『噂』という雑誌があった

この数日で届いた本。まず、海野弘『二十世紀』(文藝春秋)。20世紀を10年ごとに区切り、そこで起きた事件や文化現象を軸にその時代を描き出す。607ページ。この3年ほど、海野さんにお会いするたびに、「20世紀の歴史をまるごと書きたい」というハナシをお聞きしていた。それが実ったのだ。心して読もう。海野本では、中公文庫の『モダン都市東京 日本の一九二〇年代』の改版も出た。装丁の絵が変わり、初刊本とはかなり違うイメージの本に。


太田順一さんからは写真集『群集のまち』(ブレーンセンター)。「中年のウツなのか、人を相手にすることに少々うみ疲れて〈もの〉〈風景〉に向かうようになりました」という太田さんの人が居ない大阪の街の風景。鈴木一誌の装丁がイイ。


朝から雨。旬公と谷中のアパートに行き、最後の荷物を引き取る。今日でこの部屋とはお別れ。旬公のアトリエだったが、ぼくも2005年の「一部屋古本市」で使わせてもらった。あのときはオモシロかったなあ。「近くに来たら寄ってくださいね」とおっしゃる大家さんに挨拶してから、タクシーで西日暮里へ。仕事の準備、いろいろ。


旬公と新御茶ノ水。駅前のレストランで、鶏肉と大根のポトフ。一人で神保町へ。〈三省堂書店〉で、梶山季之資料室編『梶山季之と月刊「噂」』(松籟社)、〈書肆アクセス〉で、こけしマッチ制作所『大阪みてな帖 雑貨と喫茶とエトセトラ』(毎日コミュニケーションズ)、芳賀八恵『本づくりのかたち』(8plus)、〈すずらん堂〉で、唐沢なをき『まんが極道』第1巻(エンターブレイン)、鈴木みそ『銭』第5巻(エンターブレイン)、冨澤良子『TOKYO図書館日和』(アスペクト)など、久しぶりに買い込む。雨の日なのに。


〈ダイバー〉で第2回「ふるぽん寄港市」を覗く。「古書梅酒」の棚から、池田弥三郎『東京の12章』(淡交新社、1963)800円を。「動く」「働く」「生れる」「消える」「休む」「見る」などのテーマで切り取った東京の風景写真に、池田が文章を付けたもの。たしか、〈高円寺書林〉のときも出していて、気になっていた本。買おうと思っていた、近所のバー〈しゃれこうべ〉の冊子『神保町しゃれこうべ』をいただいてしまった。なお、塩山さんの〈ダイバー〉評(http://www.linkclub.or.jp/~mangaya/nikkann.html)は、引用をはばかられる。


都営線で新宿に出て、乗り換えて、遠くへ。車中、『梶山季之と月刊「噂」』を読む。『噂』は、梶山季之が出した文壇史のゴシップや作家の裏話などを載せた雑誌。古本屋で見つけるとちょこちょこ買っているが、まだ数冊しか持っていない。本書は、この『噂』の全目次、企画別の内容一覧、編集者の回想、それに本文の復刻などで構成されている。とにかく一つの雑誌についての資料集として、ここまで充実したものはメッタにない。掲載広告の一覧まである。この雑誌のためにカネを使いまくった梶山と、その資料を受け継いだ未亡人の執念が伝わってくる。この本を読んだら、現物が見たくなり、出先の図書館で検索したら幸いなことに所蔵していた。時間がなく、1972年6月号の龍円正憲広瀬正の“ライズ・アンド・フォール”」のみ読む。龍円氏は河出書房新社で『広瀬正小説全集』を企画・編集したヒト。作家と編集者の幸福な出会いを描いた、素晴らしいエッセイ。先日の半村良についての回想といい、龍円氏の文章は抑制が効いていてとてもいいのだ。そのあとの仕事、そろそろ具体的になってきた。雨は止まず、蒸し暑い。電車の中で汗が引かない。西日暮里に戻ってきたのは8時前。