掘りごたつから離れられない
8時半起き。午前中は、出雲大社の近くにある島根ワイナリーへ。出雲そばを買い、数箇所に発送。そのあと、弟も行きたいというので、〈ブックオフ〉出雲渡橋店へ。子どもたちが児童書コーナーで立ち読みしててくれたので、ゆっくり見て回れる。高橋丁未子『羊のレストラン 村上春樹の食卓』(CBSソニー出版)、『続キダタローのズバリ内証ばなし』(ナンバー出版)、亀和田武『愛を叫んだ獣』(白夜書房)が各105円と、ワリといいものが見つかる。『愛を叫んだ獣』は甲斐バンドの追っかけ本。こんな本、出してたのか。正月フェアということでくじを引かされ、メモパッドをもらう。そのあと2ヶ所で買い物して、帰ってくる。
昼飯は、卵かけご飯。県内にある吉田村で、卵かけご飯にあう醤油というのが売り出され、村で「卵かけサミット」とかいう催しをやったりして、けっこう人気らしい。品切れ続出というその醤油で卵かけご飯をしてみたのだが、さあ? ごくフツーの味の醤油でした。
掘りごたつに寝っ転がって、『考える人』を読む。お目当ては、特集「一九六二年に帰る」。津野海太郎「時代の空気 ロゲルギストと花森安治」。ロゲルギストってなんだ? と思ったら、東大物理学研究室系の7人の学者が共同で使ったペンネームで、『物理学の散歩道』というシリーズを10冊出したのだという。木下是雄さんもその一人。恥ずかしながら、知らなかった。津野さんは、論理的な日本語で科学を語ることをめざしたロゲルギストの活動と、『暮しの手帖』が似ている、という。しかも、その相似はお互いの関心から来るものではない。「この人びととのあいだに可視的なネットワークは存在していなかった。おなじ時代の空気をバラバラに呼吸していただけ。そこがおもしろい」。ふんふんと頷きながら、次のページをめくると、佐野洋子インタビューに、武蔵野美術大学の同級生として平野甲賀さんが出てくる(ちなみに上村一夫も同級生だったという)。当時の写真も載っている。まったく関係ない記事なのに、おなじ特集の中に、1962年の津野さんと平野さん(二人が出会う前だろう)が同居する。これが雑誌のおもしろさだ。
夕方、伊多波英夫『安成貞雄を祖先とす ドキュメント・安成家の兄妹』(無明舎出版)を読了。470ページもあるカタそうな内容なので、時間がかかるかと思っていたが、とても面白い本だった。安成貞雄は数々の雑誌・新聞に関わり、社会主義者と交流した評論家。弟の安成二郎は、怠け者ですぐ仕事を投げ出し、ヨタ話でヒトを煙にまいた兄を、いつもフォローしながら、自らも歌人・作家としても活動した。ほかに、資生堂に入った安成三郎と妹、弟がいる。彼らが出会ったヒトたちが、また奇抜で一筋縄ではいかない連中ばかり(人名索引がないのが惜しい)。いろいろ紹介したいエピソードは多いが、ひとつだけ。大正元年に貞雄が「やまと新聞」に勤めていた頃のハナシ。
(貞雄は)たいして働きもせず、毎日南鍋町の売文社近くにあるカフェー・パウリスタに入りびたって本を読んだり、仲間と駄弁って日を送っていた。(略)いつも二階の窓際に陣取って、みずから「ヤスナリ・ウィンドウ」と自嘲していたが、知った顔があらわれると自分の席に引き込み、得意の毒舌をとばして談論風発に及ぶことしばしばであった。
たとえば、〈安成貞雄、荒畑寒村、和気律二郎の徒は、自らスリー・フェーマス・ヨタリスツ・イン・ジャパンと称し、カフェー・パウリスタを本城として、毎度盛んにヨタを飛ばしている由、其のヨタ的談論を称してヨタ・トークというとかや(略)実に大正の聖代に於ける逸民と謂うべきである〉」
この〈〉内は、貞雄の友人だった堺利彦の言。「ヨタ・トーク」には噴き出した。本書は、秋田在住の著者が、地元出身の安成兄妹の事跡を40年近くにわたって追った成果だが、文章はとてもうまく、諧謔の味もある。安成貞雄が吹き込んだというSPレコードを、二郎から「君に上げるから大事に」ともらったのに、帰りしな割ってしまい、「せめて一回でも聴いてからなら諦めもつくが、それもしてない」と悔やむあたり、気の毒だが、ちょっと笑ってしまった。そういう具合に、探索の過程をところどころで明かしてくれているのもヨカッタ。本書を読み終えると、去年買ったまま読んでない『安成貞雄・その人と仕事』(不二出版)が読みたくなり、さらに、斉藤英子『安成二郎おぼえがき』(新世代の会)を「日本の古本屋」で見つけて、注文してしまった。
夕飯のあと、P社の海野弘エッセイ集のゲラをチェック。集中して2時間ほどで終える。一日中、掘りごたつから出ずに、読んだり書いたり考えたりしている。