車窓の向こうに知った顔

朝8時起き。某紙の書評を一本書く。ずっと前に約束していた原稿なのだが、なかなかうまく書けなかった。ある人物の評伝なので、短い字数に、その人物の紹介と評伝としての評価が盛り込みにくかったのだが、どうやらまとまった。一休みして、11時半に家を出る。


東京駅から東海道線で横浜、根岸線桜木町へ。野毛にある古くさいショッピングビル〈ぴおシティ〉で昼飯でも食うかと、地下に行くと、まだ昼前なのに立ち飲み屋がやってて客が鈴なり。さすが競馬場のある街だ。思わず、ふらふらと入りたくなるが、これから取材なので、〈横浜飯店〉でパイコー飯を食べる。この店でも、予想紙片手にビール飲んでいる客多し。


地上に出て、馬車道方向に歩く。5分ほどで駅に馬車道到着。『T』のYさんと待ち合わせて、駅出口の真後ろにある〈北仲WHITE〉というビルへ。今年秋に取り壊しが決まっている古いビルだが、ここにアートや建築関係のプロジェクトがいくつも入居している。このなかに、「ブックピックオーケストラ」が主宰するブックルーム〈エンカウンター〉(http://www.super-jp.com/bookpick/encounter/)がある。前から来ようと思っていたのだが、アートっぽいのは苦手なので、ちょっと敬遠していた。でも、ココはいいですよー。詳しくは記事で書くので略すけど、本にあまり詳しくないヒトでも楽しく、詳しいヒトにはもっとディープに楽しめる場所でした。すっかりくつろいでしまって1時間以上お邪魔してしまった。カウンターにはスタッフの小林水(ミナ)さんという女性がいらしたのだが、あとでウチに帰って「一箱古本市」の店主リストを見ていたらお名前があった。なんだ、声掛けてくれればヨカッタのにぃ〜。なにしろ100人もの店主がいるので、名前はいちいち覚えてないのです、すいません。そのあと、山下公園レストハウスでの期間限定の展示も見るが、ちょうど芝居が始まる時間だったので駆け足に。


日本大通駅から東横線直通に乗り、渋谷。山手線に乗り換えて大塚。ココで都電荒川線に乗り込む。これから会うヒトがこの沿線に住んでいるのだ。たまたま昨日、《アド街ック天国》で荒川線特集を見たので、いつもより熱心に車窓からの風景を眺める。梶原駅あたりで、反対側のホームに入ってきた電車を見ていたら、後ろの方で、こっちに向って手を振っている男女がいる。えらくハシャいでるなあ、子どもにしてはちょっとフケてるけど……見て、一瞬後にハッと気づく。おお、田端ヒロアキくんと大沼ショージさんのコンビじゃないか! 向こうはすぐにぼくに気づいてくれたらしい。ちょっとジェスチャーを試みるが、なんにも伝わらないうちに、向こうが発車した。手を振って別れる。車内が混んでなければ、携帯で会話でもしてみたいところ。ちょっとオモシロイ体験だった。


荒川遊園地駅で降り、駅前の〈モスバーガー〉で、「ブックピックオーケストラ」の内沼晋太郎さんにハナシを聞く。1980年生まれの25歳。引越し記念のホームパーティー(って単語をフツーに発しているのも驚きだが)の最中を抜け出してきてもらった。驚くこと、いろいろ。店の前で、内沼さん、Yさんと別れ、荒川線に沿って歩く。次は小台駅。ぼくはこの地名をずっと知らずにおり、上野発の早稲田行きバスが動坂下に差し掛かるあたりでいつも、「オダイ方面は乗り換えです」とアナウンスされるのに、漢字が当てはめられなくて困っていた。もちろん、来るのは初めて。その小台から東京駅行きのバスが出ているので、それに乗ろうかと思ったが、停留所を確認すると、田端まで意外に近い。それじゃあ歩いてみようと、大通り沿いに歩き出す。


15分ほど歩くと、右側に「古本」の看板が見えてくる。おお、こんなトコロに! 〈正昇堂〉という店で、存在すら初めて知った。店の外には壁面に均一棚があり、これがかなり充実している。『ザ・ヒーローズ 宝島ロング・インタヴュー集』(JICC出版局)、小泉喜美子『男は夢の中で死ね』(光文社文庫)が各100円。中もイイ。古いもの新しいもの、日本物海外物がゴチャゴチャに並べられているのだが、ココにはいいのがあるぞ、というシグナルみたいなものが伝わってくる。どの本も安い。奥の方で、秦豊吉『藝人』(鱒書房、1953)1000円、を発見。有名俳優・女優からストリッパー、「オッパイ小僧」まで80人の芸人のエピソード集。


満足して店を出ると、ちょっと行ったところが、もう馴染み深い商店街だった。この突き当たりにある〈鳥千〉へ。焼き鳥もモツ焼きもうまい店なのだが、汚い外観が敬遠されるのか、客が入っているのを見たコトがない。今日もおばさんがヒマそうにテレビを見ていた。かなり歩いたので、さすがにノドが乾き、ビールがウマイ。そこから西日暮里まで歩いて帰る。さて、明日の午前中までにもう一本、書評を書かなくちゃ。