甥と姪に付き合わされる大晦日

7時半起き。午前中、『紙つぶて 自作自注最終版』を読み終える。943ページもあったので、3日かかった。この本の眼目は、『完本・紙つぶて』の455篇に、「それぞれ一篇ごとに唱和して、新稿を同じ篇数だけ書き加えた」ところにある。それも旧稿の後日談ではなく、第一の紙つぶてからの連想を「付かず離れずの呼吸」で書いている。旧稿部分は4、5度読んでいるが、今回も感じるところが多く、新稿では新知見が得られるという具合。昭和60年代から約20年かけて書きついでいった根気はすごい。この企画を立てた編集の萬玉邦夫氏は、本の完成を待たずして亡くなった。しかし、どうなのかなあ、これ。初めのうちは、ひとつのコラムのテーマを引き継いで別のコラムを産む名人芸というふうに読んでいったのだが、次第にどうつながっているのかよく判らないものが増えてくる。一度書いたハナシ(たとえば、『定本花袋全集』から文芸時評がカットされていること)が、何箇所にも出てきたりして、正直、読み通すのがつらい面もあった。


昨日に引き続き、書庫の整理を少々。昼飯のあと、相馬健作『文壇太平記』(萬生閣、大正15)を読む。まえがきには「著者はこれを匿名で発表する」とある。国会図書館でも本書以外にヒットせず、相馬健作は仮の名前のようである。さて内容だが、作家が世に出るまでとか、女流作家の履歴とかを収録したもので、「私が」という一人称が出てくるので著者かと思ったら、末尾にその作家の名前が出ているという妙な本。じゃあ聞き書き、探訪記をまとめたものかと思えば、そうでもない。なんなんだ、これは。文章に魅力があるわけでなく、かといって細部に文壇史的な興味を感じるかといえばそれもない。つまらない本であった。附録として「文士住所録」が載っているが、川端康成横光利一が見当たらない。すでにデビューしているはずなのだが、まだ一人前と認められてなかったのか、それともこのリストがずさんなのか。


2時ごろ、旬公と外に散歩に出る。いつも行く医大前の〈味巣亭〉という喫茶店(ジャズのライブもやる)に入ろうとしたら、なんだかコジャレた内装に変わっていた。よく見ると、別の名前のケーキと喫茶になっていた。〈味巣亭〉は隣にビルを建てて、移転していた。今日は休みだったので、新しい喫茶店に入る。若いイケメンのパティシエがオーナーという感じの店で、店内は満席に近い。地元の女子大生4人のアケスケな話(医大生をつかまえるハナシなど)をBGMに、大村彦次郎『時代小説盛衰史』(筑摩書房)を読む。


7時前、岡山から弟の一家が到着。2階にも甥と姪が駆け上がってきて、賑やかになる。晩飯のあとは、姪がつくった紙芝居を見せられる。また、小4の甥は「いま、アガサ・クリスティーを読んでる」そうで、ポプラ社の『オリエント急行殺人事件』を見せてくれる。「おっちゃん、リンドバーグの息子が誘拐された事件は知ってる?」と云うので、「そんなのドコで知った?」と聞いたら、『オリエント〜』にこの事件が仮名で出てくるそうで、リンドバーグの名前は解説で知ったのだという(ちなみに昨日の日記のタイトルが、リンドバーグのセリフのもじりなのは、まったくのグーゼン)。云うコトがいちいちマニアックな奴なのである。自分はこれぐらいの歳に解説まで読んでたかなあ? と疑問に思う。


12時になり、2006年を迎えた。今年もよろしくお願いします。