快適なる病室と早口の先生

朝早く(といっても6時)起きて、『暮しの手帖』に載る「暮しと本と 不忍界隈本棚めぐり」という原稿を書く。不忍ブックストリートのことならいくらでも書くコトがあるのだが、字数が短いので、まとめに手こずる。でも、ナンとか9時半に上がり、送信してから仕事場へ。朝早く(といっても6時)起きて、『暮しの手帖』に載る「暮しと本と 不忍界隈本棚めぐり」という原稿を書く。不忍ブックストリートのことならいくらでも書くコトがあるのだが、字数が短いので、まとめに手こずる。でも、ナンとか9時半に上がり、送信してから仕事場へ。右文書院より新刊、暮尾淳『ぼつぼつぼちら』(1700円)が届いていた。詩、俳句のほか、石垣りん、伊藤信吉、岡村昭彦への追悼文を収録。編集は堀切直人さん。


4時まで仕事して、飯田橋へ。病院に行き、旬公に会う。今回の病室は、以前よりちょっとだけスペースが広い。コレで仕事できると喜んでた。持ってくるモノをあれこれ頼まれる。しかし、そのあとM先生に聞いた説明では、前回よりは早く退院できるということで、いきなり不要になる。でもまあ、よかった。M先生はかなり早口で、ときどき聞き取れないことがある。ある言葉の書き方を訊いたときに、漢字を書いて「◎◎◎」と云ったので、反射的に「そうですね」と答えたら、「そうですねって、傷つくなあ」と。「字が下手だから読みにくいね」と云ったらしい。早口で卑下しないでください、肯定しちゃうから。


ウチに帰り、ビデオでジャッキー・チェン主演《香港国際警察》(2004)を観る。ストーリーはありがちだし、ジャッキーもそうとうお疲れのカンジだが、それでも最後まで見せる。そのあと、仕事の本を読んでいたら、たちまち1時になった。


では、〈往来堂〉フェアのテコ入れ第5弾。最後の本は、『60年代「燃える東京」を歩く』です。この本については、タイミングが合わず、書評で取り上げなかったので、新たに書くことにします。

本書は、1960年代に起きた重大事件・できごとを年代順に取り上げていくものだ。その事件とは、安保闘争(1960)、爆弾魔・草加次郎事件(1962)、吉展ちゃん誘拐事件(1963)、東京モノレール開業、東海道新幹線開業、東京オリンピック(以上1964)、ビートルズ来日(1966)、霞ヶ関超高層ビル永山則夫連続射殺事件、新宿騒乱、三億円強奪事件(1968)、東大紛争、アポロ11号月面軟着陸、天井桟敷状況劇場乱闘事件(1969)。最後のを除いては、教科書にも載るような著名な事件だ。


著者(日高恒太朗須藤靖貴山崎マキコが分担して執筆)は、これらの事件の経過をコンパクトにまとめ、新聞・雑誌の反応を伝える。また、当時の写真も掲載している。しかし、コレだけの内容であれば、先行している戦後史関係の本で十分であろう。本書のキモは、それぞれの事件に関連している場所を、自分たちの足でたどり直し、地図を作成しているトコロだ。この「コースガイド」があるからこそ、読者は、当時の人々の感覚をイメージするコトができたり、意外な事実を知ったりすることができるのだ。


たとえば、日比谷公園から国会図書館へ向かった安保反対のデモ行進を再現してみると、当時はナカッタ国会図書館の和式庭園にぶつかる。これは、霞ヶ関の官庁街が1960年代に形成されたために起こった変化で、「60年当時と大きく変わったのは、国会議事堂を取り囲む周辺道路が三角形から長方形になったことである」と著者は云う。つまり、いま国会議事堂の前に立ったとしても、当時の地図がアタマに描けなければ、事実とは微妙に違うということなのだ。


また、吉展ちゃん殺人事件で、死体が南千住の円通寺の敷地に埋められたことは知っていたが、それ以前、犯人と吉展ちゃんが、入谷から三ノ輪まで歩いたというコトははじめて知った。二人が出会った入谷南公園は、ひょっとして、ぼくがこないだ見に行ったマンションの隣にあった公園なのでは……。吉展ちゃんは、南千住の東京スタジアム(この頃はまだあった)の辺りで「おじさんの家までまだ遠いの。足が痛いよ」と泣いたそうだが、入谷からココまで自転車でも15分近くはかかる。その遠さが犯行を決めたのだ。


そして、連続射殺魔・永山則夫の章では、永山が住んでいた野方駅近くのアパートがいまも残っていることをつきとめる。また、永山は新宿のジャズ喫茶〈ビレッジ・バンガード〉で深夜勤務のボーイをしていたが、そのとき昼にボーイをしていたのがビートたけし(本書に序文を寄せている)であり、客には高校を卒業したばかりの中上健次がいた。


というように、本書では、地図を見ながら、1960年代の東京が実感できる。本文のレイアウトや注の入れ方など、編集も見事。「この本ではライターの取材に、企画者である担当編集者が全て同行している」(日高恒太朗「発奮させられた仕事」、『週刊読書人』2005年7月29日号)というが、さもありなん。編集の力が発揮された一冊なのである。