なんという美しい「インターナショナル」

朝7時起き。昨夜途中まで観て寝てしまった、リチャード・ドナー監督《16ブロック》(2006・米)を最後まで観る。刑事が証人を護送中に自分も命を狙われてしまう……という使い古されたストーリーにもかかわらず、かなりオモシロかった。リチャード・ドナーはほんとに上手い。主人公のしょぼくれた刑事が、ブルース・ウィリスだと始まってしばらく判らなかった。朝飯は釜玉うどん。


千駄木に行き、「早稲田古本村通信」の原稿を書く。今回は戸塚市場の古本市。そのあとゲラを戻したり、メール連絡したり。〈谷中コミュニティセンター〉の図書館にいくついでに、よみせ通りの〈宝家〉でいなり寿司を買ってくる。センター前に最近できた防災広場は、ふだんは閉めているのだが、土日に開放されている。ただの原っぱでよけいな遊具がないので、子どもが思い切り走っている。なかなかイイ光景だ。


1時に出て、東京駅へ。〈フィルムセンター〉の川島雄三特集。40分前に着いたのに、地下の階段まで長蛇の列。以前、〈文芸坐〉で川島特集やってたときにはガラガラだったのに、そういう時代なんだろう。G社のTさんも来ていた。今日観るのは《人も歩けば》(1960)。梅崎春生原作、フランキー堺主演。前にも一度観ている。ナレーションでのオープニングが川島流でイイ。本編もテンポがいいが、このところ早起きなので暗闇に慣れると寝てしまう。30分ぐらい寝て起きたら、佳境に入っていた。義妹(小林千登勢)がフランキーに「わたあめみたいにフワフワしないでね」と云うシーン、よろし。コレも「妹萌え」」か。ラストは堂々の夢オチ。観終わると幸せな気分になる快作。川島本人は気に入らなかったみたいだが。川島特集は明日で終わり。今回は4本しか観られなかった。次の「逝ける映画人を偲んで」特集は、観たいのがたくさんあるので、せいぜい通いたい。


銀座線で浅草へ。〈松屋〉の古本市を見る。今回はいつもより会場が広く、全部見るのに時間がかかった。「小説検定」の資料のほか、原将人『見たい映画のことだけを』(有文社)700円、山下恒夫『明治東京犯罪暦 明治元年明治23年』(東京法経学院出版)800円、が拾いもの。前者はカルト映画といわれる《初国知所之天皇》(未見)の監督が書いたことと、『○○街図』シリーズの有文社からの刊行という点で。後者の山下氏は石井研堂の伝記を書いたヒト。牛イチロー先生と喫茶店で雑談。「ウィークエンド・ワセダ」の準備や、初めて聞くハナシなど。そうそう、牛先生はいま出てる『日本古書通信』に早稲田に移るまでのことを書いていて、これが彼らしい生真面目でいい文章なのだ。まだのヒトは読んでみて。


六区に出て〈ROX〉の〈リブロ〉へ。いましろたかしデメキング 完結版』(太田出版)、竹内洋『大学という病 東大紛擾と教授群像』(中公文庫)、開高健ルポルタージュ選集『日本人の遊び場』(光文社文庫)、それと『映画秘宝』最新号を買う。合羽橋のほうへ歩き、商店街の途中にあって気になっていた〈キッチン城山〉という洋食屋へ。ハンバーグ、エビフライ、焼肉の盛り合わせを食べるが、ウマイ。奥の壁にどこかで見た人物写真が。会計のとき店主に「あれ、誰でしたっけ?」と訊くと、「仙台四郎だよ」と教えてくれる。実在の人物だが、福の神としてイコン化されている。荒俣宏の本で知り、諸星大二郎がマンガで登場させたのを読んだ。「効くんですか?」と云うと、「いやあ、繁盛するかと思ったんだけどね、ちょっと貼るのが遅かったなあ」という答えが。どう反応すればイイのか。


台東区中央図書館に行くと、土曜なのに8時まで開館していた。閲覧席で文芸誌などを読む。「書物蔵」さんが紹介していた(http://d.hatena.ne.jp/shomotsubugyo/20070708)、『論座』8月号の座談会「転換期を迎える図書館サービスの今」を読む。『論座』の本関係の特集はゆるいものが多いけど、書物蔵さんがおっしゃるとおり、「これはまともな図書館人や図書館ファンなら読むべき」です。20ページという長さで、公共図書館の抱える問題を論じている。


7時半になったので、道を渡った反対側にある〈なってるハウス〉へ。今日は渋谷毅さんで、小川美潮さんがゲスト。15人ほど入って満員の盛況。このデュオを見るのは2回目だが、息がぴったり合っている。いい気持ちで聴いていたが、後ろのカウンターにいる70ぐらいのじいさんが、酔っ払ってて、でかい声で合いの手を入れたり下駄でリズムを取ったりして、それがすべてズレているので邪魔で仕方ない。休憩時もうるさかったが、後半、渋谷さんのソロが始まって、曲が終わった直後になんか歌謡曲を歌いだし、次の曲の出だしが邪魔される。一拍おいて、渋谷さんが別の曲を弾きだす。それがなんと「インターナショナル」。どういう意図なのかはよく判らないが、じじいは一瞬おとなしくなった。それにしても、なんという美しい音の「インターナショナル」なのか。


その後、このじじいの知り合いだというフルート奏者が出てきて、渋谷さんと一曲やる(エリック・ドルフィーのできそこないみたいだった)。このあたりからじじいがまたうるさくなった。リズムの複雑な曲にズレズレの合いの手を入れるから、美潮さんは歌いにくそう。MCではっきり「だって、へんなタイミングの合いの手が入るんだもん」と云ってるのに、次の曲でも下駄を踏み鳴らすので、さすがにキレて「うるせえぞ」とじじいに云う。すると、すぐにおとなしくなって拍子抜け。もっと早く注意すればよかった。ぼくら(以下)の世代はこういうシチュエーションに慣れてないから、つい萎縮してしまいがちだ。


おかげで最後の数曲は、まっさらの気持ちで聴けた。20年以上聴いている「窓」と「おかしな午後」が、渋谷さんのピアノによって、まるで新曲みたいに新鮮だった。美潮さんの歌い方もじつに伸びやか。いままで何度ライブを聴いても声をかけなかったは、今日は思わず終わってから挨拶する。『ぐるり』に書いたのを読んでくださっていた。「ぜひ渋谷さんとアルバムつくってください!」とお願いする。いつもなら鶯谷まで歩くが、怒るやら感動するやらで疲れたので、西日暮里までタクシーで帰る。