税務署のち石井輝男

9時起き。10月ももう終わりなんですね。はあ……。で、今月末までのノルマを果たしに、税務署まで自転車を走らせる。いまごろ? とアキレられるかもしれないが、平成15年、16年の確定申告の書類を出すためだ。この数日で経費を計算したのだが、平成15年の源泉徴収票(所得を証明するもの)がナゼか出てこなかった。税務署の人に、恐る恐るそのコトを云うと、銀行の通帳が必要だと云われる。とりあえず16年度の申告を済ませ、ウチに帰って以前の通帳を探していたら、それが入っている籠のナカに15年度の源泉徴収票がまとめて入れてあった。あー、助かった。急いで書類をつくり、また税務署に行き、16年度の申告を終える。


しかし、これで肩の荷が下りた、とはいかない。そもそも、いまごろになって二年分まとめて申告したのは、健康保険料の未納が土俵際まで来ていたからだ。この二年間は、ぼくと旬公の額面上の収入(経費を引く前)を合わせると、けっこうな額になり、申告を怠っていたために、その全額に対して保険料が発生していた。その額は、限度額(これ以上は高くならない)の年間53万円。そんなの払えませんよ、じゃあ早く申告してください、というやり取りを経て、今日に至ったのだった。だから、申告が終わったらその写しを持って、区役所に行った。まず、課税課に行き、申告が終わったことを報告。受付しましたという証明を持って、今度は保険課へ。事情を縷々説明し、この申告で保険料がいくらになるかを訊ねる。しかし、しばらく待った結果、返ってきたのは「あまり安くはなりません」という答えだった。窓口のヒトは計算式を示して丁寧に教えてくれたのだが、そもそも会社員が加入している健康保険に比べて、国民健康保険の保険料が高いというコトが、改めて判っただけだった。コレで、医者にかかるときは3割負担なんだから、やってられない。ちなみに、区役所の応対は昨今、かなり良くなっていると云われ、ぼくもそう感じるのだが、今日、ちょっとイヤな光景を目撃。ぼくの先に待っていたアジア系の女性に対する中年男の職員が、ものすごくぞんざいなのだ。「日本に住まわせてやっている」という態度が露骨だった。アンタは、日本国を背負ったツモリなのか? 一通り終わったので、脱力して、〈三岩〉で定食を食べる。


ウチに帰り、一休みしてから池袋へ。〈ジュンク堂書店〉へ。昨日、堀切さんが絶賛していた勝又浩『作家たちの往還』(鳥影社)をはじめ、大島一彦『小沼丹の藝 その他』(慧文社)、加藤政洋『花街 異空間の都市史』(朝日選書)、『spectator』2005年夏号、『映画芸術』413号、と買い込む。冊数は少ないが、高い本が混じっているので、1万円近くになる。1000円買うごとに「オリジナルトランプしおり」というのをくれて、「1ペア揃えば景品進呈」というのをやっている。あとで開けてみたら、1ペア揃ったけど、ナニくれるのかな? 『小沼丹の藝 その他』は、未知谷の小沼丹全集の編者の本で、書名どおり全体の3分の1が小沼についての文章。『spectator』はインド特集もおもしろそうだが、赤田祐一さんの横山泰三インタビュー(なんつー組み合わせだ!)が気になって。


新文芸坐〉に行き、石井輝男特集を観る。まず《黄色い風土》(1961)。鶴田浩二が週刊誌の記者とはミスマッチに思えるかもしれないが、深作欣二監督の《誇り高き挑戦》(1962)でも業界紙の記者役をやっている。この時期、インテリで押そうとしていたのか。押丹波哲郎が週刊誌のデスクなのは、イイカゲンそうなところも含めてはまり役だった。ラスト、自衛隊の射撃演習の場所に連れ込まれるのは、岡本喜八監督の《殺人狂時代》(1967)よりも早い。もう一本は、《実録三億円事件 時効成立》(1975)。この年12月に時効を迎える三億円事件をネタに、勝手に犯人像を描いた「実録」をつくってしまうイイカゲンさがいい。それをもっともらしく見せるために、捜査にあたった平塚八兵衛刑事のインタビューを冒頭に置いている。岡田裕介(黒ぶち眼鏡を掛けると「青空文庫」の富田倫生さんそっくり!)と小川真由美の犯人を、金子信雄のベテラン刑事が追い詰める。鏑木創による11拍子(?)の音楽が、スピード感あってよかった。


休憩時間や帰りの電車で、『映画芸術』の石井輝男追悼特集を読む。山際永三(新東宝石井輝男の助監督)、桂千穂内藤誠の鼎談と、『石井輝男映画魂』(ワイズ出版)の編者・福間健二の追悼文。どちらもナカナカ。『映画芸術』を買うのは初めてなので、パラパラめくっていたら、向井康介山下敦弘映画の脚本を多く書く)と荒井晴彦の対談が目に留まった。最初から最後まで、荒井が年下の向井に説教しているのが不快。編集長ならナニ云ってもいいのか? ただ、荒井の「青春なんだから、泣いたりわめいたりしてくれよ」というイカにも全共闘オヤジな発言に対して、向井がいなすでもなく自然に「でも、いましないんじゃないですかね。少なくとも僕の高校時代はそういうのなかったですね」と答えているのが、オモシロかった。しかし、2本読んだだけだが、この雑誌の談話のまとめ方はヒドイ。ハナシの流れがつくれてないし、意味不明の発言もある。その人の話の調子を生かして談話をある流れに落とし込んでいくのが、編集者の仕事だと思うのだが。


晩飯は、ブタのカシラ肉をオリーブオイルで焼いたもの。ウマイ。旬公が借りてきたビデオを観ているヨコで、原稿にアカを入れる。やっと三分の一終わる。〈往来堂書店〉の「不忍ブックストリートの選ぶ50冊」は今日で終了。笈入さんほか往来堂スタッフの皆さん、1ヶ月お疲れ様でした。本を選んだメンバーには、このあと、売上上位の発表というイベントが待っている。ドキドキ。ぼくの選んだのは無難な売れ行きではあったようだが、1位はムリそうだなあ。コレが終わったら、来月には〈書肆アクセス〉で、堀切直人さん、青柳隆雄さん、そしてぼくが選んだ「東京者(もん)」(仮題)というフェアが始まるのだった。アマチュアの分際で、古本を売ったり新刊を売ったり、忙しいことである。