ナニかを選ぶことは、ナニかを捨てることなのだ

朝8時起き。朝風呂に入って、阿佐ヶ谷に出かける。〈ラピュタ阿佐ヶ谷〉に10時10分に着くと、モーニングショーのチケット売り場にヒトが並んでいる。満員に近い盛況。「芦川いづみスペシャル」だからだろうか? 小声で告白すると、ワタシ、芦川いづみの顔がすごく好きなんです(キャッ)。とはいえ、未見の映画が多く、この特集も楽しみにしてたのだが、やっと来るコトができた。


今日は、中平康監督《あした晴れるか》(1960)。冒頭、石原裕次郎が神田の青果市場(やっちゃ場)でセリのフリ手をやっているシーンで、一度観ていることに気づく。裕次郎が若手のカメラマンで、さくらフィルムの「東京探検」という企画に抜擢され、宣伝部員の芦川いづみと東京を回る、というオハナシだった。中平康らしい、目が回るようなテンポと意表をつく展開の連続。東京探検がテーマだけに、深川八幡、佃島、銀座など、東京の風景が楽しめる。芦川いづみは、眼鏡を掛けた気が強い才女というありがちな設定。自分の思い通りにいかないと口の端をゆがめる表情が絶品なり。脇の中原早苗(バーの女給)、杉山俊夫(芦川の弟)、西村晃(宣伝部長)らもイイ。裕次郎が夜の街で意気投合するオヤジは、殿山泰司。助監督は西村昭五郎。初見のときよりももっと楽しめた気がする。


この特集は12月まで続くが、ラピュタでは同時に「ミステリ劇場へようこそ」という特集をやってるコトを、今日になって知った。このラインナップがすごい。仁木悦子原作の《猫は知っていた》、井上梅次の傑作(むかし〈大井武蔵野館〉で観た)《死の十字路》、福田純の《情無用の罠》、鈴木英夫《悪の階段》、新東宝の《憲兵とバラバラ死美人》など32作品。どれも上映される機会の少ない作品だけに、観ておきたいもの多し。あと、レイトショーの「渥美マリ伝説」も気になる。12月はさらに、〈シネマアートン下北沢〉の「美術監督特集」、〈シネスイッチ銀座〉の「松竹110年祭」などもある。そうだ、昨日は〈フィルムセンター〉で斎藤寅二郎監督《思ひつき夫人》[短縮版](1939)をやってたのだが、行けなくて残念。原作(平井房人)は持ってるんだけど……。フィルムセンターでは今日から中川信夫特集もやってるではないか! マジに体が二つほしいです。ナニかを観ることを選ぶということは、別のナニかに費やす時間や可能性を捨てることなのだ。まあ、あまりそんなコトを考えすぎると、それはそれで窮屈な生活になってしまうけど。


吉祥寺に行き、〈げんせん館〉で、小田基『二〇年代・パリ あの作家たちの青春』(研究社)1800円、中井英夫中井英夫戦中日記 彼方より〈完全版〉』(河出書房新社)1200円と、レジ前にあった文庫版の川上不盡編『川上澄生の世界』(二見書房)800円、を買う。その通りにある餃子屋〈ハルピン〉で、エビ餃子の定食。鮭が入っている餃子が食べたかったが、売り切れ。餃子は皮が厚くて美味しかった。そのあと〈上々堂〉で、「古書モクロー」棚の精算分をもらう。5000円近い画集が売れ、復刻マッチがよく売れているので、今回は7000円ちょい。その金で、いしかわじゅん『いしかわ式』(アスキー)800円、小林勇『遠いあし音』(文藝春秋新社)1000円、富島健夫『早稲田の阿呆たち』(集英社)300円、唐十郎下谷万年町物語』(中公文庫)500円、T・コラゲッサン・ボイルケロッグ博士』(新潮文庫)105円、を買う。しばらく(もう半年ぐらい)五反田の古書展に行ってないので、このあと回ろうかと思っていたが、あとのコトが気になってヤメて、素直にウチに帰る。


ちょっと休んだり、選択したり、日暮里図書館に行ったりしたあと、原稿を一本書く。7時に出て、〈古書ほうろう〉で国枝史郎『怪しの館』(講談社)1500円を買う。未知谷の全集が刊行される以前、この「国枝史郎伝奇文庫」全28巻は古本屋でとても高かった。ココでしか読めない作品ばかりだった上に、横尾忠則の装幀が強烈だったからだ。揃いで5万円以上ついていたんじゃないかな。一時期は真剣に借金しての購入を考えたものだ(そのくせ、未知谷の全集が出たときは、買わずに済ませてしまった)。ぼくが持っているのは『蔦葛木曾桟』全3巻のみ。第28巻のこの短編集は初めて見た。〈往来堂書店〉で、黒川博行の新刊『暗礁』(幻冬舎)を買う。


NOMAD〉に行くと、山田さんが「『チェコマッチラベル』がいま出ている『Pen』に載ってたね」と教えてくれる。見てみると、たしかに書評欄に載っている。発売後しばらく経つのに、取り上げてくれてウレシイ。少しまっていると、先日のトークショーに来てくれたもたい涼子さんが来る。チェコ人の友人が来日しているというので、ここで待ち合わせていたのだ。その二人、ペトルさんとエレーンさんに挨拶。ペトルさんは昔マッチラベルを集めていたといい、バラのラベルを持って来ていた。欲しいのをくれるというので、何十枚か頂戴する。彼は子どものとき、マッチ工場の町・スシツェに行ったコトがあるそうだ。うらやましい。ぼくの拙い英語聞き取り力ではワカラナイところもあったが、いろいろハナシが聞けておもしろかった。ペトルさんはドイツ在住だが、いずれチェコで会いましょうと約束して、別れる。そのあと、ブックカフェ本のゲラをもう一度見直す。ブックカフェのリストもどうにか完成した。《やりすぎコージー》を見ていたら、2時半になってしまった。