嬉しかったこと、ふたつ

8時半起き。注書きの最後の一カ月、昼飯をはさんで、2時ごろまで。ようやく一区切り付いた。数えてみると、全部で254本書いたことになる。文字量は原稿用紙で150枚以上。ゲストの注釈者の分を合わせると、合計299本。せっかくだから、あと1本足して300本にしよう。注を入れたいと自分で云い出したとはいえ、なんだかスゴイ濃度になってしまった。とりあえずヤマを越えたので、嬉しい。


自転車で出かける。〈古書ほうろう〉に『ふるほにすと』を置き、〈オヨヨ書林〉で三五さんにお願いしておいたモノを受け取る。先日のコミケで『漫画の手帖』のバックナンバーを買ってきてもらったのだ。最新の第五十一号も出ていた。三五さんはほかに、古本屋が舞台の四コママンガ『魚住書房営業中』と、『古本屋ガイドブック』の中央・台東・荒川区編と江東・江戸川区編を買ってきてくれた。『古本屋ガイドブック』は、「はいさいと」というサークルが発行しているもので、その地域の古書店をぜんぶ歩き、住所、電話番号、定休日、所在地、アクセス、店内図などのデータを掲載している。とくにスゴイのが店内図で、店内の見取り図がありどの棚にどういうジャンルの本があるかが判るようになっている。まるで『間取りの手帖』みたいだ。コメントは「文庫が中心」「一般書が中心」など、これ以上ないほどに簡潔。フツーなら、ココがいちばん多いはずなのに。古本屋地図としては完璧といってもイイぐらいの出来だけど、発行者のモチベーションがよく判らないというフシギな古本ミニコミだった。


暑くなってきたが、上野まで足を伸ばし、〈TSUTAYA〉でビデオを借りる。そのあと、上野駅のアトレの〈明正堂書店〉で、武富健治鈴木先生』第1巻(双葉社)を買う。先日〈よるのひるね〉で会った大西祥平さんが解説とオビを書いたというので探していたが、谷根千近辺の書店で見つからなかったもの。ウチに帰ってさっそく読む。劇画調の絵に一瞬引くが、たしかにオモシロイ。中学校の先生が、人情とか熱意とかではなく、あくまでも「論理」によって問題を解決していく。かといって、それが非人間的なものを押し通すためのものではなく、あくまでも人間同士が互いを認め合うためのものとして出てくるところが、大西巨人の『神聖喜劇』っぽい、かな。


5時半に出て、西荻窪へ。〈音羽館〉に行くと、石黒敬七『蚤の市』(岡倉書房、昭和11)が面出しにされているのに目が留まる。手にとって、4000円かあ、このヒトの本にしては安いかな、装丁は藤田嗣治だしな、でもいまは高い本は買わないようにしてるし……などと悩む。めくっていると、「巴里で会った日本の名士」という文章の中に、「蒙古王のシャレ」という項があった。蒙古王は、佐々木照山といい、台湾総督府に在職、のちに政治家になった人物である。妻は満蒙独立運動を行なった川島浪速(あの川島芳子の養父)の妹。宮武外骨とも交流が深かった(裏田稔「外骨関係人物列伝」、『雑誌集成 宮武外骨此中にあり』第二十六巻、ゆまに書房)。その蒙古王がパリで石黒敬七と会っているとは、興味深い。ちなみにぼくは、石黒の戦前本を、『巴里雀』(雄風館書房、1936)、『旦那』(雄風館、1937)、『巻物』(六芸社、1940)、『風流記』(六芸社、1940)と所有している。あと、『写真の父ダゲール 東西写真発明奇譚』(河出書房、1937)というのも持っていたが、売ってしまったような気がする。国会図書館のデータベースでは、戦前にもう一冊、『敬七ところところ』(十一組出版社、1942)が出ているようだ。なお、同館DBでは『巴里雀』の発行元が「鵜殿竜雄」となっているが、手持ちの第二版では雄風館書房である。初版は個人名だったのか?


女子大通りの中華料理屋でエビ玉定食を食べて、〈アケタの店〉へ。今日は薄花葉っぱのライブだ。『ぐるり』の五十嵐さん、荻原魚雷さんも来ている。Nakabanさんもいらした。そういえば、オフノート好きだって前に聞いてたな。オフノートの神谷さんから新作の、大工哲弘+ちんどん通信社[ジンターランド]をいただく。関島岳郎(tuba)+中尾勘二(sax、ds)のデュオのあと、薄花葉っぱ登場。一曲目は最近ライブでやっている「換気扇」という曲。二曲目が、何度も聴いているが、誰の曲だったか思い出せない。詩も曲も完璧に美しい。あとで渡辺勝の「あなたの船」だと判る。渡辺さんのライブで聴いたときもよかったが、下村よう子の歌で聴く薄花葉っぱバージョンのこの曲はすごくいい。そのあと、自作、カバーをまじえて10曲ほどやった。後半は関島+中尾も加わる。前に聴いたときよりも、メンバー全員が自由にのびのびと演奏している。下村さんのMCも堂々としたもの。2004年7月にこのアケタの店で聴いてから、ちょうど二年目になる。自分が応援してきたバンドが着実に成長しているのを見るのは、とても嬉しい。


終わって、魚雷さんと〈興居島屋〉に寄る。石丸澄子さんから、先日取り置いてもらった『スネモノ』(スネモノ会)創刊号(1960年)を受け取る。少し引いてくれて1万8000円。うーん、今日は高い本を二冊も買ってしまった。中央線と山手線でウチに帰ったら、11時半。『彷書月刊』9月号(特集「西村伊作と大正自由主義」)が届いていた。次号から100円値上げとのコト。やむなしか。串間努さんからは、『まぼろし小学校 ものへん』(ちくま文庫)が届く。巻末の参考文献には、ぼくが編集した『年表で見るモノの歴史事典』上・下(ゆまに書房)が挙げられている。考えてみれば、この本を買いたいと串間さんが会社に電話をかけてきたのが、出会いのキッカケだったのだ。もう一冊の「ことへん」も併せて、『進学レーダー』で紹介する予定。