極私的2006年ベスト12のテーマは「喪失」

kawasusu2006-12-30

年の瀬に一週間ほど日記を休んでしまった。いろいろ書いておきたいコトはあったのだが、どうも気力がなくて。しかし、このママ年を越すのはあんまりなので、2日分だけ書くことにしよう。


この間は、あまり出かけることなく、ウチでうじうじしていたが、代官山の〈晴れたら空に豆まいて〉でのマーガレットズロースのワンマンライブはじつによかった。名曲「斜陽」のフレーズが頭から離れず、この曲が収録されている[こんな日を待っていたんだ](『ぐるり』の五十嵐さんに借りた)を何度か聴いている。このバンドの特徴として、「向日性」というキーワードが思い浮かぶ。会場でもらった、メンバー製作の『ズロマガ』創刊号は、いかにもミニコミらしいつくりで面白く読んだ。付属のCD-Rに収録されているライブ演奏もイイ。


29日は神楽坂〈麦マル2〉での友部正人さんのライブ。木造民家の1階と2階に客を入れ、友部さんが行ったりきたりしながら歌うという「立体ライブ」なる試み。1階でうたうときには、その様子を2階の客はプロジェクターで見る、逆もしかり、というもの。そんなコトほんとうにうまく行くのかな、と疑問に思っていて、当日行ってみたら、まだセッティング中だったのだが、始まってみると、なかなかオモシロイ。映像はすごくクリアでいいのだが、マイクが置かれなかったので、歌やギターは下からの生音を耳を澄ませて聴くしかない。文句云っていた客もいたけど、中学生のときに東京からの電波をかすかに受信しているラジオを必死に聴いたとき以来、こんなに一生懸命、耳で音を拾う機会は少なくなっているので、なんだか新鮮だった。MCがまったく聞こえないのはざんねんだけど、2階では聞けるわけだし、いいじゃない、たまには。3曲ずつ1階と2階でうたい、最後の2曲は2階に全員上がらせて一緒に(床が抜けそうだった)という構成だった。〈古書ほうろう〉のライブで聴いた「Speak Japanese,American」(1階)と、「長井さん」(2階)がとくにヨカッタ。一般に告知されず、〈麦マル2〉の客だけに向けたものだったこともあり、のちのち伝説として語られそうなライブだった。


そのほか、28日の〈MANDA-LA2〉の加藤千晶、30日の〈上々堂〉での加藤千晶ライブ&岡崎武志さんとのトークも行くつもりだったが、どちらも行けずじまい。


この年末には岸田今日子青島幸男が亡くなったが、ぼくがショックだったのは十返千鶴子の逝去。85歳。十返肇の奥さんで、女性についてなどのエッセイも多く書いている。先日の台東区立中央図書館のリサイクル本フェアでも、『男はせいぜいこんなもの』(朝日新聞社)、『世紀末ロンドンを翔んだ女』(新潮社)を入手していた。もとは『婦人画報』の編集者だった。十返肇の本を読んでいくうちに、いつかこの人にインタビューできたら、と漠然と考えていたのだが、もうその機会は得られない。


仕事の掲載誌がいくつか届く。『かんだ』冬号では「マッチラベル蒐集譚 学生の街・神保町」を、『フリースタイル』では「街(マッチ)ラベル散歩」を書いた。前者は2色、後者は4色で図版を掲載している。『フリースタイル』のは連載です。また『週刊読書人』新年号の新書特集で津野海太郎さんとの対談が掲載。そんなトコロかな。


イベント関係では、〈往来堂書店〉で「不忍ブックストリートの42冊」というフェアを開催中。年末年始に読んでほしい本をセレクトしています。南陀楼も3冊選書。また、出雲の〈今井書店〉では秋にやったフェアに続き、「ナンダロウアヤシゲ氏セレクト 本を愛でる・本をつくる」というフェアを開催中(画像)。帰省時に見に行こう。あと、〈立石書店〉店内の「けものみち」コーナーは1月まで継続してます。追加もしています。それから、2月4日(日)に〈古書ほうろう〉で、「全国古本女子サミット」という謎のイベントを開催します。詳細は年明けに発表!


では、毎年恒例の、その年のベスト本12冊を挙げてみます。今回はブログに書いたことを読み返す気力がなかったので、いま、思いつく範囲で書いています。入れるべき本が落ちているかもしれません。順位はなく、だいたい刊行月順になっています。


西村賢太『どうで死ぬ身の一踊り』(講談社
佐々木崇夫『三流週刊誌編集部 アサヒ芸能と徳間康快の思い出』(バジリコ)
阿奈井文彦名画座時代 消えた映画館を探して』(岩波書店
大西祥平(作)・吉本浩二(画)『勝ち組フリーター列伝』(小学館
大村彦次郎『文士のいる風景』(ちくま文庫
串間努『大増補版 まぼろし小学校』ものへん・ことへん(ちくま文庫
すぎむらしんいち(画)・リチャード・ウー(作)『ディアスポリス 異邦警察』第1〜2巻(講談社
津原泰水ブラバン』(バジリコ)
冨田均『東京坂道散歩』(東京新聞出版局)
堂場舜一『讐雨 刑事・鳴沢了』(中公文庫)
柳下毅一郎『女優林由美香』(洋泉社
海野弘『歩いて、見て、書いて 私の100冊の本の旅』(右文書院)


こじつけで、共通のテーマを決めるとしたら、「喪失」かなあ。過去について書いた本はもちろん、いま現在の東京を歩いている『東京坂道散歩』にしても、失われたものを愛惜する思いが強いし、『文士のいる風景』などは彼らがいた「文壇」という場がまるごと「喪失」している。堂場舜一の「刑事・鳴沢了」シリーズ(現在6冊)は、『本の雑誌』で渡辺武信が年間ベストに挙げていたのが気になって、図書館で借りて読んでみたら止まらなくなった。いわゆる「ハードボイルド」とは違う、若い刑事の成長物語。ひとつ事件が解決するたびに、彼は大事な人を失っていく。ピンク映画、AV、雑誌連載など、昨年亡くなった女優の仕事をできうる限り集めようとした『女優林由美香』は、前から観たかった《由美香》をDVDでやっと観たあとに読んだ。


今年は、以前よりも書評の仕事が増えたせいで、自分の好みとは違う本をずいぶん読んだ。また、自宅で仕事するようになって、近所の図書館に足しげく通った。そのおかげで、意外な本と出会うことができた。その一方で、きちんと読んでおきたい本を積ん読のままにしてしまった。


では、最後に「路上派少年遊書日記――1981年・出雲」を。

1981年3月27日(金)
★部活から帰ると石飛卓美という人より手紙。この前の新聞の件について、『星群』はおしくもゆずってしまわれたそうで、『SFマガジン』の一月号なら良いそうだ。達筆におどろく。


★『少年ビッグコミック』NO.7を買った。
僕の投書は出ていない。筒井康隆じゃないが、CIAの陰謀だ。
そういえば、昨日パラオに『筒井康隆はこう読め』【平岡正明】や堀晃の『エネルギー救出作戦』があったな。ほしい、ほしい。あだち充の『ナイン』や『陽あたり良好』もほしい。


★『軟派にっぽんの100人』読了。山藤章二の絵はおもしろい。まだ40代前半で若いことにおどろいた。文章も井上ひさしらの文で楽しかった。
440円とかなり高かったが、そのかいあってよかった。


石飛卓美氏については12月10日の記述を参照(http://d.hatena.ne.jp/kawasusu/20061210)。達筆に驚いているところをみると、先方の年齢など知らなかったのだろう。(続く)