横浜から下北沢へ

8時半起き。9時に出て、東海道線で横浜、みなとみらい線馬車道へ。車中、嵩元友子『銀座並木座 日本映画と歩んだ四十五年』(鳥影社)を読了。映画プロデューサー藤本眞澄の肝煎りで1953年に開館し、1998年に閉館した名画座の歴史をたどる。支配人や株主だった小林桂樹、もぎりのスタッフへのインタビューも含め、丹念に取材している。プログラム「NAMIKI-ZA Weekly」の内容紹介や、全上映作品リストも役に立つ。「名作日本映画の学校」という〈並木座〉のイメージとは程遠いエピソードも。三代目支配人の小泉作一は、土方鉄人監督・飯島洋一主演の《戦争の犬たち》(1977)に、マイホームの購入資金だった2千数百万円を出資している。また、1970年代後半から80年代前半にかけては、実録ヤクザ映画とにっかつロマンポルノを多く掛けている。


ただ、これだけの歴史を持つ映画館についての本にしては、ちょっと薄味で、もっとたっぷり読みたいという気がした。たとえば閉館までの10年間がわずか2、3ページで片付けられてしまうのは、この頃になってやっと〈並木座〉に通うことのできたぼくなんかには、納得いかない。あと、全編にあふるる名画座や日本映画へのセンチメンタルな感傷にも辟易した。そんなに強調しなくても……という気がした。


10時すぎに、日本郵船歴史博物館へ。学芸員の方に面会。そのあと、展示を見る。戦前の船内メニューが、船の形につくられていて驚く。ミュージアムショップでは、オリジナルの旅行タグと一筆箋を購入。そこから、赤レンガ倉庫へ。横浜市のアート施設〈BankART 1929〉はこの近くにあると思って行ったのだが、見つからず(あとで見たら、馬車道駅の近くだった)。ついでだから散歩だと、中華街まで歩き、〈秀味園〉で魯肉飯(500円)を食べる。相変わらず素朴な味でウマイけど、ちょっと量が減ったような気も。店にいた3歳ぐらいの娘が、お母さんに中国語と日本語で話しかけていた。隣の食材屋でビーフンを買い、中華街駅から電車に乗る。


渋谷で井の頭線に乗り換え、下北沢へ。南口の〈幻游社〉で、『別冊暮しの設計2 珈琲・紅茶の研究』を見つける。つまんなそうな表紙だが、ナカを開くと図版が多く、銀座にあった「ラスキン文庫」という喫茶店に関する文章など、興味深い記事が多い。300円は安い。中山久民『多量な音の時代』(音楽之友社)200円。著者は『新宿プレイマップ』に在籍したことがあるようだ。未所持だった海野弘『日本のアール・ヌーヴォー』(青土社)も1000円と安かったので買う。踏切を渡り、北口の方へ。〈白樺書院〉を覗く。その向いにイイ感じのおでん屋を発見。


スズナリ〉の近くまで来ると、「古本」の看板が目に入った。この辺に古本屋ができたと、しばらく前に誰かから聞いていた。〈古書ビビビ〉という店で、音楽、タレント、映画、マンガ、雑誌などが中心。どのジャンルもけっこうオモシロイものを選んでいる。「ワニの豆本」がかなり揃っていたりと、好きな客にはたまらないだろう。今日は買わなかったが、次はナニか買えそうな気がする。〈シネマアートン下北沢〉の隣というのもイイね。そのアートンで、「初笑いだよ!お正月映画大集合!」という特集をやっている。今日観るのは、川島雄三監督の《縞の背広の親分衆》(1961)。潰れかけたヤクザ一家が、道路工事で取り壊されようとする「お狸様」の祠を守って……というハナシ。南米帰りのヤクザを森繁久彌が、ヤクザで坊主をフランキー堺が演じる。森繁がいきなりデパートのクレーム係りになったりする唐突な展開が最高にオモシロイ。徹頭徹尾ナンセンスで、最後までふざけ倒している。初見だと思っていたら、ラストシーンまで来て、一度観ているコトに気づいた。いつドコで観たんだろう?


千代田線経由でウチに帰る。国書刊行会から斎藤昌三『少雨荘書物随筆』が届く。山口昌男監修「知の自由人叢書」の2回配本。定価は1万2000円だが、知り合いがいるので少し割り引きしてもらった。桂牧さんからは2枚目のソロ[BGS]が届く。また、〈青猫書房〉からは、『仁丹物語 生薬の「仁丹」生誕100年記念』(非売品)1500円が。なんとも節操のない取り合わせだ。図書館に行き、帰りに〈ときわ食堂〉でチューハイ。生協で買い物して帰ってくる。


世田谷文学館〉で開催される「花森安治と「暮しの手帖」展」(http://www.setabun.or.jp/kurashinotecho.htm)のオープニング招待状が届く。ぼくも、暮しの手帖社の宮岸さんに頼まれ、手持ちの花森装丁本を提供した。図録には、装幀本の一覧も載っているハズだ。これまでにない規模の展示になると思われるので、ぜひ行ってみてください。宮岸さんや松浦弥太郎氏のトークもあるようだ。

花森安治と「暮しの手帖」展
2006年2月4日[土]−4月9日[日]
世田谷文学館

本展では、花森安治の表紙原画・カット作品はもちろん、世田谷の作家たちとの交友も交えて、戦後の文化、ライフスタイルに大きな影響を与えた「暮しの手帖」と、編集長・花森安治のエディトリアル・スピリッツを探ります。