新宿で「新宿映画」を観た日

この3、4日、夜帰るのが遅く、朝も早く出かけるので、書きたいコトが溜まっているにもかかわらず、日記を書く余裕がありませんでした。その間に(28日の深夜ごろ?)、当ブログのアクセスが20万件に達していました。アクセスカウンターを設置したのが今年の2月26日なので、9ヶ月で20万件。つまり、一日平均で約740ぐらいのアクセスがあったことになります。一日に数回アクセスしてるヒトもいるようなので、人数にしたら一日500人ぐらいなのでしょうか。それらのヒトたちに感謝しつつ、今後も続けていこうと思っています。なお、今後もコメント欄を設置するつもりはありませんが、ご感想・ご意見のメールやトラックバックは歓迎します。


8時起き、出勤日。朝風呂に入ってから出かける。仕事場でもろもろやってから、11時半に出て、都営新宿線新宿三丁目へ。〈紀伊國屋書店〉までの時間を読み違え、4階の紀伊國屋ホールには12時5分に到着。今日は紀伊國屋が主催する「SHINJUKU FEST 2005」というイベントが、一日中ある。若松孝二監督のDVD-BOXリリースを記念して、新宿に関する映画や、新宿文化人のトークが行なわれるのだ。場内に入ると、大島渚監督《新宿泥棒日記》(1969)がはじまっていた。いままで観る機会がなくて、通しで見るのは初めて。冒頭、紀伊國屋書店の棚のあいだを回遊する横尾忠則。まったくのゲリラ撮影ではないのだろうが、ふつうに客がたくさんいる。偽書店員の横山リエは妙に色っぽい。横尾は万引きを見つかって、横山に社長室に連行される。そこで田辺茂一が登場するが、セリフがモロに棒読み……。そのあとも、渡辺文雄戸浦六宏佐藤慶ら大島組の役者や、唐十郎状況劇場など、1960年代の新宿文化をつくった連中が続々登場。ストーリーはさっぱりワカランが、なんだかやたらと力強くてオモシロかった。性科学の高橋鐡が横尾や横山のカウンセリングをする(勝手にしゃべって、竹久夢二春画を見せるだけだったが)シーンでは、高橋鐡が横尾に「君はキジャクだ」と何度か云っていた。「脆弱」をゼイジャクではなくキジャクと読み間違える知識人を、呉智英があげつらっていたのは1980年代のコトだが、その間違いはもっと前から流通していたのだなあ。


あと、横山リエが深夜の紀伊國屋店内で、手当たり次第に本を抜き出すシーンがある。抜き出された本の文章をナレーションが語り、それが重なっていく。いちいち覚えていないが、バタイユ吉本隆明スターリンなどの本、版元でいえばみすず書房思潮社などの出版物が出ていたと思う。2005年の日本映画で、コレと同じシーンがあったとしたら、そこで抜き出される本は、どんな著者のどの版元が出したものになるのだろうか。それとも、そのシーンに必要とされるのは「本」ではなく、別のモノ(あるいは、イメージ)なのだろうか?


次に、予告では「スニーク上映」となっていた短編映画、《夢のサンフランシスコ》(1969)を上映した。コレは、1969年に紀伊國屋のサンフランシスコ店が開店した際、田辺茂一が柴田練三郎、梶山孝之、安岡章太郎ら作家や立川談志野間省一池島信平戸川昌子秋山庄太郎、吉岡康弘らと銀座のクラブのママらを連れて、「文化講演」を現地でした際の模様などを撮影したもので、上映されるのは今回がはじめてらしい。監督は若松孝ニで、《新宿泥棒日記》で田辺と若松が知り合ったのが、依頼のきっかけだと、ナレーションで田辺が云っている。このナレーションは、田辺と立川談志が映像を見ながら放談するもので、田辺のしゃべりのダルな雰囲気がイイ。上映が終わって、元〈新宿文化〉の支配人で、ATGのプロデューサーだった葛井欣士郎氏の挨拶があった。


そのあと、第2部をやっているあいだに、市ヶ谷へ行き、〈ルノアール〉でカバー、帯の色校を受け取る。神保町に出て、〈田村書店〉の外台で、保高徳蔵『作家と文壇』(講談社)300円を買う。お、献呈署名入りだ。同人誌『文芸首都』を主宰した作家のエッセイ集。青野季吉宇野浩二広津和郎への愛憎入り乱れる人物スケッチ、自分の体験した文壇の厳しさ(ショッパイ面とも云える)を綴った「怖るべき文壇」など、かなりオモシロそう(夜までに読み終えてしまった)。仕事場に戻り、色校を置いて、また新宿へ。


「SHINJUKU FEST 2005」第3部は、若松孝二監督《天使の恍惚》(1972)。テロ集団の内ゲバを描くもの。何を話すにもいちいち「世界革命の路線に沿って思考すべきだ」云々のコトバが飛び交い、正直云ってついていけない面も多いが、破壊に向かって突き進む後半は、山下洋輔トリオの演奏とあいまって、なかなかスリリングではあった。ちなみに、この山下トリオは中村誠一(サックス)、森山威男(ドラム)の第一期で、痩せた森山が「なないろ文庫」さんにちょっと似ているので、笑ってしまった。上映が終わると、渚ようこミニライブがあり、ギターの伴奏で、出口出足立正生)作詞、秋山ミチヲ作曲の映画の主題歌を歌った。


このあと、第4部として、足立正生唐十郎末井昭ほかが出演するライブイベントがあったが、そこまで付き合わず、外に出る。久々に〈ジュンク堂書店〉新宿店に行き、書評で取り上げる本を探す。4冊と『ユリイカ』の野坂昭如特集を買う。買わなかったけど、『「新日本文学」の60年』(七つ森書館)が気になる。『新日本文学』のアンソロジー。編集代表は鎌田慧。4700円なので今日は見送る。この店のマンガコーナーが、以前よりもかなり充実してきているように思った。〈ディスクユニオン〉のジャズ館で、エッセンシャル・エリントン[アイランド・ヴァージン]、渋谷毅・武田和命カルテット[OLD FOLKS](別テイク収録のディスクユニオンのプレミアCD付き)、SALT[86,90,91]を買う。SALTは早川岳晴、石渡明広、藤井信雄によるジャズ・ロック・トリオ。大学に入ったばかりの頃、あるオムニバスでこのトリオを聴き、コーフンした覚えがある。


ウチに帰り、さっそく[アイランド・ヴァージン]を聴く。1枚目はドラムレスだったが、今回は外山明のドラムと、林栄一のアルトが、ゲスト参加。ゲストとはいえ、ライブではいつもこのメンバーだから、息が合っている。1作目も好きだったが、このアルバムでは、より緩急自在になったようで、とてもイイ。今年のベストアルバムになるかも。

アイランド・ヴァージン

アイランド・ヴァージン