対談のちお銚子10本

8時半起き。今日の対談用に本を引っ張り出したりして、メモを取る。昼前に一段落したので、千代田線に乗る。ポストに届いていた『彷書月刊』を眺める。特集は竹中英太郎(弥生美術館の展覧会も行かなくちゃ!)。グレゴリ青山さんのマンガがいい。ぼくの連載は拡大版として4ページで「ブックオカ」ルポを。なお、ココには「黒いでっぱり」こと畠中さんの行状は載ってないので、期待しないよーに。11月3日に、本郷〈ペリカン書房〉の品川力さんが亡くなったとある。103歳。10年ほどになるが、たまたま店が開いていて入ったことがある。物静かなお爺さんが店に座っていたが、その頃は品川さんの著書も読んでなくて、買える本もなかったので、なんだかフシギな店だなあと思っただけだった。いまとなっては、あのとき話しかけておけばよかった。 


経堂へ。昨日書いたが、〈遠藤書店〉支店が今日で最終日。少し時間ができたので、覗いてみる。入り口には「閉店」と「20パーセント引き」の張り紙が。客はけっこう多く、レジで「寂しくなるね」など声をかけていくヒトもいた。中央の棚の左側、文芸評論や文学史関係を置いているあたりが、ぼくのお気に入りだった。前から気になっている、山名文夫装幀の『探偵小説年鑑』(岩谷書店)4500円も残っていたが、ウチもいまは本が増やせる状況じゃないので見送る。その代わり、海野弘『世紀末のスタイル』(美術公論社)と、外の均一で伊藤理佐『モモちん』全3巻(講談社)を買う。後者は〈立石書店〉の古本市に出そう。レジのお姉さんに一言云おうと思ったが、気の利いたことばは思い浮かばず、「どうも……」というだけにとどめる。


その先の〈大河堂書店〉を覗き、すずらん通りに出て中華料理屋で昼飯。ザーサイラーメンとギョーザ。〈遠藤書店〉本店の外台だけ見る。小田急線で新宿へ。ルミネ2の〈ブックファースト〉へ。駅からいちばん近い大型書店なので、ときどき来るが、どうも肌が合わない。今日も買わず。総武線飯田橋へ。神楽坂を登っていくと、喫茶店パウワウ〉の前後の店の前に「閉店」の張り紙が。まったく同じ文面、レイアウトなのが不気味。あとで聞くと、一人の地主の持ち物でいっしょに手放したのだそう。東京理科大が買い、ココに高層の施設を建てようとしているらしい。実現したら、この坂の風景は異様なものになるだろう。その前に〈パウワウ〉がなくなるコトがイヤだ。


〈ムギマル・ツー〉(http://www.mugimaru2.com/)に寄ると、この店の看板絵などを描かれている植田幸平さんの展覧会をやっていた。油絵とは思えず、一瞬コラージュと思える。それぐらい、描かれているモノのひとつひとつのフォルムが際立っていた。ご本人もいらした。今度、茅場町の〈森岡書店〉(http://www.moriokashoten.com/)で個展をされるそうだ。ムギマルの早苗さんに、海野弘展のチラシを渡す。早苗さんは12月29日(金)に友部正人さんのライブをやると張り切っている。「でも、お客さんが入りきるんですか?」と訊くと、「2階と1階に客がいて、友部さんは階段を登ったり降りたりして歌うのよ」と答える。冗談かと思ったらマジで、見えないときのためにプロジェクターまで用意するらしい。なんだかすごいライブになりそうだ。


出版クラブの2階で、『週刊読書人』の対談。編集のAさんが先に来ている。お相手は津野海太郎さん。しばらく待つが、いつまで経っても津野さんが現われないので、Aさんがあせりだす。ぼくは『本コ』時代から津野さんの遅刻には慣れっこなので笑っていたが、1時間近くたっても来ない。4時前にやっと到着。なんと、入り口の表示が間違って1時間遅くなっていたのだ。それで外で時間をつぶしていたのだとか。すぐに対談開始。テーマは新書で、こちらは用意したネタを話すので精一杯。終始、津野さんにリードしてもらった。考えてみると、ミニコミ以外ではこれが雑誌に載る初めての対談だ。


終ってから、津野さんと近くにある平野甲賀さんの家にちょっとお邪魔し、そのあと二人で飲みに行く。『本コ』の頃にときどき行っていた、鳥料理の店。津野さんはカキフライがうまいともう一皿追加する。こないだの浦和でのハナシの続きで、ぼくのことを心配してくれている。それがたんなる説教でなくて、具体的な企画(こういう方向に行ったらどうか)に結びついて出てくるところが、さすが全身編集者。最後に冗談みたいに出てきた案がおもしろくて、すぐにでもやりたくなる。ノセるのがウマイひとだよなあ。気がついたら、津野さんに付き合ってぼくもふだんは飲まない燗酒をぐいぐい飲んでいた。お銚子で10本以上は二人で飲んだだろう。4時間ぐらい飲んで、勘定するときに店の人が「お二人とも強いんですねえ」と呆れていた。津野さんは平気そうだったが、ぼくはかなり回っており、吐き気をこらえながら電車でウチに帰った。いろいろと思うところあり、な一日でした。


では最後に、今夜も「路上派少年遊書日記――1981年・出雲」を。

1981年2月18日(水)
★坂本(もげ)君が『みゆき』は最高だったと言ってくる。やはり、僕の自己満足だけではなかったようだ。学校でも見たくてしかたがない。
とにかく最高の作品だ。今までに五、六回はくり返して読んだ。
夜、雑誌に載っていた『みゆき』の絵を見て、画用紙に描く。我ながら上出来。


★今日読んだ本
ディオゲネスは午前三時に笑う』
プラトンは赤いガウンがお好き』【小峰元】
どちらも面白かったが、僕としては後作の方が明るくて好きだ。*1
推理というより青春小説として読んでもおもしろいだろう。


2月19日(木)
★昨日の『みゆき』の絵を持っていくと、「うまい」「かわいい」と大反響。
やはり出来がよかったようだ。どこかにはっておこう。
今日『みゆき 1』を槙原(ツンコ)に貸した。


★『Sage』のバックナンバー1号が送ってきてあった。これで『Sage』1〜4号がそろった。*2


なんと、中1で「萌え絵」を描いていたとは! 現物がこの世から消えてしまってよかった……。それにしても、あだち充の女の子の絵を天真爛漫に模写し、それを教室で見せて回るとは、いかにも「おたく」概念が普及する前の出来事だよなあ、という気がする。

*1:後年読み返すと、明らかに『ディオゲネス』の方が傑作だ。

*2:『サージュ』は新刊情報中心の読書雑誌。1980年創刊。どっかの協会が出していたような気がする。中学生が見ても、かなりいい加減な編集の雑誌で、リニューアルするたびにひどくなっていった。このあとの日記でも誌面への憤懣が多し。森雅裕推理小説常習犯』はこの雑誌に連載されたもの。単行本には同誌への悪口(原稿料の未払いも含めて)が書き連ねてあり、笑った。【これは間違い。『オーパス』に連載されたものでした。12月9日訂正】