青春18きっぷで前橋−高崎へ

朝7時起き。日記をつけて、8時前に出かける。1枚分残っている青春18きっぷの期限が今日までなので、前橋や高崎の古本屋に行ってみようという計画。もうひとつ、今日から富士吉田市ではじまる「『まち』がミュージアム 富士吉田アートフェスティバル」に行くという選択肢もあった。街の中で古本市をやり、そこに〈上々堂〉が参加し、岡崎さんやぼくの本も並ぶ。また、町田忍氏の銭湯についてのトークもある。さいごまで迷ったが、今回は群馬の古本屋のほうへ軍配を。


朝飯は西日暮里駅の立ち食いそば。赤羽で高崎線に乗り換える。高崎には10時過ぎに着いてしまう。意外と近いのだなあ。反対側のホームで、前橋行きに乗る。ホームで20分ほど待ち、次の駅の「前橋大島」で降りる。駅前のロータリーと、見渡す限りナンにもない光景にクラクラする。今日も暑いんだよなあ。先日の小手指の悪夢がよみがえり、ココをまた30分ぐらい歩くのかと、不安になる。昨日、塩山さんにノートに描いてもらった地図を頼りに歩くが、15分ほどで目的の〈ブックオフ〉前橋広瀬店に着いてホッとする。中型の店舗で、少し古めの文庫にイイのがあった。塩山さんの日記によると、8月には、「何と半額棚の単行本3冊オール1000円均一セール」をやっていて、笙野頼子町田康福田和也小谷野敦など12冊ほどを買ったという(8月22日。塩山さんは「石倉店」と書いているが、前橋大島駅ならこの店のコトだろう)。ハゲタカがむさぼった後らしく、たしかに単行本にはイイのがなかった。買ったのはすべて105円で、斎藤隆介『職人衆昔ばなし』(文春文庫)、河野典生『殺意という名の家畜』(双葉文庫)、阿佐田哲也『ああ勝負師』(角川文庫)、有明夏夫『コンピュータを撃て』(文藝春秋)、篠原勝之『人生はデーヤモンド』(情報センター出版局)ほか。


また同じ道を戻ると、汗が噴き出す。タオルを持ってきてヨカッタ。上り電車で前橋駅へ。駅の出口に吉野家やドラッグストアが入っていて、ちょっと離れたトコロから見ると、駅の表示よりもそれらの店の看板のほうが大きい。駅前通りは、ケヤキの大木が左右に並んんでいる。不思議なのは、あまり大きな建物がないこと。まるで、昭和30年代の商店街のような風景だ。地方都市の駅前通りが寂れているのは、近年ドコでも同じだが、このケヤキ通りの寂れ方には(ヘンな云いかただが)年季が入っているように思えた。


その道をまっすぐ行き、歩道橋を渡ったところに、〈大成堂書店〉がある。店内は雑然としていて、棚と棚の間に置かれた本の山やガラクタを避けながら、移動しなければならない。イイ本(薄田泣菫の函つき初版本など)は目につくが、しっかりと高い。隅っこの箱から、色川武大『ぼうふら漂遊記』(新潮文庫)140円を拾い出す。古書店地図を見ながら県庁のほうへ歩き、〈大閑堂書店〉を探すが、目的の番地は駐車場になっている。あとでもらった「群馬県古書店地図」を見ると、かなり遠くに移転している。事前にネットで調べておくべきだった。


近くの〈煥乎堂〉本店へ。リブロ池袋の今泉正光氏が店長となったコトで知られる店。もう、今泉さんはいないけど。1階と2階を見るが、新刊コーナーにかなり地味な本も並んでいた。その隣に商店街があり、そこの入口の〈玉川屋〉というそば屋へ。「とんかつうどん」というのがあり、頼んでみる。「冷しもできますよ」というので、そうする。出来上がったのは、冷しうどんの上に、湯気の立つトンカツが載り、ミツバとトマトが添えられているという珍妙な眺めで、コレにわさびと刻みネギを載せて食べるのだ。うまいことはウマイのだが、ミスマッチ感のぬぐえないメニューであった。


大通りを避けて、裏道を通って駅のほうへ。この辺は、靴屋とか服屋の古い建物が残っている。コンクリートの奥に長い平屋で、前面を店舗、奥を住居にしている。建築用語を知らないので、書いていてもどかしいが、かなりオモシロイ建物だった。駅に戻り、また登り電車で高崎へ。


高崎は、時間の止まったような前橋と打って変わり、若者向けの店の多い街だった。西口の駅前通りを歩き、新町の信号を左に折れたトコロにある〈みやま書店〉へ。外台の2冊100円の文庫棚から、佐野繁次郎が装幀した集英社文庫版の五木寛之『風に吹かれて』を発見。コレは嬉しい。もう一冊は、小島信夫アメリカン・スクール』。店内も文庫が豊富。全体に棚がよく整理されている。河野典生『探偵(ターザン)はいま鉄板の上』(徳間文庫)100円、ほかを買う。


新町の交差点に戻り、桧物町へ。〈文京堂〉という古本屋を探すが、見つからず、通りの端まで行ってしまう。もう一度、戻ってみると、ちょっと引っ込んだところにあった。入口を開けっ放しにしている、典型的なやる気のない系(本がほとんど入れ替わらない)の店。しかし、こういう店は意外といい本が安く見つかるのだ。中薗英助『地下の楽譜』(徳間文庫)、北條民雄いのちの初夜』(角川文庫)がいずれも120円で見つかる。しかし、まだナニかありそうだ。真ん中の棚と棚との間には本が山積みされ、入り込む術がないのだが、覗き込むようにして見てみると、田中小実昌『オチョロ船の港』(泰流社)の帯つきが差してある。店のおじいさんを呼んで、「あの本が見たい」というと、棚の裏から反対側の棚の本をどけて取ってくれた。値段を見ると200円。もちろん(内心ガッツポーズで)購入。この本と『風に吹かれて』で、ココまで来た甲斐はあった。


さらに高崎神社の方へ歩き、〈赤坂堂書店〉へ。今日訪れた店で、もっとも大きな店。本もよく揃っている。小山清『二人の友』(審美社)1575円と、海野弘ジャズ・エイジの街角』(冬樹社)700円を買う。前者はエッセイ集で、太宰治のことや「浅草回顧」という文章も入っている。このヒトは浅草生まれなのである。近くのバス停からバスに乗って、高崎駅へ戻る。いつもお世話になる、野村宏平『ミステリーファンのための古書店ガイド』(光文社文庫)によると、駅ビルに新古書店が入っているというコトだが、さんざん探しても見つからず。撤退したか。また、東側に〈ほんだらけ〉があるのだが、電話してみると駅から相当歩くようなので、今日は諦める。


上野行きの電車に乗ると、疲れが出て居眠りしてしまった。赤羽で乗り換えて、ウチへ。今日は池袋でオフノート・レーベルのライブがあったのだが、とても行く気力が起きず、失礼してしまった。〈NOMAD〉から電話があり、本や復刻マッチが足りなくなったというコトで、納品に行く。熱心に見てくれるお客さんが多いそうで、嬉しい。晩飯(なんだっけ?)を食べて、早々に布団に入る。青春18きっぷを有効利用できた一日であった。