「誰かに贈物をするような心で書けたらなあ」(小山清)

朝8時半起き。来年P社から出る海野弘さんのエッセイ集の、書きおろし部分を入力したゲラが一部分出てきたので、そのチェックをする。たまたま付けていたNHKで、《ふたりでマゴまご!》というバラエティ番組をやっている。泉谷しげるとか柳生博などの孫を持つ有名人をスタジオに呼んで、彼らの孫自慢を聞かされるという恐ろしい内容。そのセットには、「カフェ・ド・マゴ」とある。電気グルーヴに「カフェ・ド・鬼」という曲があったよなあと思って、笑ってしまう。そのあと、「あっそうか、コレは、カフェ・ドゥ・マゴのシャレなのか」と気づいて、旬公に云うと、「いまごろ気づいたの?」とアキレられた。


フロに入って11時半に出かける。阿佐ヶ谷に着き、駅前の〈丸長〉で半チャンラーメンを食べて、今日も〈ラピュタ阿佐ヶ谷〉のミステリ映画特集。先日買った当日券の3回券(2700円)の1回分が残っていたので、それを提示し、新しい3回券を買おうとしたら、受付に「水曜日は1000円均一」の表示が。それを見たら、なんだか得な気がして、3回券を引っ込めて1000円で2枚買う。買った直後に気づいたのだが、3回券なら1回900円になるのだから、考えるまでもなくそちらが安い。わざわざ高い方を選ぶなんて……。大失敗だった。まず、堀川弘通監督《悪の紋章》(1964)。例によって、暗くなって5分で気持ちよく寝てしまったので、目覚めてからストーリーを飲み込むのに時間がかかる。山崎努の刑事が、麻薬での贈賄の罪を着せられ、2年間服役する。出所後、背後にある事情を探るために、非情な男になって立ち回る。しかし、橋本忍の脚本のせいなのか、妙に間延びしてハナシがくどい。どうみても130分の長さの題材じゃないだろう。中盤に玉造温泉松江駅が出てきたのは、出雲人としてはよかったけど。


もう一本は、蔵原惟繕監督《ある脅迫》(1960)。原作は多岐川恭。《悪の紋章》のちょうど半分の長さしかないが、コレがおもしろかった。直江津の銀行支店を舞台に、栄転を間近に控えた金子信雄と、その幼馴染でうだつのあがらない平行員の西村晃との葛藤を描く。ワンシーン、ワンシーンがきびきびしていて、無駄がなかった。拾い物だった。


終わってから、北口の通りを7、8分歩いたトコロにある〈元我堂〉という古本屋へ。以前から行きたかったが、なかなかコッチのほうまで来る機会はなかった。しかし、たどり着いてみたら、シャッターが閉まっている。貼り紙を見ると、日替わり店長とかで、開店時間も曜日によって違う。今日は5時開店というコトなので、その辺を散歩したり、中古CD屋に入って時間をつぶし、5時過ぎにもう一度行ってみるが、まったく開く気配ナシ。どこにも電話番号が書いてないし、しょうがないので今日はあきらめる。しかし、このまま帰るとなんとなく落ち着かないカンジがして、〈TSUTAYA〉を覗いてみたり、南口のほうをちょっと歩いたりする。〈ホープ軒〉の通りの先に、開店準備中の古本屋を発見。〈風船虫〉という名前で、絶版文庫、文学、幻想、怪奇、美術、雑誌などを扱うとある。「11月中旬オープン」ともあるが、もう下旬に入ってます……。開店までときどき覗いてみるか。その近くの〈栗田書店〉に7、8年ぶりに入ってみる。エロ雑誌と文庫が中心の店というイメージしかなかったが、意外と硬めの本がかなり多く、しかも安い。マキノ雅裕『マキノ雅裕女優志 情』(草風社)1000円、松本清張『突風』(中公文庫)70円、ルネ・ドゥ・ベルヴァル『パリ1930年代 詩人の回想』(新潮文庫)50円、を買う。


ラピュタへの行き帰りに読んでいた、小山清作品集『日々の麺麭・風貌』(講談社文芸文庫)をウチに帰ってから最後まで読む。一編一編が身に染みた。とくに、浅草の新吉原で育った幸福な少年時代を回想する「桜林」が絶品。他の作品で、青年になってから以後の小山清の苦労多き人生を知っているからこそ、この「私たちのたけくらべの時代」が輝いて見える。また、主人公が女の子と一緒に、山谷から橋場を通り、墨田堤沿いに歩いて、堀切、四ツ木まで歩くシーンは、当時の下町のスケッチとして貴重。堀切直人さんの『浅草』シリーズには、小山清の作品は入っていただろうか、とパラパラめくってみるが、探しようが悪いのか、見つからなかった。小さなエピソードを重ねていく「落穂拾い」には、「誰かに贈物をするような心で書けたらなあ」という一節があった。このコトバ、覚えておこう。小山清がもう少し読みたくて、手近の山を探ってみると、奇跡的にスッと、新潮文庫の復刊『落穂拾ひ・聖アンデルセン』と、エッセイ集『二人の友』(審美社)が出てきた。コレはもう読むしかない。


夜は、ホタテ、エビ、イカなどのシーフード・カレー。食べ終わって、海野弘エッセイ集に収録する雑誌掲載文を整理する。これも入力を始めてもらうことにする。旬公と田端新町まで歩き、〈ブックマート〉の100円均一で、内田百間まあだかい』(福武文庫)を買う。