銀座、四谷、市ヶ谷、神保町、神田錦町、そしてまた神保町の一日

9時起き。10時半に出て、銀座へ。〈旭屋書店〉に寄ったら、小泉武夫『ぶっかけ飯の快感』(ビジネス社)という本が目に付く。このタイトルはエンテツさんの『ぶっかけめしの悦楽』とものすごーく、よーく似ている。パクリに近いと云ってもいいほどだ。タイトルのバリエーションは限られているとはいえ、もう少し、なんとかアレンジできなかったものか。


ggg〉で「祖父江慎+cozfish展」を見て、コーフンする。祖父江さんのデザインが大胆で斬新なのは誰もが思うことだが、その発想がどこから生まれたのかを後追いするコトができる展示になっているのだ。壁面にはデザインのカンプや色校、天井からは手がけた本がぶらさがっている。ぼくの大好きなとがしやすたか『竹田副部長』(集英社)も置いてあった。下品デザインの金字塔なり。地下への階段にも本が立てられている。地階には、恩田陸『ユージニア』と京極夏彦『どすこい(仮)』の造本を巨大化させたものがあり、壁際には本文組みをやった本の指定書と現物が並ぶ、という具合に、数がたくさんある。デザインの展示はやっぱりバリエーションが多くないと。また、ほとんどすべてが手にとって見られるのがスゴイ。祖父江さんがデザインし、漫画も描き、しりあがり寿が「望月・寿」の名で漫画を描いている多摩美大まんが研究会『漫画雑誌タンマ』(1980年)なんてえのも、あっさり現物が置かれている。男らしい。


いちばん興味深かったのは、祖父江さんが書いた装幀や本文の設計書だ。メチャクチャに好きなことをやっていると思われがちだが、それを可能にするために、コトバでイメージを具体化していっているのだ。デザイナー志望者はこのパートだけでも必見でしょう。モニターでは、柱やノンブルのバリエーションを流している。トイレの前には、ここだけ重々しくガラスケースが置かれ、なかには『うんこ』という本が置いてあった。もう、全力で遊んでいる。この展示は26日(土)までやってるので、ぜひ見てください。なお、近日中にピエ・ブックスからこれらの仕事を総括した『祖父江慎+cozfish』が出るそうだ(8,190円)。会場に間に合わなかったので、束見本だけ置いてあったが、B5判(?)の大きい本だった。出るのが楽しみ。


丸の内線で新宿御苑駅へ。打ち合わせまで時間があるので、近くの四谷図書館に行ってみる。区民センターの7階にあり、けっこう大きな館だ。新聞の書評をコピーし、本を眺める。そのあと、P社でYさんと、海野弘エッセイ集の打ち合わせ。デザイナーはKさんに決まる。これまでの海野本とは大きく違う、大胆な造本になるかもしれない。次の約束まで時間があり、四谷方向にぶらぶら歩く。途中、新宿歴史博物館の表示があったので、久しぶりに寄ってみる。入り口には老婆の団体がたむろしていて、うるさいことこの上なし。誰かこいつらに、公共の場での振舞い方を教えてやってくれ。常設展(前に見たのとほとんど同じだった)を見て、2階の閲覧室に行ってみる。資料はカード目録で請求できる。今日は棚に置いてある、昭和初期の雑誌『新宿』や『大新宿』のコピー本をパラパラ見る。『大新宿』昭和5年10月号に、C記者「四谷図書館」という記事あり。さっき行った館と同じだろうか? 当時は「第二小学校」に同居し、教室が閲覧室になっていたという。一日の利用者は200人。記事では利用法を詳しく説明している。戦前の公共図書館に関する記事として、ちょっと面白いものかも。この雑誌には松崎天民が「新宿印象記」を連載している。受付で、『安藤鶴夫 四谷に住んだ直木賞作家』展の図録(900円)を買い、外に出る。


靖国通りに出て、鼻歌で「自衛隊に入ろう〜」と歌いつつ、防衛庁の横を通って市ヶ谷に出る。〈ルノアール〉で、デザイナーKさんと打ち合わせ。カバーの最終案をもらう。束見本に巻いてみるとイイ感じ。神保町に出て、古書店で資料探し。〈小宮山書店〉で、『街の記憶 1989 KANDA JIMBOCHO』(石橋総合印刷)1000円、J・P・クレスペル『モンパルナス讃歌 1905-1930 エコル・ド・パリの群像』(美術公論社) 1000円、ハンフリー・カーペンター『失われた世代、パリの日々 一九二〇年代の芸術家たち』(平凡社)1500円、を買う。また、金曜日でもないのにナゼかやっていた同店のガレージ古本市で、中桐文子『美酒すこし』(筑摩書房)、『五木寛之の本』(KKベストセラーズ)、奥野健男現代文学風土記』(現代日本文学大系別冊、筑摩書房)を3冊500円で買う。『美酒すこし』は、詩人・中桐雅夫との思い出をつづった本。解説は鮎川信夫。コレはちょっと拾い物だった。


仕事場に行く途中、竹尾の前を通りがかると、2階のギャラリーで某団体の装幀展をやっていたので覗いてみる。一通り見たが、一点として心に響くものはなし。編集者として一緒に仕事をして見たいヒトは皆無だった。むしろ「こうしてはいけない」という悪い例に使えそうな装幀のほうが多かったような気が……。仕事場に寄って、連絡数件。「『ブックカフェものがたり』公式ブログ」(http://kawasusu.exblog.jp/)に、「読者書評の募集」を書き込む。自前のメディアを持っているヒト、先着15人に見本ができ次第、本を送り、自由に書評(紹介記事)を書いてもらうという試み。すぐお二人から申し込みがあった。


7時前に出て、〈書肆アクセス〉。『ふるほん福岡』第3号を買う。柳瀬徹さんと待ち合わせ、3軒隣の〈浅野屋〉へ。1時間ほど話していると、今日大阪からやってきた前田和彦くんが合流。さらに、畠中さんも加わり、11時半まで飲みながら話す。あー、気の置けない連中と本音を話すのって、気持ちイイっす。前田くんを谷中のアパートまで送り届け、ウチに帰ったのは1時だった。


ウチには、掲載誌が複数届いていた。『彷書月刊』12月号の特集は「明治のクリスマス」。ぼくの連載は「ウラゲツ☆ブログ」(http://urag.exblog.jp/)の小林浩さんを取材。『暮しの手帖』2005年冬号には、「暮らしと本と 不忍界隈本棚めぐり」が掲載。7ページで、写真たっぷりの記事。「不忍ブックストリート」から派生した記事では、ぼく自身がいちばん納得できるものになった。取材に協力してくださった皆さん、編集のMさんとカメラのHさん、ありがとうございます。次のページには、林哲夫さんが次号で「楽しい挟み込みコレクション」を紹介するという予告あり。『銀花』2005年冬号の「書物雑記」では、『和本入門』(平凡社)の著者である誠心堂書店・橋口候之介さんをインタビューしました。その数ページあとに近代ナリコさんに『モダンジュース』のコトを聞いた2ページの記事があるが、しばらく新しい号の出ていないこのミニコミを「いま、なぜ取り上げるのか」という視点が不在なのが惜しい。あと、コレは掲載誌ではないが、「影への隠遁Blog」(http://blog.7th-sense.sub.jp/)で書かれていた、山崎邦紀さんが企画出版した畑中純『ミゝズク通信』(1979年、茫洋社発行。850円)を注文したのが、届いていた。かなり立派なつくりの本で、驚いた。