図書館で読む私小説

8時半起き。今日から9月に入った。早いねえ。まだしばらく暑さは続きそうだけど。10時過ぎに、本駒込図書館へ。仕事をはじめる前に、『群像』9月号の西村賢太「どうで死ぬ身の一踊り」という小説を読む。毎日新聞文芸時評でこの小説が取り上げられていて、読みたくなった。西村氏は、予告が出てから数年間、いまだ姿を現さない、朝日書林の『藤澤清造全集』の編者である。ぼくと同じ年(1967年生)だが、藤澤清造に惚れ込み、自身もそれをなぞったような無頼の生活を送っているコトは、金沢で『藤澤清造貧困小説集』(粕井均編)を出している亀鳴屋(http://www.spacelan.ne.jp/~kamenaku/)の勝井さんからうかがっていた。以前『群像』に載った小説のコピーも、勝井さんから送っていただいている。【西村氏が亀鳴屋の『藤澤清造貧困小説集』の編者だと書きましたが、マチガイでしたので、訂正します。勝井さん、すみません。9月2日訂正】


で、今回の「どうで死ぬ身の一踊り」は55ページ(150枚以上)あって、いつものぼくなら、図書館の閲覧席で読みとおす気力が出てこない量なのだが、この小説に関しては、読み出したら止まらず、1時間ほどかけて最後まで読んだ。能登の七尾にある藤澤清造菩提寺で行なわれる「清造忌」へ、東京から主人公が向かうトコロから話がはじまる。出がけに女と口論して、羽田からの飛行機に乗り遅れ、時間をもてあまして、バスで大田区にある母方の墓所を訪れる。その墓の侘しさから、親が起こした事件や本人が無頼の生活に入った時期のコトが語られる。次に、七尾での「清造忌」の場面となり、主人公が清造になみなみならず自己投影している様子が描かれる。そして、東京に戻ると、同棲している女との葛藤が。清造全集のための費用を女の実家に出させ、生活費は入れず、しかもときどき激昂して女を殴る。清造への執念と、女への愛憎が錯綜する。ことに、金沢で清造の第一級資料を(おそらくタダで)手に入れ、小躍りして東京に戻った日に、女との決定的な亀裂が起こるシーンには、身震いがした。このあともイロイロあり、最後は清造の墓のヨコに自分の墓をつくる。墓ではじまって、墓で終わるハナシなのだ。身を切るようにして書かれた私小説だと思う。前作も含め、早い時期の単行本化を望む。


そのあと、編集を担当する原稿を読む。手書きの原稿なので、著者の文字使いに慣れるまで、しばらくは内容がアタマに入ってこないが、そのうちスッと読めるようになる。それからが、生原稿を読む楽しみである。2時間掛けて、三分の一ほど終える。図書館を出て、〈ときわ食堂〉で、日替わりの定食(サンマ焼き)と豚汁。昨日の台湾の新聞のカラーコピーを、〈古書ほうろう〉と〈往来堂書店〉に届ける。往来堂で、しりあがり寿祖父江慎『オヤジ国憲法で行こう!』(理論社YA新書)、村松友視幸田文のマッチ箱』(河出書房新社)、星新一『天国からの道』(新潮文庫)、紀田順一郎東雅夫編『日本怪奇小説傑作集』第一巻(創元推理文庫)、小田扉団地ともお』第5巻(小学館)、野中英次魁!!クロマティ高校』第14巻(講談社)を買う。このうち4冊は、『進学レーダー』で紹介するツモリの本である。


ウチに帰ると、『pen』9月15日号が届いている。特集は「あなたの知らないソウルの旅へ」。リサーチの段階でヒトを紹介したので、そのお礼だろう。パラパラ見るが、出版団地の近くにある「ヘイリ芸術村」の中に、ブックカフェがあるというのは知らなかった。


3時半に出かけて、広尾へ。今月の『彷書月刊』で岡崎武志さんが紹介していた、〈古書一路〉(http://home.k01.itscom.net/ichiro/)に行く。高級住宅街のマンションの一室なので、ちょっとビビッたが、ご主人が「一箱古本市」でぼくを見かけておられたというコトで、気軽にハナシができた。アイスコーヒーを2杯もご馳走になる。真鍋博装幀の山川方夫『日々の死』(署名入り)1万5000円、野口冨士男『暗い夜の私』2700円、などに心惹かれるが、いまは分不相応とガマンして、図書館で借りて読んだが手元に置きたかった小田嶽夫『文学青春群像』(南北社)2000円、河盛好蔵編『作家の素顔』(駸々堂)1500円、藤島泰輔『東京 山の手の人々』(サンケイ出版)900円、を購入する。


外に出て、バス停の場所を教えていただく。近くの病院前からバスに乗り、恵比寿へ。駅前で時間をつぶし、そろそろイイかと、ガーデンプレイスのほうに向かう。しかし、目的の写真美術館がいちばん奥にあるコトを忘れていた。ホールの「チェコ映画祭」会場にたどり着いたのは、上映開始直前。今日観たのは《新しい毎朝をありがとう》(1994)という作品で、1968年以降のプラハにおけるウクライナ出身者の一家という設定が飲み込めないと、ついていけない部分もあったが、コミカルな描写が多く、けっこうオモシロかった。終わって、恵比寿駅まで歩き、山手線で帰ってくる。