台東区中央図書館さん、ありがとう

朝5時半に起きて、遅れに遅れた某誌の原稿を書く。8時に書き上げて、急いで準備をして出る。外は雨。バスに乗って、西浅草三丁目で降り、歩いて台東区中央図書館へ。今日はこの館の廃棄本セールの日だ。先日、ホームページで告知を見つけ、楽しみにしていた。同じ思いの連中は多いと見えて、20分前に到着したのに、館の前にはすでに50人ほどの列が。最初から10番目ぐらいには青柳さんがいる。熱心なヒトです。ぼくの後ろのおじいさんたちは、他区の図書館の廃棄本フェアにも行ってるようで、「文京区は◎月だ」とか「墨田区はもう終わった」などと情報交換してる。


9時、入口が開く。一階のロビーに、机が置かれ、その上にジャンル別に本が並べられている。最初の数十人にはカゴが与えられたが、ぼくの前でなくなり、本は抱えるしかない。目についた本をどんどん抜いていると、たちまち山ができてしまう。それを抱えて、人込みのナカを移動するのはタイヘンだった。机の下にも、本の詰められた箱が置いてある。区の職員は「下からは抜かないで下さい」と注意するが、本が見えているのに手が出ないワケがない。触らせたくないのなら、布でもかぶせておくべきだろう。


30分ほどで20 冊ぐらい見つけ、会計してもらう。単行本は50円、文庫・雑誌は10円。もっとも、図書館のシールが貼られているので、セドリには向かない。単行本以外には全集もあり、『荷風全集』や、国書刊行会の『世界幻想文学大系』の全巻揃いがあったが、ちょっと考えた末にヤメておく。そのあと、〈月夜と眼鏡〉のコンビに会ったら、しっかり『荷風全集』を全巻抱えていた。どうやって持って帰ったんだろう?


買った本を持って館内へ。いまのフェアの興奮覚めやらず、新入荷の棚の本も一冊50円で売っているような錯覚に陥った。休憩していると、青柳さんから電話が入り、近くの〈合羽橋カフェ〉とかいう喫茶店へ。モーニングサービスを頼み、お互いに収穫を見せ合う。青柳さんは、集英社吉田健一著作集とか、それ欲しかったなあ、という本を何冊も買っていた。話してるウチにむずむずしてきて、もう一度会場に戻る。〈ちょうちょぼっこ〉の次田史季さんとの待ち合わせもそっちのけで、新たに出された本を物色。文庫を中心にさらに15冊ほど買う。以下がその全リスト。


田村隆一『20世紀詩人の日曜日』マガジンハウス
鮎川哲也『こんな探偵小説が読みたい』晶文社
安岡章太郎『活動小屋のある風景』岩波書店
田中小実昌新宿ゴールデン街の人たち』中央公論社
野一色幹夫『夢のあとさき』潮流社←青柳さんに教えてもらった本
百目鬼恭三郎『風の文庫談義』文藝春秋
四方田犬彦『映画はもうすぐ百歳になる』筑摩書房
長谷川郁夫『われ発見せり 書肆ユリイカ伊達得夫』書肆山田
『回想のロシア・アヴァンギャルド』新時代社
井上章一『南蛮幻想』文藝春秋
矢川澄子野溝七生子というひと』晶文社
伊藤精介『浅草最終出口』晶文社
唐十郎特権的肉体論白水社
岡本綺堂日記』青蛙房
田辺聖子『道頓堀の雨に別れて以来なり』上・下、中央公論社
スタンリイ・エリン『特別料理』早川書房
(以上、各50円)


永倉万治『昭和30年代通信』ちくま文庫
都筑道夫『やぶにらみの時計』中公文庫
三島由紀夫『行動学入門』文春文庫
二葉亭四迷『平凡・私は懐疑派だ』講談社文芸文庫
日影丈吉『狐の鶏』講談社文庫
木々高太郎『光とその影・決闘』講談社大衆文学館
小峰元『ピタゴラス豆畑に死す』講談社文庫
小峰元『ソクラテス最後の弁明』講談社文庫
いしかわじゅん寒い朝ちくま文庫
小林信彦『家族漂流』文春文庫
五味康祐『スポーツマン一刀斎』講談社大衆文学館
内田魯庵魯庵の明治』講談社文芸文庫
河野典生『いつか、ギラギラする日々』集英社文庫
阿佐田哲也『無芸大食大睡眠』集英社文庫
九條今日子ムッシュウ・寺山修司ちくま文庫
ユリイカ』2002年2月臨時増刊号(特集「絵本の世界」)
ユリイカ』2002年10月臨時増刊号(総特集「矢川澄子・不滅の少女」)
ユリイカ』2003年10月号(特集「煙草異論」)
(以上、各10円)


全35冊。ホントはもう一回りしたかったのだが、持参した袋やビニール袋3つが一杯になり、コレ以上は物理的に持てないので諦める。それにしても、複本(複数の館で購入した本)だとは思うが、最近の本が多く廃棄されているのには驚く。買う側としては嬉しいのだが、今日買われなかった本たちがそのままツブされるであろうコトを思うと、複雑な気分でもある。ともあれ、欲しい本を安く分けてくれて、台東区中央図書館さん、ありがとう。来年も必ず行きますので。


青柳さんと別れ、次田さんとタクシーで三ノ輪駅の交差点へ。雨は上がった。国際通りのあたりで、アセテート中谷礼仁さんと待ち合わせ。中谷さんは現在大阪在住だが、生まれも育ちも三ノ輪だという。80歳になるお父さんも一緒に、行きつけだというそば屋へ。まだ開いてなかったので、国際通りをちょっと入ったところの古本屋〈田中書房〉へ。狭いながらも、文庫が充実していい店。また来よう。また戻って、〈角萬〉というそば屋へ。1階はスデに満席で、2階の座敷に上がる。大阪で会ったとき、「ぼくはココの蕎麦で育ったんです」と中谷さんがしきりに云っていたが、東京の蕎麦なのに、麺が太い。まるで、うどんかホウトウだ。ぼくは冷し肉そばというのを頼んだが、ずいぶん食べでがあった。戦前からこの地に住んでいるという、中谷さんのお父さんのハナシはじつにオモシロイ。この年で、お上に頼らず一人暮らしで、しかも反権力志向。昔は市民運動ミニコミも発行されていたという。この親にして、アセテートの中谷さんアリ、という気がしました。


二人と別れて、次田さんとバスに乗って西日暮里へ。荷物が重すぎるので、一度マンションに下ろしに行き、〈古書ほうろう〉へ御案内。そのあと目白や高田馬場に向かうツモリだったが、夕方に銀座に行きたいというので、不忍ブックストリート巡りに切り替える。〈いせ辰〉→〈ショップnakamura〉→〈往来堂書店〉→〈結構人ミルクホール〉(『東京人』1992年12月号〈特集「東京うまいもの屋さん列伝」〉と、久住昌之『小説 中華そば「江ぐち』新潮OH文庫、を買う)→〈青空洋品店〉→〈NOMAD〉→〈オヨヨ書林〉(江国滋『語録・編集鬼たち』産業能率短大出版部、を買う。650円)と回る。オヨヨで旬公と待ち合わせ。千代田線で次田さんと別れて、歩いてウチまで帰る。


旬公がオヨヨで買った、『牧神』(牧神社)1977年11月の特集「都市の肖像」を眺める。天沢退二郎荒川洋治の「わが都市体験」、片山健の絵、ベンヤミンの「パリ・鏡のなかの都市」、池内紀の「橋人間 カフカプラハ」、そして海野弘「パリの地下都市 バルザックユゴー」など。なかなか読ませる特集だなと思って、奥付を見たら、編集人は堀切直人さんだった。牧神社の嘱託(?)だったとは聞いていたが、こんな特集もやってたのだな。さすがである(ホントはココで、右文書院の『本との出会い、人との遭遇』がパッと出てくればイイのだが、例によって見つからず。各自、参照されよ)。内容もさることながら、巻末に載っている各社の広告がおもしろい。その版元は、白水社、幻燈社、南方社、れんが書房新社、国書刊行会、奇想天外社、すばる書房、南柯書局、立風書房青土社、イザラ書房、サバト(本来は漢字)館、青銅社、森開社、北冬書房沖積舎、月刊ペン社、書肆山田、社会思想社。どこもイイ本出してるんだよなあ。いま残っているのは、このうち8社ぐらいか。


本駒込図書館のポストに本を返し、生協で晩飯の買い物。夜は、キムチ鍋の残りと、〈マミーズ〉で買った豆腐のラザニア。ビデオで《ギガンティック》(2000、ドイツ)を観る。ハンブルグの街でウダウダしている三人組の青年の、ある一夜を描く。『中退アフロ田中』のようでもあり、『THE三名様』みたいでもある。映像がおもしろかった(とくにサッカーゲームのシーン)し、テクノ中心の音楽もヨカッタ。これは拾い物。


長くなってしまいました。ココまで付き合ってくださった方に、プレゼント。ダブリと知りつつ買った、長谷川郁夫『われ発見せり 書肆ユリイカ伊達得夫』を欲しい方に差し上げます。東京在住で、先着1名さまのみ受け付けます。神保町〈書肆アクセス〉に預けておきますので、受け取ってください。畠中さん、勝手に受け渡し場所にしてしまって、ごめん。