京都の夏は古本の海に漂う

kawasusu2007-08-11

朝4時半起き。部屋の片づけをし、おにぎりを食べて、父親に出雲市駅まで送ってもらう。やくも号の車内では熟睡。岡山でのぞみ号に乗り換え、10時前に京都駅へ。外に出るなり、日差しが照りつける。並んでバスを待つ間に、汗が噴き出す。厳しい一日になりそうだ。


出町柳で降り、歩いて下鴨神社へ。古本市の幟が立ち、境内へと急ぐヒトの姿が多くなる。到着すると、「下鴨納涼古本まつり」はすでに佳境であった。とりあえず、〈竹岡書店〉の均一コーナーから取り付き、数軒覗くが、背にリュック、手には袋なので、身動きが取れない。困ったと思ってたところに、扉野さんから電話。「魚雷さんがいちど(扉野宅に)戻るそうです」と。「百円均一コーナー」で待ち合わせて、歩いて5分ほどの扉野さんのマンションへ。荷物を置き、汗をかいたシャツを替えて、再度出かける。


会場に戻り、〈キトラ文庫〉で目録注文していた、板祐生の『冨士の屋草紙』2冊と雑誌『雑談』5冊を受け取る。合計1万7000円。ぜんぶ当たるとは思ってなかったので、手持ちのカネが乏しくなる。〈シルヴァン書房〉の棚で、高見順神聖受胎』(永晃社、1948)の背が目に入る。模様みたいなカットに見覚えあり。さっと引き抜いて、表紙を見ると、イラストの下に「H」のサイン。間違いない、花森安治の装幀だ。探していた一冊。600円は安い(いま「日本の古本屋」を見たら、中野書店が89,250円で出していた)。ちなみに、花森は同じ永晃社刊の久米正雄『嘆きの市』の装幀もやっている。並べてみると、背のデザインが共通している。


そのうち、向こうから歩いてくる男だらけの一団が。京都の古本仲間たちだ。前も行ったことのある〈グリル生研〉に行くが、満員。いったん解散するが、予約を入れてまた一回りしてから、1時に戻る。同席したのは、林哲夫さん、聖智文庫さん、BOOK ONN・中嶋さん、西秋さん、エエジャナイカ・北村くん、Kさん、Yさん、Mさん。Yさんは、作家の稲生平太郎さんなのだった。奈良の古本屋のハナシをした。ちょっと変わったハヤシライスを食べ、ビールを飲む。奥のテーブルには、〈アトリエ箱庭〉の幸田さんら「古本女子」のご一行様が。またまた会場に戻り、1時間ほど見るが、体力の限界を感じ、縁台に座って20分ほど休んだ。


中嶋さんと待ち合わせ、タクシーに乗って〈ガケ書房〉へ。こちらでは「下亀納涼古本まつり」が開催中。店内に入ると、聞き覚えのある声が。ふちがみとふなとのゲリラライブの最中だった。船戸さんは今日はチェロを弾いていて、やりにくそうだった。終わると古本の棚に取り付く客多し。ぼくの本は、奥のほうに置かれていた。ふちがみとふなとさんの棚から、ジャック・シフマン『黒人ばかりのアポロ劇場』(スイング・ジャーナル)500円を買う。内藤忠行の写真と装幀がカッコいい。店内には、東京でよく会うヒトが多く、「物好きだなあ」と自分を棚に上げて思う。大井由紀子さんもその一人。中嶋さんと一緒に、ガケの北にできた〈全適堂〉という古本屋を覗き、そのあと〈太陽カフェ〉でお茶を飲む。


レンタル自転車に乗る大井さんと別れ、中嶋さんとタクシーで三条河原町へ。〈アスタルテ書房〉の近くにブックカフェができたというので、近くを歩いてみるが見つからない。アスタルテで聞こうかと向かうが、ちょっと迷ってしまった。たどり着くと、ソファに座って店主と話しているヒトの後姿に見覚えが。林さんでした。「すぐソコだよ」と教えてもらい、ビルの狭い階段を登った3階にある〈bookshop黒猫堂〉(http://www011.upp.so-net.ne.jp/kuronekodo/)へ。6畳ほど(?)の小さな店。カウンターに入っている女性店主が腕にギプスをしている。階段から落ちて腕を折ったそうで、カフェはしばらくお休みだそうだ。本の量は少ないが、セレクトによってはオモシロイ店になりそうだ。「BAL」の上の〈ジュンク堂書店〉で、大井さんと待ち合わせ、木屋町通りの〈ディラン?〉へ。岡崎武志さんの弟さんの店。2005年春の「すむーす友の会」もココが会場だった。


同人は奥に座って、参加者の到着を待つ。半分は知った顔である。ちょっと遅れてスタート。自己紹介で一冊本を紹介するのだが、さっき下鴨でスゴイ本を掘り出したという報告が続々。先日「ウィークエンド・ワセダ」にも来てくれた、ブログ「空想書店 書肆紅屋」(http://d.hatena.ne.jp/beniya/)のbeniyaさんは、ぼくが編集した『「阿佐ヶ谷会」文学アルバム』との奇縁を語られる。カバー・表紙に写真提供してもらった阿佐ヶ谷の和菓子屋〈とらや椿山〉の坂井さんは、beniyaさんの叔父さんなのだった。その坂井さんが先代の記録をまとめた『追慕 坂井寅三郎』(とらや椿山、1974)を頂戴してしまう。このときには話されなかったが、beniyaさん、下鴨で小林信彦『エルヴィスが死んだ』(晶文社)の美本を3000円で掘り出したという。自分の目の節穴ぶりを呪う。しかも、あとでそのハナシをしていたら、山本さんが「それ、ブックオフで500円で買ったなあ」とか云うのでイヤになる。こういうヒトたちと張り合うだけムダである。


〈アトリエ箱庭〉の幸田さんから待望の『dioramarquis』第2号をいただく。創刊号より雑誌っぽくなっていてイイ。〈cafe de poche〉の伊東さんからは前回のイベントのフリペを。あと〈とらんぷ堂〉(http://www.oct.zaq.ne.jp/afaai707/tr.html)の宮下さんとか、『gris-gris』の野崎さんとか、古本女子とお話しする。


宴もたけなわとなり、恒例の岡崎武志×山本善行の「古本十番勝負」。始まる前から、ルールはどうするかなど、山本さんのテンションが上がりっぱなし。各自が1冊ずつ本を見せ、ギャラリーにどちらが欲しいかを挙手してもらうという判定法。以下がその結果です。


★第一回戦
先行=岡崎。『太陽』の植草甚一特集。200円。後攻=山本。ディラン・トマス『皮商売の冒険』(晶文社)200円。山本「ディラン・トマスの小説というのは珍しい」。岡崎「ま、それだけやな」。結果は岡崎=16人、山本=9人で、岡崎勝利。


★第二回線
先行=山本。中桐文子『美酒すこし』』(筑摩書房)3冊500円。詩人・中桐雅夫の思い出。後攻=『たくさんのふしぎ』の「かくれんぼ」。写真は植田正治。100円。結果は山本=8人、岡崎=15人で、岡崎勝利。


★第三回戦
先行=岡崎。『男子専科』100円。草刈正雄が表紙のを「一発ネタ」といって見せる。後攻=山本。開高健『ずばり東京』の単行本初版。200円。辻まことの装幀。結果は岡崎=3人、山本=19人で、山本勝利。岡崎がちょっと敵に塩を送った風情もあり。


★第四回戦
先行=山本。『濱田隼雄作品集』100円。そりゃ、誰なの? という名前だが、「富ノ沢麟太郎伝が入ってるよ」の一言に、古本者のどよめきが。後攻=岡崎。『漫画読本』の和田誠表紙の号。3冊500円。「写真にちょっとイラストが入ってるンや」。結果は山本=8人、岡崎=12人で、岡崎勝利。この二冊がけっこうイイ勝負だったところが、いかにも「すむーすの会」である。ちなみに、山本は『濱田隼雄作品集』は2冊目ということで、数人でジャンケンし、「ブッダハンド」こと扉野良人さんの手に落ちる。ぼくも欲しかったのだが……。


★第五回戦
先行=岡崎。『山之口獏全集』第1巻(全詩集)3冊500円。後攻=山本。『ハアディー小曲集』200円。結果は岡崎=7人、山本=14人で、山本勝利。


★第六回戦
先行=山本。前川竹之助『大丸と私』200円。私家本。大丸京都店に勤めていた人の回想らしい。後攻=岡崎。あかね書房の「少年少女世界推理文学全集」のチェスタトン『ふしぎな足音』。前川康男訳。岡崎「この装幀がいいんや。この背をよく覚えといて」と教師口調に。結果は岡崎=13人、山本=9人で、岡崎勝利。ここまでで岡崎4勝、山本2勝。


★第七回戦
先行=岡崎。イヴリン・ウォー吉田健一訳『ブライヅヘッドふたたび』(筑摩書房)200円。ちくま文庫にも入っているが、単行本は宇野亜喜良の装幀というのがミソ。後攻=山本。田山花袋『花袋随筆』(博文館、昭和3)200円。函入りの小さな本。岡崎圧勝かと思われたが、結果は岡崎=10人、山本=11人で、山本辛勝。


★第八回戦
先行=山本。宇崎純一イラストで大阪の波屋書房の刊行本。800円。「タイトルは?」と聞くと、山本「知らん」と。横文字のタイトルでトランプ占いの本だとか。後攻=岡崎。『主婦の友』別冊付録『奥様百科宝典』200円。岡崎「この手の本は多いけれど、函入りは珍しい」。結果は山本=14人、岡崎=6人で、山本勝利。4勝ずつのイーブンに。


★第九回戦
先行=岡崎。開高健『完本 白いページ』100円。後攻=山本。藤沢桓夫『朝の歌』200円。結果は岡崎=2人、山本=17人で、山本勝利。


★第十回戦
先行=山本。『小林多喜二日記』300円。ほるぷの復刻。後攻=岡崎。映画『てなもんや東海道』のポスター。500円。〈ガケ書房〉で買ったとのこと。結果は山本=8人、岡崎=13人で、岡崎勝利。


これで5対5の引き分けになる。けっこう時間がかかったので、延長戦には入らずに終了。山本さんは「どちらかといえばオレのほうが優勢やったな」と一人で勝利宣言していた。あー、結果入力するだけで1時間かかってしまった。


1次会終わったが、残っている人多く、扉野さんの実家の徳正寺に上がらせてもらい、飲んだり喋ったりする。正面にいる男がどこかで見たよなあ、と思っていたら、こないだ「ウィーワセ」で会ったミニコミ『HB』のHくんだった。最後にソーメンをいただき、解散。扉野、魚雷とタクシーに乗り、荷物をいちど置いてから〈まほろば〉へ。30分ほど飲むが、突然眠気が押し寄せる。扉野宅に戻り、ヨコになったらすぐ眠ってしまった。