BOOKMANたちと一日中

昨夜、《タモリ倶楽部》の前にテレビをつけ、5分間の情報番組《あしたまにあーな》を見ていたら、今日が最終回とのこと。短い時間でいくつもの情報を、濱田マリのナレーションとともにテンポよく見せる番組なので、けっこう好きだったのだが。どうでもいいコメンテーターをいっぱい出してつくられるスカスカの情報番組などよりも、よっぽど存在価値のある番組のハズなのだが、7年間続いたということで、よしとすべきか。


8時半起き。テキパキと準備して、道灌山下のバス停へ。早稲田行きのバスに乗る。「早稲田青空古本祭」の初日である。10時10分前に穴八幡宮到着。初日が土曜日で好天気というコトもあり、かなりヒトが集まっていそうだ。階段下の文庫コーナーはスデに開いていて、20人ぐらいが群がっている。先にコチラを見る。小峰元『ソロンの鬼っ子たち』(文春文庫)、泡坂妻夫『亜愛一郎の狼狽』(創元推理文庫)、山口瞳『わが町』(角川文庫)、川端康成『浅草紅団』(春陽堂・日本小説文庫、昭和7)、『紙魚』7号(鳥取市民図書館の西尾肇氏が発行する文庫型雑誌)など7、8冊を一冊100〜200円で見つける。『浅草紅団』の奥付を見ると、印刷所・日東印刷、印刷者・木呂子斗鬼次とある。なんて読むのか、この名前は? 帳場で〈三楽書房〉のアキヒロくんに会計してもらう。アタマの剃り跡が青々としてるね。


本会場がオープンしたので、階段を上がる。やー、すごいヒトだ。「初日派」ではないぼくは、こういう混雑は苦手。人込みで見れない棚があったらパスするコトにして、とにかく一回りする。清藤碌郎『文壇資料 津軽文士群』(講談社)500円、里見トン『鶴亀』(生活社、昭和20)300円、鏑木清方『清方随筆選集』(双雅房、昭和19)400円、福岡隆『活字にならなかった話 速記五十年』(筑摩書房)400円、瀬川昌久『ジャズで踊って 舶来音楽芸能史』(サイマル出版会)600円、波潟剛『越境のアヴァンギャルド』(NTT出版)2400円などを見つける。あと、花森安治装幀の田宮虎彦『落城』(東京文庫、昭和26)400円と、花森安治戸板康二、芝木好子らが執筆した『東京だより』(朝日新聞社編、東京大学出版会)420円も。『東京だより』なんて本があることはゼンゼン知らなかったが、あとでBOOKMANの会のときに、「戸板康二ダイジェスト」(http://www.ne.jp/asahi/toita/yasuji/)の藤田加奈子さんに「この本、知ってる?」と訊いたら、当然持っていた。それと、出版ニュース社から出た上笙一郎『児童文化書々游々』1575円を見つけて、あとがきを見ると「一冊にまとめる仕事を負ってくださった出版ニュース社の鈴木康之さん」とあった。この鈴木康之さんが『市井作家列伝』の鈴木地蔵さんなのである。今日のBOOKMANの会で話していただくコトに関連するので、買っておく。会場では、セドロー牛イチローや、森洋介さんと会った。


会期中にもう一度来るコトにして、早稲田駅近くの早稲田中学・高校へと急ぐ。今日からココで文化祭があるのだ。入口付近では、パンフを配りながらあわよくば女の子を案内しようと待つ生徒たちと、それをクールな目で選別する女子高生ハンターたちの闘いがはじまっていた。とりあえずナカに入ってプログラムを見るが、古本市をやっている気配はナシ。じゃあ、用はないと1分で退去。東西線で大手町、丸の内線に乗り換えて銀座へ。並木通りの〈三州屋〉に入る。時間があるのでビールを一本。枝豆をつまみに飲み、そのあと銀ムツ煮を食べる。イイ気分になって外に出ると、まだ昼日中なので感覚が狂う。


12時半に〈フィルムセンター〉の成瀬巳喜男特集へ。1時からの映画がそろそろ開場だが、並んでいるヒトは50人ほどであんがい少ないと思って、最後尾につく。すると前のほうから、エレベーターで上げている。おかしいな、いつもなら階段なのに、と思ったら、後続の我々は階段の途中まで誘導され、ヨコに設置されている椅子に座らされる。そこで初めてわかったのだが、今日の映画は1時ではなく2時開始で、このヒトたちは1時間半も前から並んでいるのだ! 荷物さえ置いておけば、開場時間まで外に出ていてもいいようなので、近くの〈INAXブックギャラリー〉へ。しばらく前に改装したのだが、前を通るのがいつも休みの日で、やっと入れた。以前に比べると、スペースは狭くなったが、建築・民俗・芸術・江戸東京などのジャンルの品揃えのよさは相変わらずで、ホッとした。小泉和子ほか『占領軍住宅の記録』下巻(住まいの図書館出版局)、長嶋千聡ダンボールハウス』(ポプラ社)、渡辺裕之『汽車住宅物語 乗り物に住むということ』(INAX ALBUM)を買う。まだ時間があるので、上のギャラリーも覗くが、興が乗る展示ではなかった。


またフィルムセンターに戻ると、今度は100人ぐらい並んでいる。もとの場所に戻り、開場を待つ。客は中年・老年の男性が多いのだが、彼らはちょっとしたコトで喧嘩をする。今日も「うるさい!」などと怒鳴る声が。若者はキレやすいなんて云うけど、むしろオヤジやジイさんのほうが短気だよ。開場後、たちまち席は埋まり、全員を座らせるために警備員が右往左往。時間ちょうどに来たら、入場できなかったのではないか。映画は《あらくれ》(1957)。観るのは二回目だ。徳田秋声原作で、高峰秀子が現状に安住せずつねに動き続ける女を演ずる。相手の男も森雅之上原謙加東大介仲代達矢と変わり、舞台も東京、千葉、温泉地、また東京とめまぐるしく変わっていく(根津らしき場所も出てくる)。くどくど愚痴ったり落ち込んだりする男に対して、「そんなこと云ってもしょうがないでしょ」と突き放すトコロが誰かに似てるなあと思ったら、旬公だった。ウチも、情けない男と気丈な女という組み合わせなのである。


観終わって、まだ時間が余ったので、東京駅方面へ歩く。古本が重い。〈八重洲ブックセンター〉で、仕事の参考になる本を探す。そのあと、八重洲地下街の〈八重洲古書館〉へ。ココは意外な本が安く手に入る。『和田芳恵全集』のバラ(1、2巻)が各2800円であったが、荷物を考えて今日はヤメておく(ちょっと惜しかった)。倉本四郎『本の宇宙あるいはリリパットの遊泳』(平凡社)500円、を買う。丸の内線への通路を歩いていると、あまりに長いので疲れてきた。改札口にたどり着いたトコロで、女性に声をかけられる。おお、水声社の賀内麻由子さんじゃないの。水声社は今度、『水声通信』という月刊誌(PR誌にあらず)を出すそうな。15分ほど立ち話して別れる。


茗荷谷に着き、改札近くのパン屋でコーヒーを飲んで時間つぶし。10分前に改札に戻ると、鈴木地蔵さんと右文書院の青柳さんが待っていた。しばらくすると、今日の幹事であるアクセスの畠中さんがカートを引っ張って登場。「一箱古本市」で蛇行してすべてを破壊すると恐れられた、伝説のカートである。会場のほうへ歩き、喫茶店に入って、打ち合わせというか雑談。そのあと〈寿和苑〉へ。BOOKMANの会のメンバーのほか、「戸板康二ダイジェスト」「日用帳」(http://d.hatena.ne.jp/foujita/)の藤田加奈子さん、「晩鮭亭日常」(http://d.hatena.ne.jp/vanjacketei/)の晩鮭亭主人さん、未来社の小柳さんらも。鈴木地蔵さんのお話は、『市井作家列伝』成立前史とでも呼ぶべき内容で、高校のときから神保町を回りつくしていたこと、出版ニュース社に入って当時の新刊書をホトンド全部見たこと、飯能の仲間たちと雑誌『文游』をつくったことなどを丁寧に話してくださった。みんな興味深そうに聞いていた。最後に『市井作家列伝』の川崎長太郎の章に出てきた、川崎ファンの手製の川崎作品集(巻頭に雑誌に載った川崎のグラフ記事を置き、次に川崎長太郎論を、そして短篇を並べるというふうに、雑誌特集的な構成になっていた)を見せていただいた。


いつもの〈さくら水産〉に移って、二次会。小柳さんから彼女が企画した「テクストの祝祭日」というイベントのチラシをもらう。神保町ブックフェスティバルにあわせて、古書会館で催しを行なうもの。シアターピースによる演劇(坂口安吾のと横光利一の)や、松本昌次氏の「戦後文学と編集者」(10月29日、4時から)そして、堀切直人さんと鈴木地蔵さんの「私たちの神保町」(10月30日、4時から)というプログラム。どれもオモシロそうだ。飯能にお帰りになる鈴木さんほかの方々が出たあとで、荻原魚雷藤田晋也濱田研吾といった連中とワリとマジメな話をする。終電間際に解散。ウチに帰ったのは12時半。大荷物を抱えて移動し、本好きの人たちと会いまくった一日だった。