『フリーという生き方』への賛辞と疑問
朝、釜玉うどんを食べて、仕事場へ。〈高原書店〉から注文した本が3冊届く。田川律『男らしいって、わかるかい?』(晶文社)、同『ぼくの時代、ぼくらの歌 ライナー・ノウツ1974〜1984』(思想の科学社)、別冊・話の特集『話の特集図書館』。先日、「書店・話の特集」というコーナーのチラシについて書いたら、さっそく「書誌鳥」森洋介さんよりメールあり。
これ、のちに『別冊・話の特集 話の特集図書館 BEST SELECTION 5000』(話の特集、1984.11)に纏まったものではありませんか。ずっと前に古本で買ひましたが、百册のリストが五十人分、選者それぞれの短文附きでした。南陀樓さんや林さん程の本好きなら當然ご存知とは思ふものの、お二人とも觸れてないので、一往申し上げる次第です。無論、『話の特集図書館』が書店で實施した企劃の全てを收めたわけではありますまい。林さんの擧げた選者一覽と較べ合せても異同はありますし、實態は當時のチラシに就かなければ判らぬこともありさうです。
ブック・リストの類は好きで色々蒐めてゐますが、特に一九八〇年代に盛行した印象があります。松岡正剛編輯『遊』然り、池袋リブロの「棚の思想」然り。安原顕などは九〇年代以降の『マリ・クレール』も『リテレール』もその手法で押し通したわけです。すなはち、カタログ文化といふ蔑稱で呼ばれた『ぴあ』に代表されるやうな或る種の志向が七〇年代の萌芽を經て開花し、ニュー・アカ・ブームと相伴って輕薄化した教養主義(當時「軽チャー」なんて言葉もありましたっけ)を成してゐたと見受けます。輕薄といっても非難の意のみにあらず、功罪ともに考へたいところです。いづれにせよ、「書店・話の特集」乃至『話の特集図書館』もこの系列上、特筆されるものかと愚考します。
もちろん「當然ご存知」じゃないのです。『話の特集』はリアルタイムでもあとになってからもポツポツ読んではいるけれど、どうも全面的に好きになれないところがある。なんか全体に「洒脱」なカンジが肌に合わないのかもしれない。この別冊も以前見かけたような気がするが、覚えていなかった。本のほうには、この店で行なわれたトークの記録が9本入っている。チラシとの異同はこれから調べてみよう。
10時すぎ、地震が起きる。妙にゆっくりとして長い揺れで、気持ちが悪くなる。あとで新潟・長野での地震だと知る。死者も出て、大変なことに。遅れていた『ぐるり』の原稿を書く。今回はマーガレットズロース。前から書きたいと思っていたバンドなので、気合が入った。そのあと、『路上派2006』の注の候補を考えたり、ボーナストラックの原稿のコピーをしたりして、右文書院に送る。
夕方に『進学レーダー』の書評原稿を書く。今回は岸川真『フリーという生き方』(岩波ジュニア新書)、樋口有介『ぼくと、ぼくらの夏』(文春文庫)、金子桂三『東京 忘却の昭和三〇年代』(河出書房新社)。岸川真は、『「映画評論」の時代』(カタログハウス)などを手がけているフリーの編集者。滝本誠の新刊もこのヒトの編集だった。『映画秘宝』でときどき日本映画の監督インタビューなどをやっている。『フリーという生き方』は、フリーランスとしての体験談だが、恥をかいたことも含め、ほとんど実名で書いているところが勇気ある。2007年の収支予定を見てけっこう実入りがあることに一瞬ムカツクが、それだけの仕事をこなしているから当然だろう。岸川がインタビューした映画監督・脚本家の新藤兼人の「素通しの自由がフリーですから」というコトバは力強い。利益もリスクもこの身に引受けてこそ得られるのが、「素通しの自由」なのだろう。
イイ本なので学生に勧めようと思うが、ひとつ疑問も。本文のイラスト、あれはナンなんだ? 中学生が落書きしたようなもので、味があるワケでもなく、だいいち本文の内容と合ってない。115ページのウマの絵などまったく意味不明。イラストが本文にふさわしいかどうかをジャッジすることは、編集者としてあたりまえの仕事だろう。最近の岩波書店は、テーマ設定や編集が妙にゆるい本を出していると感じていたが、これはちょっとヒドイんじゃないか。本文で著者がどんな仕事でも「自分の力を出し切る」のがフリーランスだと書いているだけによけい、会社に守られている岩波の編集者はナニやってるんだと云いたくなった。
〈往来堂書店〉で、押切蓮介『でろでろ』第10巻(講談社)と、杉岡幸徳『奇妙な祭り 日本全国〈奇祭・珍祭〉四四選』(角川oneテーマ21)を買う。後者は「書評のメルマガ」で荒木幸葉さんが紹介していて、オモシロそうだと思っていたもの。ウチに帰り、しばらく前に録画したNHKの《世界音楽遺産》を見る。ゴンチチの二人が知られてないミュージシャンに会いに行くというもの。フレットをえぐったギターで伸び縮みする音を奏でるベトナムのキム・シン、ギターを横にして弦を叩いたりはじいたりして演奏するカナダのエリック・モングレイン。どちらもコレまで聴いたことのないタイプの音楽だった。ゴンチチとの共演とソロ演奏をたっぷりと聴かせてくれる構成もイイ。ゴンチチ(とくにチチ松村)にはFMや本を通じて、未知の音楽をたくさん教えてもらった。この番組のシリーズ化を望む。そのあと、やはりNHKでのYMO再結成(HASと云うんだとか)を見るが、つまらなくて1時間が長く感じた。今回はゴンチチの圧勝。