村井弦斎と大仏次郎

西日暮里から横浜まで1時間。みなとみらい線で終点まで乗り、そこから歩いて神奈川近代文学館へ。「『食道楽』の人・村井弦斎」展を見る。看板などに旬公のイラストが使われている。館蔵資料による展示で、書簡類が充実していた。本筋ではないが、弦斎の長女・米子関係で面白い書簡が。岡本一平が黒田(村井)米子に出した手紙(昭和14年9月17日)。岡本が顧問、米子がアドバイザーになった雑誌の創刊について、出資者の森永製菓の「キャラメル主任」が異動したので、発刊が難しくなったというもの。解説に「母の日運動」についての雑誌とある。どんな雑誌だったのか、宣伝部の池田文痴庵はどう関わっていたのか、気になる。


【追記】ウチに帰って、『森永五十年史』(1954)を見ると、「母の日」という項目があった。

五月第二日曜に行はれる「母の日」運動はアメリカに発祥し、大正二年頃から我国でも全国の教会で行はれるやうになった。
昭和初期からこの運動は一般化して母の日大会等も開催されるやうになった。当社はこの崇高な運動に微力を捧げようと昭和十二年から全国的行事とした。(略)十六年迄全国主要都市と満洲・朝鮮・台湾に亘って当社の母の日讃母式が行はれ、お母さんが主賓として招待されて、よい子達が「お母さん、ありがたう」と母を讃へ慰めた。
戦時中一時中絶したが、戦後昭和二十四年から再開された。


岡本一平は、森永キャラメルの内函容器に掲載する「昆虫漫画」を執筆しているので、その辺から雑誌発刊のハナシが出たのだろうか? 社史には役員の一覧も載っているが、当時の「キャラメル主任」が誰なのかは判らなかった。



2階のホールで、黒岩比佐子さんの講演「『食道楽』と日露戦争」。観客は100人ぐらいか。弦斎、国木田独歩日露戦争伝書鳩という、黒岩さんがやってきたテーマを縦横無尽につなげ、100年前の日本について語っていく。たくさんのエピソードをおしげもなく披露されていて、観客を沸かせていた。ラストで、弦斎と同時代のアメリカ人作家との意外なつながりを紹介されていた。たしかに新発見だ。終わってから続いてサイン会が始まるので、黒岩さんに挨拶は出来ず、紀田順一郎さんと少し話してから会場を後にする。


カナブンでは、3月8日〜4月20日まで、新収蔵資料展として「山本七平と山本書店」という展示を行なうとのコト。櫻井書店関係の資料も出るようだ。


待ち合わせまでまだ時間があるので、同じ公園の中にある大仏次郎記念館に行ってみる。前は何度も通っているが、入るのは初めて。最近、未知谷から選集が出たりして、大仏次郎の再評価がされつつあるので、興味を持ち始めてたトコロだった。いまNHKで『鞍馬天狗』をドラマでやっているので、「21世紀の鞍馬天狗」という特別展が。大仏のメモや原稿から映画のポスターまで、鞍馬天狗尽くしでナカナカおもしろかった。図録として刊行された『鞍馬天狗読本』(文藝春秋)を買い、館内の喫茶店〈霧笛〉でコーヒーを飲む。


外人墓地のヨコを通って、元町商店街に出て、石川町まで歩く。北口の改札で、中原蒼二さんと待ち合わせ、寿のはずれにある立ち飲みのモツ焼き屋に連れて行ってもらう。キャッシュオンデリバリーだが、二人の少年が運んできてくれる。家族経営なのだ。立っている客と座っている客がいるが、「椅子100円」とある。モツ焼きもレバ刺しも新鮮でウマイ。チャッチャと打ち合わせして、ビールからホッピーに替えて飲む。たまたま居合わせた中原さんの知り合い夫妻も一緒になり、9時前まで。石川町まで歩き、京浜東北線で帰ってくる。まだまだ横浜には、知らない場所があるなあ。


帰りに〈古書ほうろう〉に寄る。今日はココで「しでかすお友だち」の豆まきがあったのだが、見られなかった。1959年版の『日本映画館・人名・商社録』(キネマ旬報社)2000円を買う。以前、同じくキネ旬の『全日本映画館録』1954-55年版を手に入れている。判型は1954-55年版が横長、1959年版がA5判。見比べると映画館の変化が判ると思う。