暗い日曜日(リプライズ)

今日はなんとしても午後までに『T』誌の原稿を上げてしまわねばならない。しかし、昨日に引き続き取っ掛かりがなく、午前中はむなしく過ぎる。


日本古書通信社より、大屋幸世『日本近代文学書誌書目抄』を送っていただく。『蒐書日誌』全4巻(皓星社)の著者。今年春に鶴見大学教授を退任する記念として、これまで編んできた細目をまとめたという。東京毎日「毎日文壇」「毎日文藝」抄、『読書人』、『三十日』、『風雪』、『個性』、『雑談』などの雑誌細目が収録されている。個人的に嬉しいのは、田宮虎彦が発行者だった『文明』の細目。これを見ると、花森安治が表紙を書いたのがどの号なのかすぐに判る。手元に置いて、活用したい。


噂の東京マガジン》を観てからまた仕事に戻るが、どうにも(以下同文)。無為のまま日曜日が終わりそうな予感に駆られ、先に『進学レーダー』の書評を書いてしまう。こっちはスラスラ書けるんだよなあ。そういえば、今回は編集部から藤原正彦『国家の風格』(新潮新書)を取り上げてくれと依頼されたのだが、じつに呆れた代物だった。保守系の論者でも筋が通っていれば紹介したいのだが、この著者の云っていることは狭い見聞に基づいた印象論、中途半端な歴史認識、自分勝手な文化比較でしかない。この本を中高生やその親に読ませると世を誤らせるのでは、とガラにもない良心が発動して、代わりにアゴタ・クリストフ『文盲』(白水社)に変えさせてもらう。『悪童日記』の作者の自伝だ。ハンガリーから亡命した著者は、「そして何よりも、あの日、一九五六年の十一月末のあの日、わたしはひとつの国民(ネーション)への帰属を永久に喪ったのである」と書いている。自分に意思にかかわらず、国家や国語を取り上げられた人々がいた(いまでもいる)コトをわかった上で、「国家の風格」がどうとかというゴタクを述べてるんだろうかと思う。


夕方、旬公と出かけて、夕焼けだんだん下にできたカフェに入る。そのあと、一人で向かいの居酒屋に入ってビールを飲む。酒、つまみとも380円均一の店だが、客は暗そうな若者グループだけ。韓国人の女性二人に注文を伝えるも、なかなか判ってもらえず。総じてダウナーなカンジの店である。なんとなく気落ちして店を出たら、自転車のカギがない。その辺に落としたのかと探していたら、店の女性が出てきて、「はい、これ」と渡してくれる。テーブルの上にあったそうだ。小さな親切に少し気分が明るく。


ウチに帰って、原稿に取り掛かるも、やはり(以下同文)。とっとと撤退して、布団を敷いて本を読む。有明夏夫の『FL無宿の反逆』(講談社)。これまで何度読み返しただろうか。やさぐれた気分のときに読むと、最高だ。そして、ああ、今日も無為のまま夜は更けゆく。