極私的2005年ベスト12のテーマは「底辺」

出勤日。年内は今日が最終日。行きの電車の中で、1月11日(水)からの「松屋浅草古本まつり」の目録を見る。ここんところ、カネもヒマもなかったので、意識して古書目録から遠ざかっていた。久しぶりに見ると、やっぱり欲しい本がある。仕事場に着いてから、久しぶりに注文のファクスを書く。しかしこの目録はえらく誤植が多いなあ。山手樹一郎が「山本樹一郎」、宮武外骨が「宮本外骨」になっている。校正のときに気づきそうなもんだけど。


ひとつ用事をすませたあと、千代田図書館へ。ある本を探そうと検索していたら、閉架でおもしろそうな本を発見。この館は戦前の本も大半は館外貸し出ししてくれるのがイイ。利用者カードをつくり、相馬健作『文壇太平記』(萬生閣、大正15)と武野藤介『文壇餘白』(健文社、昭和10)を借り出す。二冊とも年末年始に読もう。後者は作家に関するゴシップが大半を占めていて、パラパラめくっただけでも次のような記述が見つかる。

▼永らく奈良に住む志賀直哉、校正なぞのことは萬事、早稲田出の新進作家尾崎一雄にやらせてゐる。「小説」の同人だ。甚だ貧しい。辞書を買ふ金も持たない。そこで、校正の際、不審の字にぶツつかると、バツトの空殻にそれを書き、いちいち、町の古本屋へ出かけて行く。貴族作家の志賀直哉、愛弟子のこの苦心を、知るや否や?

神保町に出て、〈岩波ブックセンター〉で『en-taxi』の新しい号、〈すずらん堂〉で安彦麻理絵『再婚一直線!』(祥伝社)を買い、久しぶりに〈キッチン南海〉でカツカレーを食べる。このどす黒い味が年に一度ぐらい食べたくなる。同じテーブルの前の席に、大学生らしいカップルが座り、ぬるーい会話を交わしている。南海には似合わない連中だよなあと思っていたら、店の姉ちゃんが「カツカレーはどちらですか」とか「呼ぶまでお待ちください」などと言葉遣いこそ丁寧だが客に指図している様子を見て、女のほうがポツリと「誰に向かって話してるのかわからないね……」と一言。小娘、よく云った。


書肆アクセス〉に行き、年末のご挨拶。今年はいつも以上にこの店によく来たなあ。棚に、伊多波英夫『安成貞雄を祖先とす ドキュメント・安成家の兄妹』(無明舎出版)という本を見つける。無明舎から今年夏にこんな本が出ていたとは、知らなかったよ。目次を見ると、中央線文士の名前が多く出てくる。470ページもある本だが、コレは読んでおかねばならぬ。仕事場に戻り、年の瀬に年賀状書き。個人としての年賀状は出せないかもしれない。今日は夕方から、会社の忘年会がある。松坂屋古本市、昨日の結果がメールで届く。4500円。さすがに売れなくなってきたか。今日の最終日の売り上げがどうなるか。


さて、去年に続いて、2005年に読んだ本のベストを書いておきます。ただし、いま思い出せる範囲で書き出したので、当然入れるべきものが抜けているかもしれません。今年のテーマは「底辺」です。去年は「貧しさ」でした。あまり変わってねえか。少なくとも、今年の漢字のように「愛」ではナイことだけはたしか。以下、だいたい刊行月順に並べました。


『子不語の夢 江戸川乱歩小酒井不木往復書簡集』(皓星社
鈴木地蔵『市井作家列伝』(右文書院)
吾妻ひでお失踪日記』(イーストプレス
浅生ハルミン私は猫ストーカー』(洋泉社
いしいひさいち『大阪100円生活 バイトくん通信』(講談社
青木正美『古書肆・弘文荘訪問記 反町茂雄の晩年』(日本古書通信社
礫川全次『サンカと三角寛 消えた漂泊民をめぐる謎』(平凡社新書
山川直人『コーヒーもう一杯』第1巻(エンターブレイン
平岡正明『昭和ジャズ喫茶伝説』(平凡社
『日日の麺麭・風貌 小山清作品集』(講談社文芸文庫
江口寿史の正直日記』(河出書房新社
堀切直人『浅草 戦後篇』(右文書院)


【次点】
安野モヨコ『監督不行届』(祥伝社
小沼丹風光る丘』(未知谷)
大西巨人『縮図・インコ道理教』(太田出版
畸人研究学会『しみったれ家族 平成新貧乏の正体』(ミリオン出版
高橋徹月の輪書林それから』(晶文社


明日から実家に帰省します。向こうはダイヤルアップ接続なので、日記は更新しないかもしれません。メールは見ていますので、連絡は取れます。では皆さん、よいお年を。