〈ちくさ正文館〉に心底ウナる

朝8時起き。もろもろ準備して、9時半にウチを出る。東京駅10時13分ののぞみ号で出発。隣に座った父子の会話が妙に面白かった(方言丸出しで天然系の父を、息子が軽くいなしながらも決して嫌ってはいないところ)。12時前に名古屋駅着。前日に着いていた名古屋出身の〈古書ほうろう〉の宮地健太郎さんに電話すると、「土日エコキップ」を買うと地下鉄が乗り放題だと教えてもらい、それを買って栄まで乗る。乗り換えて上前津まで行き、駅のコインロッカーに荷物を入れ、ひとつ戻って矢場町で降りる。


パルコの上にある〈リブロ〉名古屋店へ。ファアスペースでやっている「名古屋大古本市」を覗く。10ぐらいの出品者が本を出している。明日までなのだが、けっこうイイ本が残っている。お客さんの姿もちらほら。この企画は当初「一箱古本市」として進んでいたが、ハナシを聞くと、〈恵文社〉の古本市に近いもので、「一箱」的な要素が薄いので、ぼくから云って変更してもらった(その時期が遅かったので、一部「一箱古本市」で告知されてしまった)。結果としては、その方がヨカッタみたいだ(あとで、BOOKMARK NAGOYAの実行委員と話したら、「来年はぜひ街中で一箱古本市を!」と考えていると云ってくれた)。ほかのスペースも見たが、文芸コーナーが充実していた(『HB』2号とも平積みされていた)。店長のTさんに挨拶しようとしたが不在だった。


そこから栄駅方向に歩き、目に付いた〈角忠本店〉で、きしめんを食べる。牛筋の串とか、銀杏とか入っているけど、コレがきしめんのスタンダードなのか? ともあれウマかった。そこから数軒隣の〈ワンオンワン・ブックス〉へ。雑居ビルの一室だが、開けると、画集や写真集、雑誌などがギッシリとある。いろいろ欲しかったが、荷物になるので我慢して、ジャック・タチ監督《トラフィック》のサントラCDのみ購入。


栄から東山線覚王山へ。古本カフェ〈cesta〉で、宮地さんと待ち合わせ。以前と少しレイアウトが変わっていた(そのときのことを店主さんが覚えていてくれたので、恐縮)。壁面ではチェコの映画ポスター展をやっている。関根弘『絵の宿題』(思潮社)1500円を買う。装幀は勅使河原宏、序文は花田清輝。地図上ではほぼ隣にあるはずの〈KATARON〉で「bicaの古本展」をやっているはずだが、探しても見当たらない。この地図、どの角に店があるかが極めて判りにくいのだ。宮地さんが〈cesta〉に戻って道を聞き、ようやくたどり着く。しかし、とてーもオシャレなカフェで女子で満員だったので、スタンプだけ押してもらって早々に出る。


千種まで引き返す。宮地さんは中高とこの駅を使っていたとのこと。古本屋〈神無月書店〉まで、案内してくれた宮地さんは別の店へ行った。神無月はさほど広くはないが、安定感のある古本屋だった。田中小実昌『姦淫問答』(講談社)の美本が2500円で、うーんとうなるが、旅の記念にと買う。そのあと駅のほうに戻って、新刊の〈ちくさ正文館〉へ。書店業界では有名な店だが、ぼくは初めて来た。ドアを入った正面が、文芸書のコーナーで、『文学鶴亀』から『トスキナア』まで幅広く揃っているのに驚嘆。その裏の詩歌コーナーだけで一列費やされているのにまた驚嘆。レジの後ろには筑摩書房の『小山清全集』全1巻がごくアタリマエのように置かれていて、思わずフラフラと買い込みそうになる。まるで京都〈三月書房〉に初めて来たときみたいだ。そういえば、三月書房を三倍にしたような印象も。店長のFさんに挨拶し、「スゴイですねえ!」と云うと、「昔はもっとスゴかったんだけど」とシレっとおっしゃる。坪内祐三オビ文の中村よお『昭和フォーク&ロック音楽堂』(青幻舎)を買って出る。必ずまた来たい店だ。


また東山線で本山へ。古くからある三軒の古本屋を覗く。四谷通りを歩いていて、15年ぐらい前にこの坂を上がったことを思い出した。そのときにはなかったビルの1階のカフェでコーヒー。その地下にある〈シマウマ書房〉へ。外の均一台に、赤塚行雄『ゲバ・アン語典』(自由国民社)が300円で出ており、喜んで買う。あとで見直したら、表紙と本文イラストは、まだ東大在学中の(「とめてくれるなおっかさん」が話題になっていた時期の)橋本治だった! コレは貴重かも。もう一冊、ウィンドウにディスプレイされていたアンドレ・モロア、楠山正雄訳『デブと針金』(第一書房)に目が釘付け。表紙のイラストが、ヨゼフ・ラダっぽいタッチなのだ(クレジットなし)。1500円なので買う。


5時から小松史生子さんのトークショー江戸川乱歩と名古屋」。客は30人近く。小松さんの『乱歩と名古屋』(風媒社)は〈書肆アクセス〉で買っていたが、ココに来るまでの新幹線で読了した。名古屋のモダニズムが乱歩に与えた影響については、まだ研究の余地があるようだ。終わって近くの居酒屋で打ち上げ。小松さん、名古屋在住の芥川賞作家でシマウマでトークショーもやられた諏訪哲史さん、古本屋〈猫飛横丁〉の店長さん、フリーペーパー『SCHOP』発行人で今回のパンフを製作した上原さん、晶文社のTさんらが参加し、いろいろ話す。盛り上がって11時すぎまで。ほうろうの宮地さんは夜行列車に乗るため名古屋駅に向かい、ぼくは上前津の旅館へ。10時到着のはずが11時半になってしまったので、東京にいる旬公に旅館から電話がいってしまった。チェックインし、共同風呂に入って12時半に眠った。