〈書肆アクセス〉という玄関口

神保町〈書肆アクセス〉の閉店については、19日(木)に「文化通信」の速報が出たあたりから、じわじわと知られるようになり、この数日はいろんなヒトがコメントしている。ぼくは昨年末に「そうなるかもしれない」という可能性を畠中さんから知らされ、先月にはその決定を伝えられていたが、誰にも話すわけにはいかず、旬公と二人で、悲憤慷慨し、存続の可能性を検討し、一縷の望みをかけ、そして最後に覚悟した。だから、発表があったときには、怒りの段階をすぎて、自分にナニができるかを考えるようになっていた。


ぼくがアクセスと直接の縁を持つようになったのは、1999年の「本の学校・大山緑陰シンポジウム」の会場で、ミニコミ電子書籍の即売会をやったときだ。第5分科会のテーマ「これからは私たちが本を作り、本を残す」に合わせて、じっさいにブツを並べ販売したいと思ったときに、当時アクセスの店員だった黒澤説子さんが手伝ってくれた。それまでも店にはよく行っていたが、畠中店長と話すようになったのはそれからだ。以降、店内や店外で、さまざまな企画やフェアを一緒にやってきた(いずれリストにしてみたい)。2002年刊の『神保町「書肆アクセス」半畳日記』(無明舎出版)には、もういいよ、というぐらい何度もぼくの名前が出てくる。ぼくの最初の本(『ナンダロウアヤシゲな日々』)が無明舎から出たのも、アクセスのこの本が先にあったからなのだ。


考えてみれば、畠中さんはその頃から、これまでのアクセスのよさを生かしながら、もっと変えていこうといろんな実験をしていた。親会社の地方・小出版流通センターが主力としている地方版元の本に対しても、新しく出てきたミニコミに対しても、本や版元の特性を生かした売り方を試みていた。この数年、アクセスの売り上げが下がっているのは事実だろう。でも、親会社の地方小がそれに対して、どのような努力をしてきたのか? そのことを明らかにせずに、「この数年売り上げ不振が顕著となり、経営を維持することが困難と判断」という他人事みたいな通告で終わりにされては、取引先の版元・書店、客はたまったもんじゃない。「みずのわ編集室」の「書肆アクセス閉店に異議ありッ。」(http://d.hatena.ne.jp/mizunowa/20070721)は、「『人の来ん家は栄えん』と母方の亡祖母がよく云っていた。アンテナ・ショップがそこにあるからこそ『人』が来る」のだと書いている。アクセスは地方出版や小出版、ミニコミへの、神保町への、本の幅広い世界への「玄関口」だった。その玄関口を閉ざすことは、地方小という「家」を閉ざすことにつながる。地方小の人たちは、そのリスクと店舗閉店によって守られるもののどっちが大きいかを、真剣にギリギリの段階まで論議したのだろうか? ぼくにはそうは、思えない。


しかし、こんなコトを書いても、親会社が決定を翻すつもりがない以上、いくら腹が立ってもアクセスの閉店を事実として受け止めるしかない。問題はこの先、閉店までに、自分がアクセスから得たものを、いくぶんかでも何らかのカタチで返すことができるか、ということだ。これについて、いまのところ2つ、具体的な案を考えている。1つは「けものみち計画」(南陀楼綾繁内澤旬子)が選ぶアクセスの◎冊フェア。かえって畠中さんたちの労力を増やすだけかもしれないが、やらせてほしいとお願いした。9月に実現できるだろう。もう1つはこれから相談するが、編集者・ライターという自分の職能によってせめて貢献しようと考えた企画だ。動き出したらココで報告しよう。


今朝は8時起き。鎌倉の義父母が来る。《BSブックレビュー》のハナシになり、義母が「あの三人で本の紹介するコーナーでしょ。あの組み合わせはどうやって決まるの? 仲良く話していたり、あまり話さなかったりするので気になって……。いつもチェックしてるのよ」。おかあさん、あなたの注目ポイントはそこですか。この母にして旬公あり。書かねばならぬ原稿あるが、ついヨコになる。昼は〈ラ・カンパネラ〉のキーマカリー。サエキけんぞう『さよなら!セブンティーズ』(クリタ舎)読了。刺激的なエピソードがたくさんあった。『COMIC Mate』の書評で書こう。


アラン・J・パクラ大統領の陰謀》(1976・米)を再見。やっぱりオモシロいなあ。これは数カ月前に加盟した〈TSUTAYA DISCAS〉という宅配サービスを利用している。ところがこのDISCASの品揃え、ずいぶんバラつきが多い。意外なマイナー作品がある代わり、こりゃ基本だろうという作品が登録されていない。新作でもこないだDVD化されたドン・シーゲルの《突破口》なども見つからない。〈TSUTAYA〉の店舗レンタルのほうで探してみると、渋谷店にはあるというので、ライブに行くついでに渋谷に寄った。しかし、店内はヒトでいっぱいで落ち着いて探せない。検索端末で調べてみると、入荷してないと。なんだよ、そりゃ。〈TSUTAYA〉は、店舗のデータとDISCASのデータを連動して、どちらでも借りれるようにしてほしいものだ。ココまで大きくなったんだから、それぐらいのサービスをやってもイイでしょう。


ブックファースト〉で、小野俊太郎モスラの精神史』(講談社現代新書)と鏡明『不確定世界の探偵物語』(創元SF文庫)を買う。代官山駅で『ぐるり』の五十嵐さんと待ち合わせ。〈晴れたら空に豆まいて〉で、Mio Fouのライブ。鈴木博文美尾洋乃のユニットで、20数年ぶりにセカンドアルバムを出した。店内はライダーズ系の律儀な客で満員。まず、ミンガスという女性ボーカルのトリオ。ドラムが元ローザ・ルクセンブルクのヒトで、全体にうまいけど、つまらなかった。次にMio Fou。ピアノを弾いて歌っているのはたしかに美尾洋乃なのに、反対側に彼女そっくりのバイオリンの女性が。目を疑うが、妹さんであった。それにしても似ている。ほかに多田葉子のクラリネットバスクラ、「ジャック達」の夏秋文尚のドラムという編成。心地いい曲が続き、眠くなった。そういや、Mio Fouって、寝る前によく聴いていたのだった。


そのあと、ジャック達。一色進は老犬のような顔をしているが、カッコいい。夏秋文尚のドラムも音色豊か。大学3年生(たしか)のとき、高校の同級生の誘われてスカバンドの急造ドラマーとなり、吉祥寺の〈JABB50〉(バウスシアター隣り)でライブをやったことがある。その対バンが夏秋さんのバンド(たしか三人組)だった。当時からすごく上手くて、その後、鈴木博文のソロでドラムを叩いているのを聴いて、ああやっぱりなと思ったものだった。以前は夏秋冬春という名前じゃなかったっけ? そしてもう一度Mio Fouの登場。やっぱり美しい曲ばかりでやっぱり眠くなる。アンコールでジャック達と一緒にやった曲が、いちばんライブぽかったな。帰るときに五十嵐さんに教えられて、客席に鈴木慶一がいるのに気づく。渋谷で別れ、半蔵門線と千代田線を乗り継いで帰ってくる。アクセスの件など、メールいくつか。