映画も根津神社もお祭だ

昨夜は暑いような寒いようなカンジで寝にくかった。そこで、尾崎一雄『ぼうふら横丁』(池田書店、1953)を引っ張り出してきて、読む。先日、9月の「趣味の古書展」の目録を見ていたら、A書店がこの作品の草稿(ペン書四百字詰四十六枚完)を50万円で出していた。一方、昨日届いた『日本古書通信』の目録には、M書店が「第二部(一)〜(四)まで完」(ペン書四百字詰六十二枚完)を68万で出している。この作品は、尾崎が昭和12年から下曽我の実家に戻る19年まで丸7年住んでいた、下谷区上野桜木町20番地の「ぼうふら横丁」での生活を描いたもの。だいぶ前に買っていたが、読むのは初めて。だいたいの地理の見当がつくこともあって、面白く読んだ。この作品は第五部まであるのだが、草稿は各部ごとに分けられて市場に出たのだろうか? 第三部から五部までの草稿のゆくえが気になるトコロだ。ちなみに、神奈川近代文学館の『尾崎一雄文庫目録』を見ると、同文庫に所蔵されている原稿は昭和30年代以降が中心で、戦前のモノはほとんど入っていない。コレにはちょっとビックリした。


そういうワケで、やや寝不足気味ながら8時半起き。雑炊で朝飯。ちょっと雑用してから出かける。神保町に出て、東京古書会館で紙魚展。通常の古書展に来るのは、ホントに久しぶりだ。嚢中1850円しかなく、この額に達したら打ち止めといい聞かせて、回り始める。スグに大西信行正岡容 このふしぎな人』(文藝春秋)1500円を見つけ、あと350円の本しか買えなくなる。そうなると心安らかに、「ああ、この本は500円だからダメだ」などとアキラメがつく。そうやって何冊かスルーしたあとで、八木義徳『間違えた誕生日』(花曜社)函ナシ500円、上林暁『草餅』(筑摩書房)1000円を見つける。どちらも欲しかったエッセイ集で、値段も安い。たちまち、心がざわめき、金を下ろしに行くことに決めて、さっき棚に戻した本を集めて回る。岩野喜久代『大正・三輪浄閑寺』(青蛙房)500円、石田郁夫『はみだした殺人者 当世犯罪巷談』(三一書房)500円、中河与一『文藝不断帖』(人文書院、昭和11)800円。帳場に本を預けて、会館の隣の郵便局で金を下ろし、すぐに戻って精算。本を入れたビニール袋がずっしり重い。なんだか久しぶりに「古書展で買った」という実感がある。


書肆アクセス〉で右文書院の青柳さんからチラシの追加を受け取る。先日触れた『新菜箸本撰』創刊号、第2号が入荷していたのでそれと、「神楽坂と本」を特集する『神楽坂まちの手帖』第14号、能馬義弘『福岡博多映画百年』(今村書店サンクリエイト)を購入。『福岡博多映画百年』は11月に福岡に行くので、その予習なり。


半蔵門線三越前に出て、銀座線に乗り換え、京橋へ。銀座方向に戻り、〈三州屋〉に入る。といっても、いつもの並木通りの店ではなく、銀座一丁目に近いほうの店だ。並木通り店に比べてこぢんまりとしており、カウンターもない。あと、ココは鳥豆腐が付く定食がなくすべて味噌汁だ。フライ定食を頼み、定食の御新香をつまみにビールを飲む。ああ、イイ心持ちだ。鮭、ホタテ、エビのフライも、赤だしの味噌汁もウマかった。京橋に戻り、〈INAXギャラリー〉で「タワー 内藤多仲と三塔物語」を見る。東京タワー、名古屋タワー、通天閣(二代目)の構造設計を行なった人物にスポットを当てた展覧会。通天閣の関係者からのメッセージに、「ちょっと前にできた名古屋タワーに負けたくないので、内藤先生に頼んで一階増やしてもらった」とあるのが、大阪っぽくて笑えた。あと、図録では読み飛ばしていたが、内藤は千住火力発電所(大正14)の構造設計も行なっていたのだ。四本の煙突が見る角度によって、本数が変わって見えることから「おばけ煙突」と呼ばれたもの。コレをモデルにつげ義春が「おばけ煙突」という漫画を描いている。


フィルムセンターで、「日活アクション映画の世界」。今日は西河克己監督《有難や節 あヽ有難や有難や》(1961)。67分しかないので、ハナシの進みが速い速い。それで充分、本筋と脇筋とくすぐりを入れているのだから、西河克己の手腕はたいしたものだ。浜口庫之助(音楽と脚本も担当)が昭和天皇を思わせる姿で、なぜかトラクターに乗って登場する唐突さがスゴイ。やくざの下っ端が高品格かまやつひろしで、高品がキャバレーで踊っているシーンに失笑。ラストは豊川稲荷の祭りで、守屋浩「有難や節」に合わせて数百人が踊り狂う一大モブシーン。この時期の日本映画って、ハデだったんだよなあ。〈八重洲ブックセンター〉で、田口久美子『書店繁盛記』(ポプラ社)を買ってウチに帰る。


夕方、旬公と喫茶店に行こうと出かけるも、千駄木から根津方面は、根津神社のお祭で人出がすごく、〈ブーザンゴ〉も〈結構人ミルクホール〉も満員。やむなく帰ってくる。不忍通りを一本入ると、あちこちの家のガレージや集会所で、飲み会が始まっていた。さっきの「有難や節」を思い出す。この騒ぎは明日も続くだろう。


筑摩書房から、塩山芳明『出版業界最底辺日記』(ちくま文庫)の第二刷が届く。訂正は最小限にとどめてある。ちょっとタイミングがずれた感じですが、品切れで文句を云っていた書店さん、ご注文をお願いします。


ブックオカ」のけやき通り一箱古本市が、店主の募集を開始(http://www.bookuoka.com/form/hitohako.html)。募集数は100箱。申し込みフォームがあったので、早速申し込む。今回は「古書モクロー」だ。このフォームは必要事項を順に書き込んでいけばイイのだが、「出品予定書籍」を10冊書き込むことになっていて、それが必須項目(書かないと送信できない)なのは、ちょいと面倒。出品したいと思った時点で、具体的な書名まで、しかも10冊分も考えているヒトがどれぐらいいるだろうか? いまからでもココは任意記入にするほうが、応募しやすいと思うんだけどなあ。