「小説検定」と『まんがNo.1』シングルズ

朝8時半起き。〈往来座〉のセトさんからいただいたリンゴを食べる。おいしい。午前は『進学レーダー』の書評原稿を書き、ゲラ校正などをやり、午後は同じく『レーダー』の図書館原稿。年末進行なので、ちょっと早めに書く。しかし、ライターを名乗っているのに、月刊誌の連載が少なく、年末進行に引っかかる雑誌がコレぐらいだというのは、どうも情けない。


新潮社から新雑誌『yomyom ヨムヨム』創刊号が届く。『小説新潮』別冊の季刊誌。例の「Yonda」パンダを表紙から中までフィーチャーした、女性向け小説誌。しかし、過度に若年層にこびるのではなく、グラビアやカラーページを廃して、小説そのものをたくさん載せることに腐心しているようだ。ビッグネームの末席に、南陀楼の名前も。「小説検定」という小説をネタにしたクイズ欄を担当するコトになったのだ。第一回目のテーマは「食べ物」。食の出てくる小説は多いが、いざ問題をつくるとなるとなかなか難しく、かなり多くの小説を読む必要があった。苦労してつくったクイズ、みなさんも解いてみてください。誌面では回答が明かされていない「今月のお題」に応募すると、全問正解者から抽選でプレゼントが当たります。


なお、つくってはみたものの、没になったクイズを二つほど。正解は後日。

問1 東直己『探偵はバーにいる』で、酔っ払い探偵の溜まり場として登場する札幌・ススキノのバーの名前は?
a・ケラーオオハラ b・ケラーオオハタ c・ケラーオオムラ d・ケラーオオモリ


問2 山田詠美『風味絶佳』で、七十歳を超えてもボーイフレンドがいるアメリカかぶれの祖母が、「私の恋人」もしくは「必需品」と呼んでいるのは?
a・ガム b・ミルクキャラメル c・昆布飴 d・コーヒー


奥成達さんから、『赤塚不二夫のまんがNo.1 シングルズ・スペシャル・エディション』(DIW)が届く。1972年に創刊し、1年間で廃刊した赤塚不二夫発行の雑誌の付録レコードの音源をCD化し、誌面からのベストセレクションを一冊にまとめたもの。CDには山下洋輔トリオ「ペニスゴリラ・アフリカに現わる!」、三上寛「ホイ!」(作詞・奥成達)などが収録されている。本の方には、同誌の制作実務を行なった長谷邦夫と、「ツーホット・ワンアイス」として多くの記事を書いた奥成さんの長い対談が載っている。この数年、奥成さんの足跡を追っているぼくには貴重な資料であることはもちろんだが、1970年代初頭にこんなヘンな雑誌があったという記録としても、じつにありがたい復刻だ。CD+本のセットで3333円(本体)は安いよなァ。


先日、塩山芳明さんから届いた下仁田ネギを、〈古書ほうろう〉におすそ分けに行き、根津の〈弥生美術館〉へ。「竹中英太郎と妖しの挿絵展」を見る。『新青年』時代を中心に雑誌の挿絵を展示している。驚いたのは本の装幀。江戸川乱歩他『江川蘭子』(博文館)を手がけているのは知っていたが、大下宇陀児『恐怖の歯型』(博文館)、下村千秋『天国の記録』(中央公論社)などは函も本体も素晴らしい。2階には戦後、息子の竹中労とやった仕事が展示されていた。欲を云えば、ほかの挿絵画家を入れずに、全体にもっとゆったりと竹中英太郎の仕事を見たかった気がする。甲府の〈竹中英太郎記念館〉が発行した『竹中英太郎』という図録、3000円とちょっと高かったが、買っておく。

ウチに帰ると、右文書院から「公明新聞」に載った『路上派遊書日記』の書評が届いていた(12月4日付)。評者は坂崎重盛さんで、この日記のスタイルを褒めてくださっている。旬公が家出したコトまで触れてあった。新聞にこんな事実が載ってしまうとは……。末尾で『出版業界最底辺日記』にも触れてあり、「ノドごしのいい」『路上派』に対して『最底辺』には「コノワタ的なクセがある」という。とてもいい書評だった。


夜は下仁田ネギと鶏肉団子の鍋を旬公がつくる。DVDで、ジョニー・トー監督《ブレイキング・ニュース》(2004・香港)と、パク・チャヌク監督《復讐者に憐れみを》(2002・韓国)を続けて観る。前者の歯切れよさと、後者のねちっこさが好対照。後者では、ペ・ドゥナの性交シーンにびっくり。《リンダリンダリンダ》(2005)よりも前に、韓国でこんなハードな役柄を演じていたとは。


では最後に、今夜も「路上派少年遊書日記――1981年・出雲」を。

1981年3月3日(火)
★家に帰ってしばらくすると、早川書房から「ハヤカワ文庫・ハヤカワミステリ文庫」の目録が来ていた。これも役にたちそうだ。
おもしろそうな本がたくさん、たくさんならんでいる。


★堀晃『梅田地下オデッセイ』読了。*1
その中の「連立方程式」がおもしろかった。方程式のことについていろいろと考える。
〈ゴドウィンの条件〉をやぶることができないか、そう考えていると、前にメモに〈ゴドウィンの条件〉をやぶる方法を考えて書いておいたことを思い出した。


宇宙船の中に乗員ひとり。積み荷はものをとかす機械。燃料はぎりぎり。
酸素は、船がこわれた時の補給用にボンベが何本かおいてある。宇宙船が一着。
そこに密航者。
おなさけで宇宙服を着せてやり、酸素ボンベを一本だけつけて船外に追いだす。
密航者、こっそり積み荷をもち出して、それで外から宇宙船に穴をあける。
乗員、気が遠くなる。俺が死ねば、あいつは中にはいり、予備のボンベをあけるだろう。あれだけあれば、目的地までたどりつけるだろう。
やはり2−1=1だった。
方程式はやぶれないのだ。


というようなメモだ。
これはいいと思うのだが。


ゴドウィンとは、トム・ゴドウィン。彼の書いた「冷たい方程式」で提示した条件に、多くの作家が挑戦した。日本人作家の「方程式」ものやパロディ(横田順彌とか)も数多い。上のメモは、天然文系のアタマをしぼって考えたものだが、宇宙船に穴を空けるとか、「ボンベ」とか、非科学的もいいところ。だいたい「質量保存の法則」というコト自体、ちゃんと理解していたのか、疑わしい。しかし、このときは「すごいアイデアだ!」と一人で興奮していた。もっとも、この時期にSF少年だったら、誰でもひとつぐらい、方程式ものかタイムマシンもののネタを考えたことがあるのではないだろうか?

*1:この小説の印象が強烈にあったため、のちに梅田に行ったときには地下街に入るのがコワかった。