの30分の息をつかせない展開。自分の決めた通りに生きるという、人間の尊厳がテーマになった作品という意味で、大西巨人の小説を思い出す。しかし、テーマは重いが、なによりもオモシロイ映画なのである。観終わって、幸福感に包まれる映画は久しぶりだ。


映画が終わったら、さて、いよいよ旬公の運転する車に乗り込まねばならぬ。数か月レンタルのワゴンカー。とんだグラン・トリノである。まだ乗り始めて2日目なのに、駐車場を逆側から出ようとするから驚く。なんでいきなり、そんな大胆なコトができるかなあ。どうにかエエ市の家に着いた頃には汗びっしょりだった。もとは居酒屋だったという大きな家を掃除して、なんとか住めるようにしている。仕事の連絡を少しやったあと、なんだか疲れて夕寝。起きてから、旧国道の横を歩いて、晩飯を食べに行く。目的のピザ屋が休みで、適当に選んで入った焼肉屋が大当たり。カルビもタン塩もウマかった。


帰って、原稿を2本読み、風呂に入る。だたっぴろいので、身の置きどころに困る。旬公はすっかり疲れて寝ているが、こちらはなかなか眠れず。山崎豊子『運命の人』第一巻(文藝春秋)を終わり近くまで読み、朝方に眠る。