アタシの身体は古本でできてるの(はあと)

8時半起き。朝飯はうどん。玉は千駄木のうどん・そばの製麺所で買ったものだが、味はいまいち。日暮里図書館近くの製麺所には負ける。午前中は、ある本の企画をまとめる。


『古書月報』第419号届く。先日の「古本屋になるための一日講座」の記録が載っている。これだけでなんと19ページもある。テープ起こししてまとめるのは、タイヘンだっただろうと思う。お疲れ様でした。参加者のアンケートも掲載されていて、参考になる。この号から、伊藤昭久(古書いとう)、有馬浩一(書肆ひぐらし)、狩野俊コクテイル書房)、西村康樹(西村文生堂)の各氏の連載がスタート。これだけ充実しているんだから、一般読者も定期購読できるようにしてほしいです。広報部長の内堀さんには何度か云ったけど。ほかに、みなもと太郎さんから『極悪伝』(マガジン・ファイブ)をいただく。『漫画ピラニア』に連載された5年分を完全収録。400ページ以上ある。解説は竹熊健太郎平岡正明


1時半に自転車で出かける。鶯谷のいつも通りがかるところに、〈世茂利奈〉という、どう読むのかワカラナイ喫茶店があり、スパゲティとカレーを出している。建物の上部にはツタが絡まっていて、いいカンジ。中に入ると、うなぎの寝床みたいに、横幅が狭い造り。シーフードカレーのセット(650円)を頼む。カレーは美味しかったが、コーヒーはちょっと……。入谷から浅草に出て、〈TSUTAYA〉でDVDを返し、また何枚か借りる。〈リブロ〉で、「小説検定」の資料と、『本の雑誌』を買う。


本の雑誌』は2006年度ベスト号。『路上派遊書日記』は、メイン・各ジャンル・識者の選ぶベストにはかすりもしなかったが、「読者が選んだベスト1」で台東区キング亀田氏が取り上げてくれている。うれしい。亀田氏は知り合いだから、塩山さんにまたなんか云われそうだが。「多分著者が死んだなら、きっと死体からは古本のような匂いがするだろう、と思う。またそう願う」とある。そうよ、アタシの身体は古本でできてるの(はあと)。同誌今号から、向井透史「古本屋セドロー君の午後」がスタート。向井くんからは「編集部がこういうタイトルにしてきたけど、イイっすか?」とお伺いがあった。いちおう、名付け親だからな、ってたいしてエバることじゃない。


入谷の台東区中央図書館に向かっている途中、ポツポツと雨が降り始める。図書館のロビーで、「台東区の風景」という写真展をやっている。どうせシロウトだろ、とたかをくくって眺めたが、看板建築を狙ったものとか、町内の掲示板をいくつも撮ったものとか、各自がテーマを持って撮影していて、意外にオモシロイ。あるヒトが、さっき昼飯を食べた〈世茂利奈〉の写真を展示していた。奇遇なり。


2階のビジネスルームで、書き下ろしの構成をつくる。うーん。それとは関係なく、郷土資料室の本を抜き出してきて読む。新堀哲岳講演『大東京裏面哀話 浅草グレ物語』(東京講演会、昭和3)。「グレ」とは不良少年のこと。本書は、少年保護司の新堀氏が「或時は変装しグレの仲間に紛れ込み親しく見聞したる十年間苦心の体験に基く研究談」である。また、ゆまに書房の『コレクションモダン都市文化12 カフェ』(和田博文編集)には、喜多壮一郎『カフェー・コーヒー・タバコ』、酒井真人『カフェ通』、星隆造『カフェ経営学』を収録。和田氏による解説と年表が充実。年表にはカフェー文献が網羅されている。この「モダン都市文化」シリーズは、復刻に加えて、きちんとした解説・解題・年表があるのがイイ。一冊1万8000円だから、個人では買えないけど。12月からは第二期が刊行開始。「構成主義マヴォ」「「帝都」のガイドブック」「サラリーマン」「郊外住宅と鉄道」「紀伊國屋書店と新宿」「装幀・カット」など興味深いテーマが並んでいる(http://www.yumani.co.jp/)。自分の古巣だから云うワケじゃないけど、ゆまに書房はこの2、3年、元気がイイ。今回のシリーズにも、ぼくが在社中に復刻したかった書目がいくつか入っている。なるほど、こういうくくり方ならイケたのかと思う(だからといって1995年にこのシリーズが実現できたとは思えないが)。


4時半に図書館を出ると、まだ雨が降っている。しばらく止みそうもないので、意を決して自転車に乗る。三河島経由で帰るが、ウチに着いたら、服もカバンもしとどに濡れていた。よけいに古本の匂いが……。晩飯は、ベーコンとキャベツ炒め、卵とじ。録画しておいた、テレ東「午後のロードショー」のシドニー・ルメット監督《ギルティ 罪深き罪》(1993・米)を観る。女性弁護士に弁護を依頼した男がストーカーになるサスペンス。ドン・ジョンソンが二枚目の異常性格を演じる。えらくオモシロイ。意外な拾い物だった。


まぼろしチャンネル」の「帝都逍遙蕩尽日録」(http://www.maboroshi-ch.com/cha/nandarou.htm)がアップされました。「わめぞ」に捧ぐ。


では、最後に今夜も「路上派少年遊書日記――1981年・出雲」を。

1981年3月14日(土)
★今日は大体、チョコレートのお返ししなければいけないけれど、まだやってない。
金がないので自分でクッキーを焼くことにする。


3月15日(日)
★昨晩、こわい夢を見た。書くだけだと感じ出ないけど、本当にこわかった。学校に受験の鬼というような男が来て、僕たちの先生をやめさせて、僕たちの担任(というより勝手にそうした)になったのだ。なぜかそのころは終戦直後だった。
ムチのようなものをもって、文句を言うとすぐたたく。人を人とも思っていないような感じで、一時間から六時間までずっと勉強だった。
これはどうも井上ひさしの『偽原始人』の影響が多分にあるようだな。


★昼から本当にひさしぶりで、町にいく。
本屋には単行本のところには、いろいろといい本がおいてあったが、文庫本のところには徳間文庫の新刊さえ置いていない。なんたる不心得だ。あだち充の『陽あたり良好』をさがしたが見つからなかった。ほしいなあ。
A・ビアスの『悪魔の辞典』があったが、高かったために買えなかった。単行本のところには、今日ざっとみたところ、7、8冊はほしいのがある。もちろん買えない。
レコード屋で、岡林信康のレコードを探してうろつく。へとへとになって、フォークやロックのところを探したがなく、ひょいと見たら、目の前にあるではないか。つかれた。山下洋輔のもさがしたが、一枚しかなくつまらん。しれにドナウエッシンゲン音楽祭のレコードが一枚もない。三枚出てるはずなのに、たるんどる。
結局ほとんど何も買わなかった。


★今日買った本
『未来世界から来た男――SFと悪夢の短編集――』フレドリック・ブラウン 小西宏・訳(NO.169)280円 創元推理文庫
海外SFは5冊目、ブラウンのものは4冊目。


★今日買った雑誌
少年ビッグコミック』NO.6 180円 小学館
これで三回連続して買っている。どの漫画もおもしろい。『一撃伝』【大島やすいち】もおもしろい。


ホワイトデーの菓子にはカネをかけずに、本を買っている……。だからモテないんだよ!と、中学生の自分に云いたい。本やレコードが揃っていないことに、「不心得」「たるんどる」と怒っている。13歳にして、いっぱしに書店を批判してるのだ。「全点報告 この店で買った本」の原点はココにあったか。