ラボックじゃ有名

今日はウチで『進学レーダー』の原稿書き。書評は、ル=グウィンゲド戦記』(岩波書店)、北尾トロ高野麻結子編『新世紀書店』(ポット出版)、清原なつの『飛鳥昔語り』(ハヤカワ文庫)を。一週間かけて読んだ『ゲド戦記』を374字で紹介せねばならないとは、あまりにも無体な仕事である。だけど、この仕事がなければ読む機会がなかっただろうコトもたしか。


『新世紀書店』については、『本の雑誌』7月号の「今月の1冊」の評にほぼ同感。トロさんの「ヘイ・オン・ワイ」ルポは力の入ったもの(写真もイイ)だったし、後半の対談も読ませる。これも「今月の1冊」にある通り、大阪屋の鎌垣英人さんの話にはさまざま感ずるところあり(ブックファーストの新宿ルミネ店の立ち上げを一週間でやったハナシなど)。太田出版の森氏もよかった。しかし、ルポと対談にはさまれた、「新世紀書店」というイベントのレポートは、会場に行ったときとほぼ同じ感想しか持てないまとめ方だった。オヨちゃんの文章なんてねえ、ポエムだもん。かろうじて判ったのは、「理想の書店を表現する」という実験性と、ロゴスギャラリーという場所を使うためにかかるお金の両方を満たそうとして、中途半端に終わったのだな、ということ。アイデアの断片が、断片ならではの面白さとして提示されず、妙に押し付けがましい書店が並んでいるという印象を受けたのはそのためか。「ブックピックオーケストラ」なんて、このときはゼンゼンおもしろいと思わなかったもんなあ。


旬公から電話が入り、書きかけの原稿を残して、雨の中を飯田橋へ。神楽坂の〈ムギマル・カフェ〉で落ち合う。店の早苗さんに、茅場町にできた古本屋〈森岡書店〉のカードをもらう。チェコの本など洋書が多いらしい(中央区日本橋茅場町2-17-13 第二井上ビル305 tel 03-3249-3456)。


神楽坂と大久保通りの交差点で、旬公がテキサスに行ったとき世話になったH君の家族(パパ、ママ、エミリー、H君)と会い、焼肉屋へ。「マイ・ネーム・イズ・オッター(カワウソ)」と挨拶すると、全員バカ受けする。旬公が向こうに滞在していたとき、「夫はカワウソに似てる」とさんざん喧伝したおかげだ。パパには「キミのことはラボックじゃ有名だよ」って云われるし……。英語での会話は苦手だが、聞き取りやすく話してくれるし(エミリーは「ジャパニーズ・イングリッシュの真似」といって、和製英語じゃない普通の英単語まで日本風に発音していた)、H君が通訳してくれるしで、ストレスは感じなかった。パパのアメリカン・ジョークは長い上に意味がワカランので、どう反応すればイイか困ったが……。「ぜひテキサスにくるように」と云われる。9時前にお開きになり、仕事がヤバイのでタクシーで帰る。12時までかかって、2本書き終える。


ゲイ・ライターの影坂狩人さん(http://karuto.blog8.fc2.com/)から、『HGの呪い Gay YearBook 2005』が送られてくる。添付の送り状によると、「昨年一年間に起こったゲイ関連の出来事を、当事者だから知りうる内部情報をからめて料理し、業界でも異端者たる私ならではの隠し味を効かせることにより、ゲイに関心はあるが堅苦しい文章は苦手な層を取り込む」のが企画意図だとある。残念ながら、商業出版はかなわず、自費出版というカタチとなったそうだ。ぼくにとっては、一年間にゲイ関連のニュースがこれだけたくさん(B5判・約180ページ)もあったというコト自体がオモシロイ。なお、本書は「営業ツールとしてのパイロット版」だとあり、そのためか、定価が表示されてないが、売らないとダメっすよ、カルトさん。自費出版ミニコミとして売れないものが、商業出版の企画にのるワケありません。むしろ、自費出版でコレだけ売れた、こう評価されたという事実が商業出版の可能性を高めてくれるのです。最近の例に、濱田研吾『脇役本』がミニコミ版のあと右文書院から出た例もあります。出版社への無用な遠慮は避けるべし(版元が出したい内容だったら、すでに発表されていようが関係ありません)。