五反田に行かずに逗子開成に行った

朝8時半起き。ちょっと寝過ごした。急いで西日暮里駅に行き、立ち食いそばを食べて、山手線で東京駅へ。車中の読書は、平岡正明『昭和ジャズ喫茶伝説』(平凡社)。この数日持ち歩いていたが、読了。おもしろくて、まだまだ読みたいカンジ。このタイトルではジャズ喫茶の回顧みたいだが、平岡正明のコトだから、当然ハナシはあっちにいきコッチにいきと、ジャズのアドリブのごとく自由自在。「時代相はガラス窓の外の風景として放っておく」(あとがき)方針が、かえって、時代の刻印をあざやかに浮かび上がらせてくれている。上野や谷中のジャズ喫茶も出てきて、「不忍ブックストリート」的にも興味深い。本書では小さなコトはあまり重要ではないし、揚げ足を取るわけではないのだが、ひとつだけ。永山則夫がアルバイトしていた店は、〈ジャズ・ヴィレッジ〉ではなく、〈ビレッジ・バンガード〉ではないだろうか(『60年代「燃える東京」を歩く』などを参照した限りでは)。この時期の新宿には、「ヴィレッジ」あるいは「ビレッジ」と付くジャズ喫茶が何店かあったようだ(〈ヴィレッジ・ゲイト〉という店もあった)。この辺は、ヘタな資料よりは、新宿に詳しい奥成達さんに訊けば一発だから、昨夜のコンサートのあとで訊こうと思っていたのだが、会えなくて残念。


【追記。さっき奥成さんと電話で話したのだが、〈ジャズ・ヴィレッジ〉は店内でハイミナールを飲む連中がいるなど、ガラの悪い店だったそうだ。中上健次などが溜まっていたとのこと。平岡本の「ギラギラ趣味の演出」の店という記述とかなりイメージが違う。また、ビートたけしがボーイとして働いていたのは〈びざーる〉ではないか、とも。この店には萩原朔美がよく来たらしい。『ifeel』2005年冬号(特集「新宿のイコンたち、60‘s」)のアンケートで、萩原はこの店に入り浸っているウチに、ボーイとして働くようになったと書いている。「この時、一緒にボーイをしていた四人(略)、その内の一人は、海外の映画祭で受賞したりしている。芸大教授の北野武監督である」。うーん、永山則夫が働いていたのは、〈ジャズ・ヴィレッジ〉なのか〈ビレッジ・バンガード〉なのか、まだワカラナイ。新宿歴史博物館の喫茶店展の図録を見たら載っているかもしれないが、例によって出てこない。なので、とりあえずココまで。】


大船で乗り換えて、逗子に着いたのは10時過ぎ。「なぎさ通り」という商店街を通り抜けて、逗子開成学園へ向かう。去年に続いて二回目の文化祭。買ったのは、鈴木信太郎『記憶の蜃気楼』、佐多稲子『月の宴』(以上、講談社文芸文庫)、スタインベック『気まぐれバス』などの文庫8冊、『獅子文六全集』(朝日新聞社)4冊、黒川洋『詩集 涙もろい男たち』(青娥書房)。黒川氏は秋山清の詩誌『コスモス』の同人で、『彷書月刊』にも寄稿しているヒト。『獅子文六全集』は全巻あったが、とても持ち帰れないしウチに置けないので、随筆の巻だけにした。『新青年』に書いた読み物から戦後のエッセイまで網羅してるので、持っておくと便利。ビニールカバーがベトベトしているので、あとで拭かないと。会計のとき、昨年とおなじ女性の先生にお礼を云われる。場所ふさぎな獅子文六を持っていってくださって……というニュアンスだった。


駅まで戻り、コインローカーに買った本を入れる。バスに乗って、森戸神社で降りる。スグ近くに〈魚佐〉がある。魚料理の店で、味も量も値段のリーズナブルなところも最高の店。昨年も逗子開成のあとに寄って、すっかり気に入った。前回は開店後に行ってかなり並んだので、今回は早めに。さすがに早すぎたらしく、一番乗り。少しすると後にヒトが並ぶ。雨が降ってきたので傘を差し、本を読みながら待つ。12時ちょっと前、「お待たせしました」の声がかかる。一人でも合席にせずに、ゆっくり座らせてくれるのが嬉しい。ミックスフライ定食(イワシ、アジ、ホタテ、カキ)とシラスおろしを食べる。ウマイ。ココは量が多いので、あとから入ってきた、おばあさんと熟年夫婦の三人組が、各自定食を頼んだ上に、2品も追加していて、大丈夫かと心配していたら、その後に入ってきた息子が、刺身定食とミックスフライ定食を一人で頼む。おそらくすさまじい量になったハズだが、食べ切れたのだろうか? もっともこの店では、みんな健啖家になるようで、ワリとたくさん注文している。


バスで駅に戻り、横須賀線に乗って品川へ。そこから飯田橋の病院へ行く。談話室には、旬公とアメリカ人のHくんが。資料を見ながら食肉のハナシをしていた。Hくんがサンカに興味を持っているというので、最近読んだ礫川全次『サンカと三角寛 消えた漂泊民をめぐる謎』(平凡社新書)を取り出し、サンカのハナシをひとくさり。周囲にいた善良な入院患者が、我々を異物のように眺めていたのは気のせいか。


ウチに帰り、ちょっと休んでから、単行本のゲラを見る。6時間ぐらいかけて、一冊分を見終わる。そろそろ発表してもイイかな。今度、右文書院から、川崎彰彦さんの『ぼくの早稲田時代』という小説が刊行されるのだ。大阪の『海浪』という同人誌(岡崎武志さんも何度か寄稿している)に連載されたもので、380ページに達する長篇だ。1950年代の早稲田在学中の青春を描いたもので、あっと驚くヒトたちも登場する。装幀は林哲夫さん、挟み込みの栞にも川崎さんと関係の深いお三方が寄稿。この本の編集をぼくがやってるのであった。いまのところ、12月上旬刊行予定。定価などが決まったらまたお知らせします。身体は疲れたが、調子が出てきたので、もう一冊のゲラを見る。こちらについては、近いうち(たぶん数日中)に発表します。3時すぎに区切りをつけ、寝たのは4時だった。


ちょっと追加。最近よく読んでいた「書物蔵」(http://d.hatena.ne.jp/shomotsubugyo/)が今日(10月23日)で閉鎖される。図書館学や図書館関係の資料を蒐集する過程を通して、さまざまな問題提起をしていく硬派なブログで気に入っていたのだが(ただ、「やつし」とはいえ、あの文体はちょっとね)。どんなヒトがやっているか会ってみたくなり、先日の「一部屋古本市」にお誘いしたところ、来てくださった。閉鎖は残念だが、今後もプライベートモードで書かれるようである。ブログ上でも古書展でもどこかでまたお会いできるのを楽しみにしている(って、今週の古書展で会ったりして)。